第7話俺って思ったより強いのかも

「おはよー……」


教室の扉を開き、中に入る。

おお、久しぶりの教室はずいぶん様変わりしているな。

大人しいメガネの女の子が肌を焼いてギャルっぽくなってたり、髪を染めてたりする生徒もチラホラいる。

海堂なんかはモヒカンにしていた。しかもタトゥーまで。流石にシールだと思うが……怖過ぎである。入り口で教室を見渡していると、


「ねー君、誰か呼びに来たの?」


黒板の前で話していた女生徒が話しかけてくる。

海堂の取り巻きだ。一体どういう意図だろうか。

もしかして新手のイジメ? お前はここのクラスじゃないだろ的な?


「いや、このクラスだから。俺……」

「あっはっはー面白い冗談ね。君、どう見てもうちのクラスじゃないでしょ! ねーみんな?」


彼女が友人たちに視線をやると、うんうんと頷く。

うっ……やはりそういうイジメなのだ。俺を阻害して排除しようという。

だが俺は学んだ。

人間外見に囚われずに堂々とした態度を取れば、案外認めてくれるものだと。

意を決して前へ出ると、出来るだけ真っ直ぐ相手の目を見て言う。


「俺はここのクラスだよ」

「あ……そ、そうなの……?」


まさか俺が言い返してくるとは思っていなかったのか、彼女はビクッと震えて固まる。

目線を右往左往させ、指先を振るわせ、挙動不審な態度である。

……別に怖がらせるつもりはなかったんだけどな。

それにしても普段あれだけ口汚く俺を罵っていたのに、ちょっと反論されただけでこんなにビビっちゃうなんて……なんかダサいな。

以前の俺はきっと周りにこう見られていたんだろう。これは揶揄われても仕方ないかもな。

しかしなんで俺、こんなのにビビってたんだろ。


とはいえどうしたものかなこの空気。彼女も固まってるし、他の生徒たちもざわつき始めている。

俺もまた困惑し立ち尽くしていると、女生徒を押し除けて海堂が俺の前に立つ。


「おいテメェ! なーに俺の女に手ェ出してくれてんだァ!?」


ドスの利いた声で俺を睨みつけてくる海堂だが……なんだろう。不思議と前よりも怖くない気がする。

あ、目線が違うんだ。背筋の伸びた俺は海堂よりも三センチほど高い。って今までどれだけ俯いてたんだって話だけどな。


「無視かよ。なかなか舐めたマネしてくれるじゃねぇか……言っとくが俺を怒らせたらタダじゃ済まんぞ? さぞかしぶっ飛ばされてぇんだろうなぁ! あぁ!?」


今までなら有無を言わさずぶん殴ってきただろうに、海堂もまた俺の変化に戸惑っているのかもしれない。

時折周囲に視線を送りながら、俺を恫喝している。

……なんだか昔ウチで飼っていた犬のを思い出す。

自分より弱い相手にはすぐ吠えて噛みつこうとするが、相手が強いとみるや唸り声を上げながら俺をチラチラ見てなんとかしてくれと目で訴えてくるのだ。

だったら最初から喧嘩なんか売らなきゃいいのに、と呆れながら散歩を続けたものである。

そんなことを考えているとつい――クスッと笑ってしまう。


「っテメェ! 何笑ってくれてんだゴラァ!?」


それが海堂の癇に障ったらしく、怒り任せに殴りかかってきた。

わ、ちょ……慌てていつものようにダメージを受け流すべく、少しだけ後方に身を下げる。

スカッ! と海堂の拳は空を切った。


「え……?」


何故外れたのだろう海堂もだが俺も驚いている。

あ、そうか。痩せて身軽になった分だけ拳からの距離が増えたんだ。

加えてオルティヴ・オンラインで当たれば即死というギリギリの戦いをこなした直後だからか、海堂のパンチが止まってすら見える。

何度も拳を振るってくるが、どれも当たる気がしない。


「ぬぐっ! があっ! バカな! なんで当たらねぇッ!?」


頭に血が昇っているのか、海堂のパンチはどんどん大振りになっていく。

こんなもの当ろうとしても当たるわけがない。


「く……そったれがァァァァァァ!」


咆吼を上げながら、海堂は手近にあった机を持ち上げた。

座っていた生徒が慌てて逃げて教科書がバサバサと落ちる。


「キャァァァァァァァッ!」

「おいやめろって海堂! 無茶苦茶だ!」

「殺すつもりか! すぐそれを下せって」


他の生徒たちが海堂を止めようとするが――


「ウルセェよ。舐められっぱなしで黙ってられるか! こいつは俺がぶっ殺す!」


血走った目で睨みつけ、周囲もそれ以上は何も言えなくなってしまう。

マズいな。こんなにキレるとは思わなかった。

というか自分から殴ってきて、避けられたからキレるなんて自分勝手にも程があるよな。今更だけど。


「どりゃあああああああああっ!」


そんな俺の思いなど関係ないとばかりに、思いっきり机を投げつけてくる。

だが俺は周囲の心配とは裏腹に冷静そのものだった。

――あ、この攻撃デッドベアーの大振り攻撃に似ているな。

それよりも遅い。つまり躱せる。

投げつけられた机の真横、空いたスペースに回避したのち、無防備な海堂の背後に回り込んでいた。

おお、この状況はゲームで何度もやったやつだ。『ステップ』で後方に周り、背後攻撃で倒す。

そんな考えが頭に浮かんだ次の瞬間である。


俺は軽く拳を突き出していた。

今までの感覚で、つい身体が勝手に動いたのだ。

突き出した拳は海堂の顎を掠り、その顔面が僅かに揺れる。


「あ……ぇ……?」


どさぁっ! と大袈裟に倒れる海堂を、俺は呆然と見下ろしていた。

え? 今何が起きたんだ? まさか俺が海堂を……倒したのか?

手にはまだ人を殴った感触が残っており、海堂は白目を剥いてうつ伏せに倒れてビクンビクン震えていた。

なんかこれ、ヤバくない?

どうしたものかと右往左往していると、男子生徒の一人が俺に声をかけてくる。


「ていうかお前……もしかして神谷、なのか……?」

「あ、うん……ちょっと痩せたんだけど……」

「えええええええええええええええええええっ!?」


クラス中に絶叫が響き渡った。



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