第7話 カエルのハンカチ
眺は足を組み直してから口を開いた。
「とわさん、分かってくれたかな?これが伝えたかったことさ」
これは有益な情報すぎる。
資料が増えたこと。
協力者が出来たこと。
確かに私も調べてはいたが夢に関する記事しか調べていなかった。
私が調べていたことは主に2つ。
夢の出現条件と成り行きだ。
なぜ私達2人が選ばれたのか。もしかしたら私達意外にも夢を見ている人がいるかもしれない。
「ながめん、、、ありがとう」
お酒というものは恐ろしいほど感情的にさせる。
あれからジントニックを浮羽和に2杯作ってもらってるから酔っているんだろう。
分かってるのに…。
分かってるはずなのに…。
私の目には涙が溜まっていた。
感謝、安堵、喜び、不安、消失感、様々な感情に駆られる。
既に私の心はキャパオーバーだったのだ。
気付いてないだけで疲労は溜まっていて、体は悲鳴を上げているのに無視し続けた。
疲れを私は感じない、人より限界値が高いのだと過大評価を気付いたらしていた。
「え」
「あわわわ!!」
「ッッ、、?!」
私の泣く声と眠人の驚きでグラスが傾いて鳴った氷「カランッ」と優しい手で私の背中をさする眺の手と服が摺れる音。R&B。
マスターは微笑みながらグラスを磨いている。
ここは、、、、いやこの世界は優しいんだ。
今日出会ったはずの人達ばかりのここが。
今日出会ったはずなのに前から知り合っていたような。
普段の私なら有り得ないだろう。流石に適応能力がありすぎる。
「私、紳士みたいにかっこよくハンカチ出せないや、、、、、」
さやかは焦って鞄の中を漁っていた。
そんな姿が微笑ましい。
「みくり持ってるよ!えっへん!」
誇らしい顔でカエルのハンカチを渡してくる姿が微笑ましい。
「カエル、、w」
少し笑った彼の顔も、全てが微笑ましい。
素敵な世界だ。この空間が好きだ。
今度はジントニックではなく冷水をマスターに頼んだ。
夜明けまでRe:LL(W)ではしゃぎ散らかした。
終始眠人の「あーあ、もうめちゃくちゃだよ」を聞いた。耳タコくらいだ。
この家の家主は私のはずなのに私のシングルベッドにはスヤスヤと寝息をたてて寝ているさやかとみくりがいた。
記憶が曖昧だが意気投合した彼女達をそのままうちに呼んだ気がする。私が呼んだという記憶が正しいことを信じてベッドの使用を受諾するとしよう。
「頭いたっ、、」
グラスを取り出し水を飲む。
二日酔い真っ只中だ。
現在時刻は7:32だった。土曜日で大学自体は休みだが2人は仕事があるかもしれない。
「朝だよー」
軽く声をかけるが起きそうにない。
さやかを起こせば声でみくりも起きるだろうと思い、さやかの体を揺さぶる。
「さぁちゃんーーー起きてーー!」
昨日の意気投合でさやかの事を「さぁちゃん」と呼ぶことにした。
「んん、〜〜、、」
「わかめみたいなアフリカ大陸に行くんだぁぁああ!」
謎な寝言を吐いている。何を言いたいんだ。
「こまださやか!」
肩を全力で引っ叩く。
「いっっっったい!!!!今ぶったよね?!!ぶった?!!!!ねぇ!ぶっttttttt」
軽くもう1発いれといた。
思惑通りと言ったらその通りだが流石にうるさかった。
みくりも「んにゃ、、??」と可愛げがある寝起きの声を出しながら起きてくれた。
結果オーライと言ったらオーライだがうるさい。
枕に突っ伏しているさやかはほっとくとしよう。
「とわちゃ、おはよぉう、今なんじぃ???」
寝起きすら天使とは、これはこれは。
「もうすぐ7時40分、起こしてごめんね。2人は仕事とかあるかな、と思って」
欠伸をしながら「みくりはないよぉ〜」と言い布団を頭まで被る。まだ眠いのだろう。
「さぁちゃんは?」
未だに枕に突っ伏しているさやか。
無理やり上体を起こし肩を揺さぶる。
「とわしゃ、、さっきから私の扱い雑くない、、??」
そうとも言えなくは無いのでスルーする。
「さぁちゃんは仕事あるの?」
「仕事ぉ、、、?……………?」
ダメだ。言語を知らないみたいだ。いっその事動物園に寄付するのもありかもしれない。
「あっ!!!仕事!!!!!!!」
嘘だろこの子。
明日仕事にも関わらずかなり飲んで、、、、。
いやこの子飲んでないわ。ずっとマスターが作る桃ジュース飲んでたわ。シラフでついてくるこの強さ。感動ものすぎる。
「やばいやばい!とわしゃ!どうしよう!どうする?どうしちゃう?」
いや私に聞かないで。知りませんよ。
「と、とりあえず!私帰る!えぇ、、、!もう休みたいぃぃぃぃぃぃぃぃい!!!!」
と言いつつ帰る準備をする。根が真面目な証拠だ。
歯科衛生士の仕事はよく分からないが歯医者というものは土曜日もやっている印象がある。たまに日曜日も営業している所もある気がする。
「とわしゃまたね!また来る!てか、また飲もうね!遊びにも行こう!!またたっっっっくさんお話しようね!!!」
嵐のように去っていったこまださやかさんでしたとさ。
その後天使のようなみくりんと二度寝をした。夜はバイトでみくりんも昼頃には帰って行った。
Re:LL(W)を知れたこと、そこで出会った3人とマスター。今後も仲良くしたい、というかまたみんなでバカをしたいと思える仲間達に出会えた。それだけで私は満足し大きく1歩前進した謎の夢の事など忘れていた。
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