第5話ボス戦です(どうやっても勝てないだろ)


――フィールドボスキタコレ。

――デッドベアーか。ペアくらいならレベル90もあれば狩れるボスではあるが……

――彼のレベルは65、しかもまだ街に着いてないから碌な装備してないし、勝てる要素はないね。

――それでもユートさんなら……ユートさんならなんとかしてくれる……!

――いや無理だから。できたら裸で町内一周してやるわ。

――町内一周とか流石にネタが古すぎる。昭和か?



「でりゃあああああっ!」


デッドベアーの頭上に浮かぶ二桁前後のダメージ表示。

うーむ、やはりというか全然ダメージ出てないな。

大体のMMORPGにおいて、ボスは大抵複数パーティで挑むものだ。

ソロの、しかも低レベルプレイヤーが挑めるようなステータスではなく、結果こうなる。


「ギャオオオオ!」


ぶぅん! と大振りの一撃を『パリィ』で弾く。

こいつは通常攻撃しか防げない分『ステップ』よりSP消費が少ないが、弾く際にほんの僅かだがダメージを与えることが可能。

少ないモーションで躱せることから、すぐ攻撃に移りやすい利点がある。

こいつは通常攻撃が多いタイプのボスだ。まずは正面から打ち合う。


「ゴォォォ!」


大きくのけぞるモーションに、背筋がぞくりと泡立つ。

! 何かヤバい。

危機を感じた俺は即座に『ステップ』で背後に回り込む。

その直後、炎の塊が俺のいた場所を焼き尽くした。

あっぶな……スキルは『パリィ』じゃ防げないからな。

そんなことを考えながら背後から斬撃を繰り出すがダメージはせいぜい三桁。背後攻撃ボーナスがあってもこの程度か。

道中拾った鑑定メガネでデッドベアーのHPを見たが、130000とかだった。

普通だったらこのHPを殴って削るのは不可能だろう。ただし、俺も無策で戦っている訳ではない。


――9999! 突如浮かぶ、高ダメージ表示。

おおっ、良かった。キリングナイフによる割合ダメージが効いてくれたようだ。

この手のゲーム、殆どのボスには状態異常は効かないが、割合ダメージだけは通るかもと思ったが、ビンゴだったな。



――おー、割合ダメージで削るとは、面白くなってまいりました。

――キリングナイフ高騰きたな。いや既に結構高いけどね。

――『パリィ』とも相性いいね。βではスキルを使わないボスがいたから猛威を振るってたわ。

――しかしよく避けられるもんだわ。ボスのスキル攻撃も躱してるよね? 鬼の壁性能だな。

――だが待て、相手はボスだぞ。まだ終わってはないのではないか!? 

――裸で町内一周の準備よろ。



何度かダメージを与え、半分近く削った辺りだろうか。

どぉん! と爆音が響き、吹っ飛ばされる。

な、何が起きたんだ……? HPを見ると真っ黒だ。

何かスキル攻撃を喰らったようだが……全くモーションが見えなかった。

見ればデッドベアーの全身に赤いオーラが立ち昇っているのが見える。

これは……第二形態というやつか。

デッドベアーはまるで勝ち誇ったように笑っている。



――おー、流石にヤバいね。ボスの第二形態はステータス大幅アップして使うスキルも増えるからなぁ。

――さっき吹っ飛ばされたの、ありゃ『パルス』だな。威力は低いがノーモーションで広範囲に発動するスキルだ。『ステップ』でも避けられないぞ。

――どうにか耐えたけど……次はないぞ。せめてまともな防具を装備していれば……

――あーあ、ユートさんも手がないのか、やぶれかぶれで向かっていくぞ。ヤケクソだな。こりゃダメだ。

――勝ったな。服着てくる。

――最悪だなお前……



「うおりゃあああ!」


がん! がん! がんがん! 連続して斬撃を繰り出していく。

あと四発、どうにかそれだけぶち込めば俺の勝ちだ。

通常攻撃を『パリィ』で弾いて一発、連撃で一発、あと二発……

祈るように繰り出す斬撃の最中、俺は――一気に後方へと退いた。


バシュン! と音がしてデッドベアーの周囲に衝撃波が広がる。

さっきのノーモーションスキルだ。やはりな。そろそろ来る頃だと思ったよ。



――えええええ!? なんで避けれたんだ!?

――まるで来るのがわかっていたみたいに……どんな手品を!?

――わかった。恐らくクールタイムでタイミングを測ったんだろう。それで躱せたんだ。

――デッドベアーの攻撃パターンからスキルを使う順番を予測し、そのタイミングで後方に下がった……わかっていても無理だろ!?

――えーと……服、やっぱり脱がないとダメ?

――ダメだろJK。



――そう、デッドベアーのスキルクールタイムはきっかり五秒、スキルを使う順番も決まっていた。

あとはそれに合わせて後ろに逃げるだけである。

これさえ躱して仕舞えば、あとは殴るだけだ――


「よっしゃ! 勝ったぁぁぁ!」


それから数回、謎のノーモーションスキルを避けた後の一撃でようやくデッドベアーは倒れた。

割合ダメージはあくまで確率、出ないときは出ないものとはいえ……いやーSPギリギリだった。危ない危ない。


「しかもドロップなにも落とさないしさぁ……ま、そう都合良くはいかないか」


それにしても充実した戦いだった。

随分久しぶりだったが、やっぱり俺はゲームが好きだ。

これをやる前はかなり沈んでいたけど、今は晴れ晴れとした気分である。

充足感に満たされながら街に赴いた俺は、宿でセーブをした。

とりあえず一区切りってところかな。いや、本当にいいゲームだった。


「ん……今は朝の六時か。結局GW中、ずっとゲームしてしまったな……」


本当は学校をサボってずっとゲームしていたいが、学生である以上そうも言っていられないだろう。

大丈夫、気持ちも回復したし生きる楽しみも知った。

今の俺ならイジメも耐えられるはずだ。卒業まで頑張ればいい。義務教育さえ終えれば後は自由なのだから。


「文句を言っても仕方ない。諦めて行きますか」


メットを取り去り、顔を洗う。

そしてふと気づく。

鏡に映った俺の素顔が、どう見ても別人な件について。


「えええええーーーっ!? なんだこのイケメン。もしかして俺、なのか……!?」

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