第3話知識があれば役に立つ(いやそれPS無双じゃね?)
「『強撃』!」
ずがん! と激しく打ち据える。『強撃』はSPを消費して200%の斬撃を叩き込むスキルだ。
これの便利なところは武器を選ばず連打も可能なところで、移動キャンセルを使えばSPの続く限り連打可能。
このゲームでは職業によりある程度好きにスキルを取得できる。
俺が選んだ剣士の初期スキルの一つ、『強撃』は全職業でもかなりの強スキルなのだ。
SPの自然回復速度はINT依存で、高ければ通常よりも回転率は上がる。
つまりはスキル狩りでは結構有効。STR、AGI極の戦闘職でも多少はINTを振った方が有効なのだ。
……昔、父さんはSPポーションをがぶ飲みしながらレベリングしていたが、あれは今思えば相当な散財プレイだったんだな。
今度は通常攻撃のみでロックビーストを屠る。と、スキルレベルがまたまた上がる。
「ふむ、『強撃』の次は何を覚えようかな……ノックバックを減らす『忍耐』か、遠くからタゲを取れる『挑発』……パーティならこれらは必須だけど、今の俺には必要ないな」
俺が目指すのは誰にも頼らず、頼られない悠々自適なソロ能力。
となれば……これを取るべきだな。
取得したのは『ステップ』だ。前後左右に加え、斜め四方に高速移動可能なこのスキルは出始めに若干の無敵時間がある。
これを使えば致命的な一撃を回避することが可能。
「グルルルル……」
今度は狼のモンスター、フェンウルフが襲いかかってくる。
こいつは移動速度と攻撃速度が早く、基本躱すタイプの俺にとっては難敵だ。
その他にもう一つ、厄介な攻撃があるんだよな。
「グォォォォォォ!」
咆哮と共にフェンウルフが繰り出してくるのは『強撃』。
威力はもとよりこのスキルには30%の命中補正がある為、今の俺のAGIでは見てから避けるのは不可能だ。
だから『ステップ』の無敵時間で躱す。
よし、回避成功! 我ながらナイス反応。
学校で虐められていた時、あまりにも殴られすぎて痛くないよう後ろに避けてダメージを逃す癖がついていたのが良かったのかもしれない。
いや、反応はできてもデブだから完全に避けられなかったんだけなんだけどね。情けない話だけど。
スキル発動と瞬時にフェンウルフの背後に高速移動した俺は、隙だらけの背中に連撃を叩き込む。
このゲームには背後攻撃ボーナスがある為、『ステップ』はそういう面でも有効なのである。
「ギャァァァァ……」
「よし、撃破」
意外な経験が役に立つものだ。あまり嬉しくはないけどな……ハァ。
消滅するフェンウルフを見下ろしながら、俺は次の獲物を探し始めるのだった。
◆
――おいおいマジでバランス型でやってるよ。レベル30だし、もう後戻りできないね。
――ていうか意外と戦えてるじゃん。もしかしてバランスって強いの?
――ないない。見た目重視でキャラメイクした時にバランス型になっちまったけど、とてもじゃないがまともに戦える性能じゃなかったぞ。
――そもそも『ステップ』なんてネタスキルだろ。使いこなしてるやつ初めて見たわ。あれで回避とか、狙ってできねーよ。
――猶予2フレとかだっけ? 格ゲー勢が挑戦してたの見たわ。戦いながら使えるとか反射速度ヤベェすぎでしょ。
――てかこの子、六時間くらいぶっ続けでプレイしてない?
――VRはかなり体力も使うってのになぁ。俺、βで一時間くらいプレイしたけど筋肉痛でバキバキになったわ。ずっと筋トレしてるようなもんだべ。
――一日中配信してるから、見てる人増えてきたな。今10,000人超えててウケる。
◆
モンスターを倒しながら歩いていると、岩壁に囲まれた場所に出る。
「行き止まり……戻らないといけないのか」
でも面倒だな。いや案外登れるかもしれないぞ。
ちょっと試してみるか。
岩に手をかけ、登ろうとするが……ダメだ。
どうやら移動不可エリアには移動出来ないらしい。
「だったら……『ステップ』」
高速移動でジグザグに移動しながら、岩壁を乗り越える。
……ふぅ、予想通り。『ステップ』を使えば移動不能エリアも無理やり飛び越えることが可能だ。
これは歴代オルティヴシリーズに受け継がれている技である。
ま、半分バグ技なんであまり推奨はできないけど。
連打しすぎてSP無くなっちゃったな。歩いて戻った方が効率面では良かったかもな。
まぁまったりプレイだし、あまり気にする必要はないか。
俺は座ってSPを回復するのだった。
◆
――ちょ、『ステップ』って壁越え出来るもんなの!?
――いや、確かにシリーズ恒例の隠し技ではあるが、今作ではあまりにシビアすぎて、まだ成功した奴はいなかったはず。WIKIに書き込んでおくか。
――私もやってみたけど無理だったわよ! それを難なく一発で……信じられないプレイヤースキルね。
――移動キャンセルを連打で入れないとダメで、猶予1フレを数回連続成功させなければいけないとか開発に携わったプロが言ってた気がする。
――ずっとログアウトしないしまさかBOTじゃないの? 調査用とか。
――なんか狩りの途中ずっと独り言を言ってるし、中身いるでしょ。流石に。
――俺のギルドに誘ってみようかなぁ。メッセージ送ってみよっと。
◆
「……さっきから何かブルブル震えてるな」
スマホの着信だろうか。ずっと無視しているのにやけにしつこい。
まさか海堂の奴、家の前にまで来てるとかないよな……考えただけで恐ろしい。見なかったことにしよう。
俺は現実を忘れるように、ゲームに打ち込むのだった。
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