第11話ゲームに帰る


「……なるほど、大体の話は聞かせて貰ったよ。ありがとう神谷」


視聴覚室にて、俺は山田先生から取り調べを受けていた。

ちなみに海堂は隣の部屋で他の先生から俺同様話を聞かれている。

ここへくる途中にチラッと見た感じでは、俺とは違い数人の先生方から相当詰められているようだった。


「しかし神谷があの悪たれを懲らしめるとはな。教師としていうべきことではないかもしれんが、スカッとしたぞ!」


そう言って快活に笑ったあと、山田先生は苦い笑みを浮かべる。


「……本当はその前に我々教師が虐めをやめさせねばならん、というのはわかっていたのだ。何度か海堂には注意していたが、あいつも中々狡猾でな。大人としては決定的な証拠がなければ追い込むことはできんのだよ。言い訳に過ぎないのはわかっているが、すまなかった! 許してくれ!」


大きく頭を下げる山田先生に、俺は首を横に振って答える。


「気にしないで下さい。そもそも彼は先生の目を避けて俺を虐めてましたから。気づいていてくれたというだけでも嬉しいです」


色々な先生方が海堂を嗜める場面は何度かあったが、子供なんてのは大人の目を盗んで動くものだ。

結局決定的な事件にまで発展しなければ手出しはできないものなのである。

じゃなきゃ傷ましい事件が何度も何度も繰り返されることはないだろう。


「……そう言ってくれて助かるよ。しかし立派になったものだ。あの神谷がなぁ」


わしわしと俺の頭を撫でる山田先生。

ふわりと香水のいい匂いが鼻をくすぐる。


「ちょ、やめて下さいって」

「なんだよ。別にいいだろう? ご褒美みたいなもんだ。はっはっは! 嫌ならやめるが?」

「もー……いいですけど」


そうしてしばし俺は大人しく山田先生のされるがままになるのだった。



視聴覚室を出てチラッと海堂のいた教室を見ると、警察の人が来ていた。

手には布をかけられ、連れて行かれる最中である。

どうやら逮捕されたようだ。ぐったりと力なく項垂れており、俺に気づく様子もない。


「あぁ、人に刃物を向けて振り回したからな。しかも怪我までしているとなると、冷たいようだが我々としても庇いようがない。……最もそんな理由もないがな。鑑別所行きは免れないだろう。あいつにはしばし、塀の中で頭を冷やして貰うとしようじゃないか」

「そう、ですね……少し可哀想ですが」

「おいおい随分お人好しなんだなお前は。普通自分を虐めた相手にそんな感情は抱かないと思うぞ」


呆れたように言う山田先生。

そうかもしれない。でもある意味では彼のおかげで俺はこうして成長出来たとも言える。

もちろん恨みがないわけではないが、今となってはそこまで貶めるような気持ちにはならない。


「ふっ、優しい奴だな。強いだけでは価値がない。優しさが伴ってこそ、いい男というものだ。お前は私の自慢の生徒だよ。神谷優斗」

「ありがとうございます」

「礼を言われるようなことは何もしていないが……そうだな、ならお礼代わりに陸上部に入るというのはどうだ? 丁度大会の欠員が出ていてな。お前が出てくれると百人力なのだが……」

「し、失礼します!」

「あ、こら神谷! 待ちなさい!」


山田先生を放置して逃げ出す。

運動は苦手なんだよなぁ。それに真剣に部活動をしてたらゲームをやる時間がなくなってしまう。

久々の学校で本当に色々あったが、一息ついた今は早く帰ってオルティヴ・オンラインをやりたいという気持ちでいっぱいなのだ。

ていうか海堂と喧嘩している時も考えてたくらいだしなぁ。どうやら俺というやつは根っからのゲーマーだったみたいである。


「む……こ、高校時代インターハイ出場したこの私が追いつけないとは……! た、大したやつだ神谷! だが私は諦めんぞ。絶対陸上部に入れてやるからなぁぁぁぁっ!」


遠くから山田先生の無念そうな声が聞こえてくる。

……ふぅ、なんとか振り切れたようだ。

下駄箱の辺りで息を整えていると、背後に気配が生まれる。


「神谷くん……!」


振り向くとそこにいたのは詩川さんだった。

あれから随分時間が経っていてもう夕方である。もしかして俺を待っていたのだろうか。

いや、ないない。だってあれからどれだけ時間が経ったと思っているんだ。

きっと部活動か何かの帰りで偶然会っただけに過ぎな――


「神谷くんっ! よかった……!」


――突如、詩川さんが俺の胸に抱きついてくる。

手は小刻みに震え、頭を押しつけている。――泣いている。

俺はどうしていいか分からず、ただその場に固まるしかない。

しばしそうしていると、詩川さんはゆっくり顔を離して涙を拭った。


「あ……ご、ごめんなさい。先生に連れて行かれたのが心配で心配で……調子に乗ってこんなはしたないことをしてしまいました……本当に恥ずかしいです」

「あぁいや、その……気にしないで」


そんな気の利かないことしか言えない。

我ながら非モテすぎる行動だが、仕方ないだろう。女子とまともに話す機会なんて今まで一度たりともなかったのだから。


「……その、嫌じゃなかったですか?」

「と、とんでもない!」


むしろ詩川さんにそこまで心配されて、光栄である。

嫌だなんてありえないだろう。常識的に考えて。


「よかったぁ……えへへ」


そんな自分の価値をわかっているのかいないのか、ふにゃっとした柔らかい表情で笑う詩川さん。

夕陽が彼女の横顔を照らし、まるで女神のような美しさだった。


「そういえば神谷くんて普段どんなことして遊んでるんですか?」

「えぇっと……でも詩川さんが聞いたら引くかもよ」

「引かないです! 教えて下さい!」


顔を近づけ、目をまっすぐに見つめてくる。

うっ……美少女の顔面は圧が強い。嘘を言っても仕方ないか。


「実はオルティヴ・オンラインというネットゲームを少々……」

「オルティヴ・オンライン! そ、それ私もやってますよ!」

「本当? 話合わせてるだけじゃなくて?」

「もちろんです。よかったら今度一緒に遊びません?」

「喜んで!」


そんな幸せな会話をしながら、俺は帰途に着くのだった。



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