第5話 BAR
イリ駅からアム町まですぐ。3丁目は駅を出たすぐだった。
深夜の街路は静寂に包まれている。
風は静まり返り、穏やかな音色が漂う中、ネオンの輝きが街を照らし出している。
カラオケの右横、下に続く階段がある。
黒いアンティーク系の手すりに捕まりながら恐る恐る階段を下ると紫色のネオンが輝く看板がドアの上に掲げられていた。
店名は〈Re:LL(W)〉《リル》
とてもオシャレな名前のお店だ。
ドアもアンティーク風の木で出来たドアだ。
開くと空調がよく効いていて涼しい風が体を迎え入れてくれた。
私はBARに行った経験が無いので正しい形やよくある雰囲気は分からないが、いかにもという雰囲気のBARだ。
灰色を基調としたモノトーンの空間とR&Bが流れる店内。
お店の奥に演奏スペースがある。誰か演奏してくれるのだろうか。私は音楽経験がないので弾けないがピアノの音は好きだ。
長く続くカウンターテーブルに8個の椅子。
カウンターテーブルを超えると壁の棚一面に様々なお酒が並んでいる。棚の裏はスポットライトが下と壁に埋め込んであり神々しくお酒が光り輝いている。
そこにはいつもと雰囲気が違う彼。
と灰色のサラサラな髪をなびかせている、カウンターに立つマスターらしき男性。
奥の椅子に座っている、後ろ髪が肩くらいの長さで前髪も長めの重めの黒髪の男性。
その隣に座っているのが薄ピンクの髪色が特徴的な女性。
その隣に座っているのが赤のメッシュが入っている巨乳の…おぉ、、…でか…。
赤のメッシュが入ってる巨乳の女性が座っている。
そこから1つ席を空けて彼は座っていた。
「いらっしゃい、はろはろー」
あまりにもウェルカムっちくな挨拶で驚いた。BARというものはこんなものなのだろうか…。
近所の喫茶店にいる感覚に似ている。
とりあえず彼の隣に腰をかける。
「何にしますか?」
優しい温顔で暖かい耳に馴染む声。落ち着きがある声。その声は私をすぐ虜にした。
「あ、え、えっと、、」
初めてのBARで緊張してしまい慌ててしまう。
「彼女にはジントニックを」
確かに何を頼めばいいのか、分からなかったから彼のフォローに助けられた。
けど、ジントニックってなに?
名前くらいは聞いたことがある。しかし詳しくは分からない。
ジンってあのジン…??
「ジントニックっていうのはジンをベースにトニックウォーターで割ってライムなどを添えるお酒だよ〜」
ピンクの髪が可愛らしい雰囲気を醸し出している女性が横から教えてくれる。
私の雰囲気を見てBAR初経験を察したのだろう。
「比較的飲みやすくて酔いにくいからお酒弱い人にもおすすめだよ」
赤メッシュの女性も教えてくれた。ここは客同士の隔たりがないみたいだ。凄く居心地が良い。
「そうなんですか、ありがとうございます」
緊張しながらお礼だけはしっかり伝える。感謝だけは欠かしてはいけない。
「いい雰囲気のお店だろ?」
「はい」
本当にいい雰囲気のBARだ。このBARは、私が想像していた怖い大人の世界とは全く違った。素敵な音楽、客同士の隔たりの無さ、そして居心地の良さ。全てが調和し、至福のひとときを過ごせる場所だった。そしてマスターの落ち着く声が何よりも癒しだった。
「いや、まって、?」
普通に雰囲気が良すぎて忘れてかけていたが、そもそも私を呼び出した理由を聞いてない。僕なりに調べたことってなんだよ。
夜に、しかも日付変わる時刻に呼び出して。怒りの言葉、一言位は言う権利があると思う。
「電話で突然呼び出してさ、私シチューを食べていt」
「とわさん彼女らを紹介したいんだけどいいかな?」
私はそろそろ彼を引きずり回してもいいかと思う。それで暴行罪で捕まっても悔いは無いだろう。
「〜〜っっ!はい!どうぞ!お願いします!!!!」
彼女らというのは隣の席の人達だろう。紹介という事は彼の友人か何かだろうか。そもそもどうして彼がこんな美女達と友達なのだ。納得がいかない。
「あのピンクの髪が良く似合ってて可愛い子がみくりちゃん。元々僕と彼女が友人でね、このBARを教えて貰ったんだよ」
みくりちゃん…よし、覚えた。人の名前はわりかし覚えるのが苦手じゃない。
そんなことよりもこんな可愛い子と知り合える場所があるなら私にも教えて欲しいくらいだ。
「よろしくねぇ〜お名前は?」
「と、永和と申します!」
突然のことで噛みそうになってしまった。
「とわちゃ!みくりの事も好きに呼んでいいよ〜〜」
凄く人懐っこく良い子だとこの一言で分かった。仲良く出来そうだ。
「んじゃみくりん!よろしくね!」
歳も自分とそう変わらなさそに見える。やはり歳が近いと親近感や安心感が増すというものだ。
「みくりちゃんの仲がいい人達で僕も仲良くさせてもらってる、右の女性がこまださやかさん。左の方が
こまださやかという女性は仕草が婉麗で謎の色気があった。何だこの色気は。
名前を呼ばれた瞬間、瞳が弧を描くような笑みで微笑んできた。
雨宮眠人は人との距離感をある程度はきちんと保つタイプなようで紹介されても会釈だけで挨拶をしてきた。このようなタイプの方が変に軽々しい男よりかは私は安心できる。
本当にここにいる全員と仲良く出来そうで安心した。
「おっ、この流れは自分も自己紹介する流れですね!」
私のジントニックを作る手を止めて今まで静かに聞いていただけのマスターが口を開いた。
「初めまして、僕は
もう既にあなたの声の虜です。と言うのを抑える。
見た目が良いしかっこいいし、一つ一つの行動が繊細な動きで虜になる。マスターの服がとてつもなく似合っていて、プラス声もいい。神は二物以上を与えてしまったようだ。まさに錦上添花だ。
「どうぞっ」
コリンズグラスに入ったジントニックを浮羽和に渡される。よくある机の上に置いて滑らし差し出させる感じだ。
小さくカットされたライムがちょこんと添えられていた。
可愛らしいサイズだ。
「ありがとうございます」
笑顔で受け取る。明らかにニヤけてる顔だ。自分がとてつもなく気持ち悪い。
口に含んだ瞬間、キリッとした辛口の味とトニックウォーターの甘み。しかし、炭酸の爽快感が喉越しにはよくアルコール度数も高くないので飲みやすい。少し辛口すぎるが苦手ではなかった。
それに浮羽和に作って貰ったのなら、なおのこと美味である。
「美味しいです!」
マスターは微笑む。とてつもないほどの輝きでバックのスポットライトはマスターを照らす。お酒のためではなく彼のためにあるかのようにも思える。
「ジントニック飲めるのぉ?!!とわしゃ凄いね!!」
確かに辛口だが飲みやすい。
いや、ここは甘口しか飲まないフリして女の子らしくするべきだったのだろうか…。
とりあえずいい。自己紹介も済んだし、彼の話を聞くことに…。
「そして、彼女は僕の教え子。永和さんだ。声質はギャルみたいで元気が出るだろ?」
おい、ギャルとはなんだ。ギャルとは。
というかそろそろ話させて欲しい。
「確かにー!」「元気が出るお声してるねっ!」「…グビッ」
共感する者もいれば、ただ黙々と酒を呑む者もいる。参加者全員が自分自身のペースを貫く、まさに個性豊かな集団であった。
いやいや。
みんなマイペースすぎだろ!!!!!
怒り任せにジントニックを一気に飲み干す。
いくら飲みやすいジントニックでも辛口の酸味がクラっときて一気にアルコールが回る。
「ガンッ!!!!!!」
きっとこのグラスも浮羽和が一生懸命に磨き上げているんだろう。曇りひとつもない。だから怒りに任せて机に打ち付けるのはやめたが音だけはそれっぽく出せる力加減で打ち付けた。つまり打ち付けたのだ。
「そろそろ!話させていただいてもよろしぃでしょうかね?!!!」
急性アルコールで酔いが一気に回る。だがしかし、今はお酒の力を借りないとやっていられない。
「と、とわさん?どうしたどうした。度数高かった?大丈夫?」
この男の何も知らない感じが更に私をイラつかせる。
「そろそろ呼び出された理由聞いてもいい?」
先程まで褒められていたギャルみたいな声ではなく低めな声で怒りの口調を交えながら言う。私は怒っているのだ。
「ごめんごめん、僕の友人をとわさんにも紹介したかったんだよ。なんせとわさんとは今後長い付き合いになりそうだからね」
さっきから思う。彼は意味深な発言ばかり今日はする。意味深というか回りくどい。
なんなんだ。
「これを見て欲しい」と彼は言いながらいつも持ち歩いてる茶色のカバンからファイリングされた資料らしき物が出す。
3人はまるで知ってるかのように興味すら示さない。これが大人の余裕というものだろうか。いや年齢は聞いてないから分からないが。
「これは…」
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