第4話ゲームって楽しいね!(修行僧か何かで?)
ぴー、ぴー、ぴー。
アラーム音と共に、画面右下にウインドウが浮き出てくる。
「なになに? 『現在十一時間連続で稼働中です。十二時間を経過すると強制的にシャットダウンされます。休憩をして下さい』……か。今のゲームってそんな制限とかあるんだ」
この物置に隔離された小学生時代、あまりのストレスで二十四時間ぶっ続けでゲームしたことがあったのを思い出す。
そうだ、俺ってストレスを掛けられるとゲームに逃げるんだよな。あの後、数日くらい頭がガンガンしてたし、少しは休んだ方がいいだろう。
「じゃ、あと一時間だけやったら休憩しよう」
その後、しっかり一時間プレイした後に強制シャットダウンされた俺は、水だけ飲んで寝りに着いた。
◆
――どうやらようやく休憩するみたいですな。
――てかあんな警告出るのね。それでもギリギリまでプレイするとか、廃人の素質あるわ。
――いや既にメチャメチャ廃人でしょ。しかし筋肉痛ヤバいことになってるんじゃね。明日はログインできないかもな。
――メール送ったのに全然返ってこないや。見てないのかな。
――廃人ギルドの†星猫†や黒鍵騎士団の人たちもコメント送ってるな。
――いつの間にか同接十万超えてるし。殆どのプレイヤーが見てるんじゃねこれ。
◆
目が覚める。
喉がカラカラだ。身体が求めるままに水を飲み干した。
「うえっ、筋肉痛がひどいなぁ」
そういえばこのゲーム、脳波によりゲーム内キャラクターを動かすわけだがその際に現実の肉体を動かしたのに近い感覚になるのだとか。
電気を当てるだけで痩せられる、とかいう胡散臭いフィットネスグッズみたいなもんかと思ったけど、意外に効くなぁ。
ま、ゲームしてる時はそこまで疲労感もなかったし、そこまで気にしなくていいか。
「お腹が空いた……けど、それよりゲームをやりたい気持ちの方が大きいな」
昨日は殆ど何も食べてないはずなんだけどな。
食べない期間が増えると腹が減りにくくなるというし、その影響かもしれない。
それにしても寝るまでゲームして、起きたら即ゲームとは……我ながら中々のダメ人間である。
自分自身に呆れながらもメットを被ると、なんだか昨日よりスッと入った気がした。
……まぁ気のせいか。スイッチを入れると俺の意識はゲームの世界と没入していく。
◆
――みてるよー
――だめだ。向こうは全然気づいてないね。
――まぁまぁ、生暖かく見守ろうジャマイカ。
――しかし狩りばっかりしてるなこの人。もう一週間くらいずっと同じこと繰り返してるんだが、飽きたりしないのかね?
――ログインして即狩り、きっかり十二時間でログアウト……修行僧かな?
――そんな動画を見てる五万人の暇人のことが心配だよ。俺も含めてだけど。
◆
「そういえば狩るのに夢中でアイテムをあまり見てなかったな」
拾ったのは売ったら金になる収集品、それと使い捨て鑑定メガネが一つ、未鑑定ナイフを七本、未鑑定帽子を五つ。
全部を鑑定することはできない……と思うだろうが実は小技があるんだな。
未鑑定ナイフを足元に落とす。
ステータスに書かれた所持量が320から279になった。つまりこのナイフの重量は41ということになる。
他のナイフも同様に落としていく。
41、41、41、41、65、41、41……ふむ、この五つ目のナイフだけ重量が違うな。
恐らくこれがレアアイテムだろう。
鑑定メガネを使うと、キリングナイフが手に入った。
「ATK120、特殊効果は稀に割合ダメージか。いいじゃん」
装備しているマインゴーシュからキリングナイフに持ち替える。
念の為マインゴーシュを地面に落としてみると……41、どうやら他のナイフもマインゴーシュだったようだな。
所持量限界を超えると自然回復しなくなる。こいつらは捨てていこう。
マインゴーシュを全て足元に投げ捨て、今度は帽子を鑑定する。
10、10、10……なんかどれもゴミっぽいな。
まぁ所持量10ならそこまで嵩張らないし、持っておいてもいいかな。
◆
――へー、面白い技だな。俺のメイン魔術師だからSTR振れなくて重量キツいんで、いいこと知ったわ。
――古参にとっては基本スキルだね。しかしキリングナイフとか良い引きしてるわ。
――てかそれよりもさ。この辺りで落とす帽子って羽帽子だよな。
――あーAGI系の職業からすると喉から手が出るほど欲しいやつ!
――ドロップするフェンウルフ自体が中々でないし、人気あるからみんな血眼で探し回ってるから中々手に入らないんだよね。
――人がいない奈落だからこそか。俺も奈落行ってくる!
――こうしてまた、一人の勇士が命を落とすのであった。~完~
◆
「さて、アイテムの選別を終えてさっぱりしたし、今日は少し離れたフィールドに行ってみるか」
ここらに出てくるモンスターを狩るのも少し飽きてきたところだ。
たまには違うのも狩ってみたいしな。
レベルも65、この辺りじゃ少し上がりにくくなってきたところだ。
ちなみにこのゲーム、最初はめちゃくちゃ上がるが後半は鬼のような経験値テーブルになりカンストである99近くになる程上がり難くなる。
とはいえVRだからか、サーガよりもかなり上がりやすくなっているのはありがたい。
そんなことを考えながらフィールドを歩いていくと、次第に岩ばかりの荒野から森林へと景色が変わってきた。
下り坂を降りていくと、木々の隙間から人工物が見える。……建物だ。
「おー、ようやく街を見つけた!」
奈落というだけあって、全然人気がなかったもんなぁ。
ソロプレイ中心だから他プレイヤーと絡む気はないが、有用なアイテムがあるなら是非とも欲しいところだ。
――と、眼前に突如現れた巨大な影に、俺は踏み留まる。
「ゴルルルル……!」
聞こえてきたのは地の底から響くような唸り声。
巨大な黒い熊、その頭上にはデッドベアーの文字が踊る。
「こいつ……フィールドボスってやつか」
他のモンスターより一回りは大きいし、普通の雑魚でないことは明らかだろう。
そういえば死んだらどうなるんだっけ。
他のシリーズだとセーブまで戻された気がするけど、スタート地点から俺一回もセーブしてないんだよなぁ。
最悪リセットされたり? ……いや、MMOでそれはないだろうが、ここまで来るには結構な移動時間がかかったし、逃げた方が得策かもしれない。
後ろに下がり距離を取ろうとすると、背中に壁にぶつかる。
DONT ESCAPE! 透明な壁に赤い文字が浮かんでいる。
「げっ、逃げれないの……?」
どうやらボスであることに間違いはないらしい。
それにしてもまさか逃亡できないとは、MMOにあるまじき不自由なゲームである。
くそっ、どうにかして切り抜ける方法は……そう考えていた時である。
「ゲームは楽しむもんだぜ? 優斗」
昔、敵から逃げようとした俺を止めた父さんの言葉が頭に浮かぶ。
どうせゲームの中では死なないんだし、死なんか恐れずに楽しめばいいじゃないか――と。
「そうだ。ギリギリの戦いを楽しめばいい。死んだら死んだでやり直せばいいじゃないか。ゲームで死んだからと言って、死ぬわけじゃないんだし!」
気づけば俺は笑いながら、ナイフを握り締めていた。
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