第5話ボス戦です(どうやっても勝てないだろ)
◆
――フィールドボスキタコレ。
――デッドベアーか。ペアくらいならレベル90もあれば狩れるボスではあるが……
――彼のレベルは65、しかもまだ街に着いてないから碌な装備してないし、勝てる要素はないね。
――それでもユートさんなら……ユートさんならなんとかしてくれる……!
――いや無理だから。できたら裸で町内一周してやるわ。
――町内一周とか流石にネタが古すぎる。昭和か?
◆
「でりゃあああああっ!」
デッドベアーの頭上に浮かぶ二桁前後のダメージ表示。
うーむ、やはりというか全然ダメージ出てないな。
大体のMMORPGにおいて、ボスは大抵複数パーティで挑むものだ。
ソロの、しかも低レベルプレイヤーが挑めるようなステータスではなく、結果こうなる。
「ギャオオオオ!」
ぶぅん! と大振りの一撃を『パリィ』で弾く。
こいつは通常攻撃しか防げない分『ステップ』よりSP消費が少ないが、弾く際にほんの僅かだがダメージを与えることが可能。
少ないモーションで躱せることから、すぐ攻撃に移りやすい利点がある。
こいつは通常攻撃が多いタイプのボスだ。まずは正面から打ち合う。
「ゴォォォ!」
大きくのけぞるモーションに、背筋がぞくりと泡立つ。
! 何かヤバい。
危機を感じた俺は即座に『ステップ』で背後に回り込む。
その直後、炎の塊が俺のいた場所を焼き尽くした。
あっぶな……スキルは『パリィ』じゃ防げないからな。
そんなことを考えながら背後から斬撃を繰り出すがダメージはせいぜい三桁。背後攻撃ボーナスがあってもこの程度か。
道中拾った鑑定メガネでデッドベアーのHPを見たが、130000とかだった。
普通だったらこのHPを殴って削るのは不可能だろう。ただし、俺も無策で戦っている訳ではない。
――9999! 突如浮かぶ、高ダメージ表示。
おおっ、良かった。キリングナイフによる割合ダメージが効いてくれたようだ。
この手のゲーム、殆どのボスには状態異常は効かないが、割合ダメージだけは通るかもと思ったが、ビンゴだったな。
◆
――おー、割合ダメージで削るとは、面白くなってまいりました。
――キリングナイフ高騰きたな。いや既に結構高いけどね。
――『パリィ』とも相性いいね。βではスキルを使わないボスがいたから猛威を振るってたわ。
――しかしよく避けられるもんだわ。ボスのスキル攻撃も躱してるよね? 鬼の壁性能だな。
――だが待て、相手はボスだぞ。まだ終わってはないのではないか!?
――裸で町内一周の準備よろ。
◆
何度かダメージを与え、半分近く削った辺りだろうか。
どぉん! と爆音が響き、吹っ飛ばされる。
な、何が起きたんだ……? HPを見ると真っ黒だ。
何かスキル攻撃を喰らったようだが……全くモーションが見えなかった。
見ればデッドベアーの全身に赤いオーラが立ち昇っているのが見える。
これは……第二形態というやつか。
デッドベアーはまるで勝ち誇ったように笑っている。
◆
――おー、流石にヤバいね。ボスの第二形態はステータス大幅アップして使うスキルも増えるからなぁ。
――さっき吹っ飛ばされたの、ありゃ『パルス』だな。威力は低いがノーモーションで広範囲に発動するスキルだ。『ステップ』でも避けられないぞ。
――どうにか耐えたけど……次はないぞ。せめてまともな防具を装備していれば……
――あーあ、ユートさんも手がないのか、やぶれかぶれで向かっていくぞ。ヤケクソだな。こりゃダメだ。
――勝ったな。服着てくる。
――最悪だなお前……
◆
「うおりゃあああ!」
がん! がん! がんがん! 連続して斬撃を繰り出していく。
あと四発、どうにかそれだけぶち込めば俺の勝ちだ。
通常攻撃を『パリィ』で弾いて一発、連撃で一発、あと二発……
祈るように繰り出す斬撃の最中、俺は――一気に後方へと退いた。
バシュン! と音がしてデッドベアーの周囲に衝撃波が広がる。
さっきのノーモーションスキルだ。やはりな。そろそろ来る頃だと思ったよ。
◆
――えええええ!? なんで避けれたんだ!?
――まるで来るのがわかっていたみたいに……どんな手品を!?
――わかった。恐らくクールタイムでタイミングを測ったんだろう。それで躱せたんだ。
――デッドベアーの攻撃パターンからスキルを使う順番を予測し、そのタイミングで後方に下がった……わかっていても無理だろ!?
――えーと……服、やっぱり脱がないとダメ?
――ダメだろJK。
◆
――そう、デッドベアーのスキルクールタイムはきっかり五秒、スキルを使う順番も決まっていた。
あとはそれに合わせて後ろに逃げるだけである。
これさえ躱して仕舞えば、あとは殴るだけだ――
「よっしゃ! 勝ったぁぁぁ!」
それから数回、謎のノーモーションスキルを避けた後の一撃でようやくデッドベアーは倒れた。
割合ダメージはあくまで確率、出ないときは出ないものとはいえ……いやーSPギリギリだった。危ない危ない。
「しかもドロップなにも落とさないしさぁ……ま、そう都合良くはいかないか」
それにしても充実した戦いだった。
随分久しぶりだったが、やっぱり俺はゲームが好きだ。
これをやる前はかなり沈んでいたけど、今は晴れ晴れとした気分である。
充足感に満たされながら街に赴いた俺は、宿でセーブをした。
とりあえず一区切りってところかな。いや、本当にいいゲームだった。
「ん……今は朝の六時か。結局GW中、ずっとゲームしてしまったな……」
本当は学校をサボってずっとゲームしていたいが、学生である以上そうも言っていられないだろう。
大丈夫、気持ちも回復したし生きる楽しみも知った。
今の俺ならイジメも耐えられるはずだ。卒業まで頑張ればいい。義務教育さえ終えれば後は自由なのだから。
「文句を言っても仕方ない。諦めて行きますか」
メットを取り去り、顔を洗う。
そしてふと気づく。
鏡に映った俺の素顔が、どう見ても別人な件について。
「えええええーーーっ!? なんだこのイケメン。もしかして俺、なのか……!?」
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