第13話クエストをこなそう(頭にエクセルでも積んでらっしゃる?)
「とりあえず、目下の目標はバーゼラルエッジを買うことにしたわけだが……どうしたもんか」
余った収集品をまた買取屋に売ろうとしたが、どうやら今はパンクしていて買い取れないらしい。
時間を置いてから来て欲しいとのことだ。多分クールタイムが設定されているんだろうな。
時間がどの程度かはわからないから、ちょいちょい見に来るしかなさそうだ。
「また狩りをするものいいが、もう少し街を見て回りたいな。美味いイベントとかあるかもだし」
殆どの街にはイベントが仕込まれており、それをこなすことで報酬を貰うことが可能なのだ。
大抵は大したものは貰えないが、時には美味いイベントもある。大量の金や経験値、レアなアイテムが手に入るかもしれないし、たまにはそういうのを探すのもいいだろう。
「よし、そうと決まれば街の人に話を聞きまくってみるか」
そして俺はNPCと片っ端から話をしていく。
「うえーんうえーん! お兄ちゃんが飴玉落としたぁー! 新しいのが欲しいよぉー!」
「困ったなぁ。最近屋根裏に蛇が出るんじゃよ。誰か退治してくれる者はおらんかのう……」
「おっ、兄さんいい身体してるね。良かったらバイトしてみないかい?」
「この辺りは魔物が強くて地図が作れんのだ。私が指定する場所に行ってくれると助かるのだが」
「水を汲みたいの。道中の魔物を倒してくれないかしら?」
発生したクエストを全部まとめて引き受けていく。
こういうのは同時進行が基本だ。
一つずつこなしていると、二度手間三度手間になるからな。
えーと、ここでアイテムを買って。こっちで魔物を狩って、と。
初級クエストだからか先んじて必要なものを説明してくれるので、頭の中で順序立てて進めていけばスムーズに終わるのだ。
◆
――すげぇ……複数のクエストを同時に進行してやがる……しかも全然無駄がない動きだぜ。
――簡単なクエストは最初に手順が説明されるとはいえ、あれ見ただけで頭に入ってるんだろうか。だって初見だろ。おかしくね?
――俺無理だわ。こういうのめんどいから見てるだけで頭痛してくる。
――私も。狩りをしているうちに忘れちゃう絶対。
――相当地頭が良くないとできないわなぁ。憧れるわ。
◆
「――ふぅ、こんなもんだろ」
二時間程走り回って、街のクエストが大体終わった。
報酬は……正直微々たるもので、とてもではないがバーゼラルエッジを買える額には達してない。
だがクエストを進めるに辺り、俺は一つの大きな物語を知った。
まとめるとこんな感じだ。――奈落という大陸は、地下深くに空いた大穴の上に作られたものである。
大穴の下にはダンジョンが広がっており、最奥にいる城にはその主、魔血皇女のモリガンとやらがいるという。
「恐らくだが、レイドボスってやつだろうな」
レイドボスとは俺が先日倒したデッドベアーのようなソロやペアでも倒せる雑魚ボスとは違い、数人がかりで挑むようなイかれた強さを持つボスのことだ。
サーガをやり込んでいた父のプレイを横で見ていたが、あらゆる攻撃が即死級。
支援が切れたら数秒で崩壊、前衛はポーションをがぶ飲みし、後衛はゾンビアタックを繰り返してHPを削り、そんな戦いを数時間やってようやく倒せるような反則級の強さを持つモンスターである。
ま、基本的にはダンジョンの奥深くにいる為、ソロプレイ中心である俺には関係ない話なのだが。
「さて、適度にイベントも終えたところで、狩りを再開しますか!」
ここ奈落にはほとんどプレイヤーはいないようだが、とはいえいつ来るかわかったものではない。
そうなれば一点物のバーゼラルエッジが買われてしまうことは必死。なんとかその前に手に入れたいところだ。
「つまり、出来るだけ高額アイテムを落とすモンスターを狩るのがいいだろうな」
モンスターの落とす収集品は、当然種類によって値段が違う。
さっきアイテムを売る時にその値段を確認していたが――柔らかい毛が50ギル、硬い皮が300ギル、蛍光色の角が3500ギル、魔獣の爪が500ギル、という感じだった。
その中で最も高価なのが蛍光色の角、所謂プチレアというやつだろう。
これを落としたのはニジイロカブトという巨大な昆虫型のモンスターである。
「おっと、噂をすればだな」
「ギシギシギシギシ……!」
軋むような音を立てながら現れたのはギラギラと色付き眼鏡のように輝くカブトムシ。
虹色に輝く複眼が俺を見つめている。
ここへ来る道中に何度か倒したが意外に硬く、戦闘時間の割にドロップ率は低い。
普通に戦えば正直言ってあまり金銭効率の高い敵とは言えないだろう。
――だが今の俺には『アレ』がある。
先刻購入したダークマントには装備するだけで盗賊のスキル『スティール』が使える効果があるのだ。
こいつは読んで字の如く、相手の持っているアイテムを奪取するというスキル。
同じモンスターには一度しか入れられないという制限はあるが、金稼ぎ的には非常に有利なスキルである。
「というわけで早速――『スティール』!」
チャリーンと音がして蛍光色の角を入手、というポップが上がる。
よし、スティール成功。あっさり取れたな。
あとは倒すだけである。バシバシ殴って撃破する。
さ、どんどん行くぞー。
◆
――ダークマント装備するだけでスティール使えるのかよ。まじでいいなぁー。
――スティールって相手よりDEXが高くないと盗めないよな。ニジイロカブトはかなりDEX高いはずなのによくあんなすぐ取れるもんだ。
――ユートさんはDEX高めだからな。とはいえ確かにあっさりすぎたよな。普通にやったら連打でSP枯渇するだろ。
――ありゃただのスティールじゃねぇ。あのスキル、距離によって補正があるんだよ。あいつはゼロ距離、触れた状態でスティールしていた……!
――まさか!? いくらノロいニジイロカブトでもゼロ距離まで近づくのは厳しいだろ!? 神回避にも程があるぜ。
――でもやってるんだから仕方ないじゃん。ゼロスティとでも名付けとく? 誰も出来なそうだけど。
――ノンアクティブ相手なら使えるだろ! いい加減にしろ!
◆
そうしてニジイロカブトを狩ることしばし、不意に空が暗くなっていることに気づく。
「あれ……まだ夜の時間じゃない……よな?」
このゲームでは現実世界の十倍程度の速さで時間が流れており、一日が2.4時間で経過する。
狩りを始めたのは昼ぐらいだったが、まだ三十分も経ってない。
しかも星一つ無い真の闇だ。そんな闇に気持ちを飲まれていると、
「Ah〜lalalala〜♪」
どこからか音……いや、歌が聞こえてくる。
一体どこから……? 耳を澄ましていると、不意にキーンと耳障りな音が鳴り響く。
「うわっ!?」
同時にコウモリの大群が俺の眼前を横切る。
慌てて振り払う俺の前に現れたのは――漆黒のマントを靡かせる真っ白い女性、であった。
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