第10話 平和なお味噌汁

「桃ちゃんはいくつなの?」

「15です!!」

中学生か…。わけぇ、、。

「浮羽和さんのとこにはいつからいるの?」

「もうすぐ1年くらい!!」

桃は話せばすっごく素直な女の子だった。緊張も解けたのか、私が色々質問をするとちゃんと答えてくれる。

駅からRe:LL(W)は5分ほど。なんと2人はその上の階に住んでいるらしい。

外観からは全く家に見えなかったので、てっきり浮羽和は近所に住んでいないと思ってた。

桃がRe:LL(W)の隠れメニュー、抹茶などを教えてくれた時は浮羽和が焦っていた。

BARで抹茶を出すとは珍しい…。

今度頼んでみよう…。

なんと目の前でたててくれるというスペシャルサービス付きだ。いつも階段を下るRe:LL(W)だが下がらず、お店の建物の裏に回る。

そこにはちゃんとした表札と郵便受けとドアがあった。

意外にも家らしい家で驚いてしまった。

「「ただいま」」

「浮羽和さんおかえりッッ!!」

「うん!桃ちゃもおかえりー!」

何だこの素敵な文化。

2人で笑顔で見つめあって靴を脱いでいる。

とても微笑ましい。

「とわさんもおかえりなさいっ!!ようこそっ!わしの家じゃないけどっ!!」

「とわさんいらっしゃい、そしておかえりなさい!」

こんな素敵な2人がいたら疲れて帰ってきても絶対笑顔になるだろう。

というか笑顔にならない方がおかしい。

なんて素敵な人達なんだ…。思わず出てしまいそうになる涙を堪える。

「お邪魔します!そしてただいま!!」

改めて挨拶は偉大な文化だと痛感する。

荷物を下ろしてソファに桃がこしをかけ、グレーのカーペットが敷かれたとこに私は腰を落とした。

何か手伝おうとしたが丁重に浮羽和に断られてしまった。

逆に自分の仕事のせいであんまり相手出来てないから桃の喋り相手になって欲しいと言われてしまった。

なんてお互いを想いあってるんだ…。

桃はスクールバッグから筆箱と教科書とノートを取り出し始めた。多分宿題をやるんだろう。

そっと眺めて見てみる。

中学3年生ということは今は何をやっているんだろう…。ルートとかだろうか…?

教科書は大量の数式が書かれた問題のページを開いていた。

ノートを開き、解くのだろうと思っていたら凄まじい速さで女の子を描きあげていた。

「え、桃ちゃんめっちゃ絵上手いね!!」

普通大人としてしっかり宿題をしなさい、と怒るべきところなのだろうがあまりにも上手すぎてそんなこと忘れていた。

「えへへ、そ、そんなことないよ、あ、!そうだ!とわしゃんの事も描くよ!」

そう言ってサラサラっとまるで線を1本引くかのごとく描いてくれた。

「え、!!凄い!これ!私?!!え!すごーいー!!!!」

「えへへ!!」

「しゃ、写真撮っていい?!!」

「え、え、こんなのでいいの…?ど、どぞっ!!」

カシャカシャッッとスマホの連写音が響く中着々とハンバーグを焼く音が聞こえてくる。

「めっちゃいい匂いがする、、!」

「浮羽和さんのハンバーグは世界一じゃぞっ!」

本当にそこらのお店以上なのが匂いで分かる…。

「はーい!そろそろ出来るよー!机片付けてー!」

無言で共通の目的のために手を動かす2人。

食というものは考えるだけで人にエネルギーを与える素晴らしいものなのだ。

桃はキッチンから台拭きを持ってきて、私は既に盛り付けられているサラダなどを持っていく。

「このお味噌汁ついじゃって大丈夫ですか?」

お味噌というものは生まれ育った場所によって味噌の種類は変わるだろうがこの家は白味噌らしい。

お豆腐と玉ねぎ、わかめのお味噌汁だった。

「あ、うん!ありがとうとわちゃん!」

流石にお夕飯をご馳走になっている身としては何かを手伝わないとうずうずしてしまう。

3人でテキパキと行ったおかげであっという間にご飯の準備が出来た。

時刻は21時手前だった。

普段から浮羽和の仕事の都合で遅めの生活を送っているのだろう。

桃は疑問にすら抱いてない様子だった。

「よぉし!では!いただきますっ!!」

「いただきます…!!」

浮羽和は温かみのある母のような笑みを浮かべてお味噌汁を持った。

一つ一つの行動に品がありすぎる。

本日の主役、ハンバーグ様から手を出したいのを抑えて浮羽和と同じお味噌汁から手をつける。

上品に左手で底をしっかり支えながら音を立てないようにゆっくり喉に流し込む。

「………うまぁーーー!!」

心に染み渡る白味噌の味と優しさと愛情の味。

親のような子を守る、という責任感もどこか感じられてこれまたニッコリしてしまう。

「美味し?」

浮羽和さんの顔面が強すぎてこの質問に答えれなくなりそうなのをなんとか自分の体を引き戻して答える。

「めちゃくちゃ美味いです!!!!!」

「すごい喜んでくれるじゃん、嬉しいじゃん」

「浮羽和さんのお味噌汁美味しいよね!!わしも大好き!!!」

なんて平和な場所なんだ…。

今も世間の荒波に苦しんでいる人は多いだろう。

そんな時は1度ここを見て欲しい。

なんて平和な世界線なんだろう…。

幸せだ…。

このままお味噌汁を飲んで死んでも悔いがないだろう…。

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