第一章 霧蒸ける森 2

 意識を取り戻すのには十秒とかからなかった。

 目の前には少女が立っていた。フィロリスとは正反対の白い魔道師用のローブをすっぽりとかぶっている。その胸にはやたらと目立つ青い宝石の埋め込まれたペンダントをつけている。妙に緊迫した様子だ、大方ここまで来る途中で魔物にでも襲われかけたのだろう、とフィロリスは思った。そして普通ならここで助けを求めたりするだろうなんかも。

「助けてください! 魔物に襲われているんです!!」

 予想通りのせりふだ。

 実際フィロリスたちもここにいる間何度か襲われているわけで、どうやらこの森は魔物たちの巣になっているらしい。その度に二人は戦うと空腹に拍車がかかってしまうので適当にやり過ごしていた。運動は空腹の最大の敵なのである。

 このあたりに魔物が多いのは近くの平原が開発の手にかかっているというのも原因のひとつだろう。

 少々面倒だが、放って置くこともできない。近くまで魔物が来ているということもあるだろう。

 それにこういう言葉がある。

「人助けは飯のもと」

 そんなことを考えていたときにルーイの声が聞こえた。

「助けてあげなさい、フィロリス」

 ルーイも同じようなことを考えたのだろうとフィロリスは思い少女を見たが、少女の顔は人に出会った安堵から恐怖へと変わった。

「と、トカゲ……」

 そのまま彼女はフィロリスに胸を預けるように気を失っていった。

 彼女が気を失うほど驚くのも無理はない。魔物から逃げてきたのにもかかわらず、助けを求めた人間のそばに言葉を話す爬虫類がいる。フィロリス以外の人間にとってみれば、ただの魔物とルーイは同じなのである。

「失礼な、イグアナですよ」

 彼女には届かない声を無視して、フィロリスは大きめの岩の上に丁寧に彼女を寝かせた。

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