第2話配信開始(本人は気づいてません)
13:59
ドキドキしながらリロードボタンを連打する。
最近生きるのに必死すぎてゲームなんてやる暇がなかったからな。久しぶりのゲームに気分が高揚しているようだ。
スマホに接続したVRメットを被った俺の目の前にはずっとタイトル画面が流れていた。
14:00
しばらく真っ黒い画面が続いたあと、リアルな花畑にいるかのような景色になる。
どうやらログインしたらしい。
すごい……これが噂のVRMMO……感動しているとNPCらしき妖精が花畑の中から現れる。
「オルティヴオンラインの世界へようこそ! 私はエリン。あなたの名前は?」
「ユートだ」
ゲームは本名でプレイするタイプなのだ。
恥ずかしいって? ……いいだろ別に。
「……ユートね! まずはなりたいキャラクターを教えて頂戴」
様々なパーツが視界に並ぶ。顔、髪型、体型……かなり細かく設定できるようだ。
どうやら太っていればVIT値、痩せていればAGI値、背が高ければSTR値に補正が入るなどなど、キャラメイクによって初期ステータスも決まるらしい。
前にプレイした時は確か、DEX、AGI極振りの弓手だったっけ。
父さんにはVIT極のタンク役をやらせて後ろからペチペチ攻撃してたのを思い出す。
オルティヴシリーズは何作かプレイしたが、ステータスを極振りするのが非常に強力で、プレイスタイルに応じて特定のジョブに対応したステ振りをするのが基本なのだ。
魔法職ならINTとDEX、弓職ならDEXとAGIなど……中途半端なステータスは失敗と言われパーティではお呼びでない。
だが、完成したバランス型は非常にソロ性能が高いという特徴もある。
ある程度殴れて、ある程度当てられて、ある程度耐えれて、ある程度躱せて、ある程度魔法も使え、ある程度幸運である。
一人で気晴らしにゲームをしたい今の俺にはぴったりじゃないか。
「……そうだ、バランス型にしよう」
どうせゲームだ。最適解にこだわる必要はないしな。
そう決めれば、俺はバランス良くステータスを設定していく。
これがこうで……あ、こうすれば1ポイント浮くな。へー、バランスの方が合計ステータス的に有利なのはシリーズ恒例ってことか。なるほどなるほど。
色々な組み合わせを試すことしばし、
「……よし、こんな感じかな」
できたのは痩せ型、精悍な顔付きのイケメン騎士だった。
……断じて言うが狙ったわけではない。
俺の理想とするバランス型にした結果、こうなっただけなのだ。
当然今の自分とは似ても似つかない姿だが……ま、別にいいだろうゲームの中でくらい。
「あらあら、現実と違って随分カッコいいわねー」
「なっ! べ、別にいいだろそれくらい!」
妖精の不意打ちツッコミに思わず飛び上がってしまう。
そういえばNPCにも高度なAIが組み込まれており、ほぼ人と変わらない思考と会話が出来るのがウリだとか書いてたっけ。
でもそのツッコミは酷いだろ……ゲームでまで容姿を弄られるとか、俺ってどんだけ不細工なんだ。
「あはは、ごめんごめん。でもあなたの頑張り次第では、その姿が現実になるかもよ?」
「? 何言ってるんだ」
そんなわけないだろう。悲しいけどさ。
っと、そんなことより気にせずゲームを始めるとしよう。
「なぁエリン、そろそろゲームを始めたいんだけど」
「わかったわ。ではスタート地点を選んでね」
俺の眼前に地図が現れる。
どうやらここから選べ、ということらしい。
「初心者向けのチュートリア王国、ゲームに慣れた人向けのリガイア帝国、いきなりバトルしたい人向けゲルミーナ渓谷……お、なんだこれ」
地図の中央にポツンと位置する黒い点、そこも選択対象のようだ。
「あー、それは超上級者向けスタート地点、奈落ですねー」
超上級者向けスタート地点……なんか矛盾してない? 最強の初心者用武器みたいに。
でもなんだか面白そうだ。オルティヴサーガはかなりやり込んだし、超上級者向けと言ってもスタート地点であることに変わりはないだろう。
多少はやりがいがあった方が楽しいに違いない。
「ち、ちょっと! 奈落を選ぶつもり? ヤバいわよ?」
「いいさ。ゲームで死ぬことなんて怖くない」
現実世界であれだけの目に遭ってきたのだ。
それに忍耐力には自信があるしな。シリーズ通してプレイしたし、初心者でもないつもりだ。
「あーもう知らないわよ!」
「心配してくれてありがとう。じゃあ行くよ」
「はいはい、気をつけてね。何かあったらヘルプから呼び出して頂戴」
エリンが手を振ると同時に、真っ逆さまに落ちていく。
◇
「へぇ、ここが奈落……」
辺りは岩ばかりで草の一本も生えていない、なんとも殺風景な空間だ。
風に混じった水の匂いや、土を踏む感触までがリアルに感じられる……すごいな。これがVRMMOってやつか。
最近のゲーム事情は疎かったけど、進化が甚だしい。
「おっ、モンスターだ」
岩を背負ったトカゲのようなモンスター……ロックビーストが俺を睨みつけてくる。
へぇ、こいつはサーガでは中盤以降に出てくる敵だったはずだが……流石奈落とやら、脅すだけあって初っ端から難敵を出してくるんだな。
「グルルルル……ガウッ!」
「うおっとぉ!」
ひょいっと突進を躱す。
感慨に耽っていて初動が遅れたが、昔何度も戦った相手だ。
動きは覚えていたので難なく避けることができた。……昔取った杵柄というか、身体は覚えているものだなぁ。
それにしてもサーガと同じようなモーションで動くなら、意外と普通に倒せるかもな。
「グォォォォォォ!」
切り裂きモーションも同じ。紙一重で躱して手にした剣を岩の隙間にブッ刺す。
ぶしゅ! と血が噴き出てよろけるロックビーストに追撃を行う。ざん! ざん! ざんざんざんざん!
流石にプレイ開始直後の俺では急所に何度当てても中々ダメージが稼げないが、それでも確実にHPゲージは削れていく。
そして――
「グァァァァァァァ……」
うめき声を上げながら消滅していくロックビースト。
お、レベルが一気に上がったな。
このゲーム、極振りが強いのは制作側も想定しており、ステータスが上がるにつれて必要ポイントが増えていく。
裏を返せば序盤は必要ポイントが低いので、沢山ステを上げられてお得な気分になるのだ。……ま、気分だけなんだけどね。
「しかし……いてて、確かに全身が痛いや。さっき激しく動いたからか?」
そういえば身体にも多少の負担がかかるとか書いてあったっけ。
脳が身体に指令送ることで筋肉にも刺激を与えた結果、こうなったのだろうか。
リアルで疲れるとなると、連戦はキツいかもな。
「ま、無視できない程でもないか。それに久しぶりに身体を動かしていい気分だ!」
太っていたせいで運動もする気が起きなくなってたからなぁ。
仕方ないだろう、ちょっと走っただけでヘトヘトになるし、汗もびっしょりになるのだから。
しかもそれを見られて揶揄われたこともあるし……あぁ、嫌なこと思い出した。
一息吐いたらまた、狩りをしよう。ストレス解消だ。狩って狩って狩りまくってやる。
◆
――ん、なんかプレイ動画が流れてきたぞ。
――あー、初期設定で公開動画にしたんでしょ。適当に触ったんじゃね?
――ちょ、この人まさかの奈落に凸しているんだが。
――俺も奈落スタートやったけど敵に瞬殺されたわ。硬すぎだし強すぎだろ。警告があるとはいえ、選択できちゃいけないレベル。
――しかもバランス型だよ。あんなんじゃ碌に火力もでねぇし、避けられねぇだろ。つか剣士なのにINT振ってどうするよ。
――あれ? でもあのキャラ、普通に倒してるんだけど……
――マジだ。何あいつ、おかしくね? 攻撃全部先読みしてるかのように当たってねぇ……
――見てる人はまだ100人くらいか。案外伝説の配信になるかもな……
◆
よろしければ⭐︎を押して応援お願いします。励みになります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます