第2話 彼色の教授室
お昼の休憩の時間になった。
天気予報通り雨が降ってきた。
傘など持っていないので大学で借りることにした。今日は借りる人が多そうだがはたして残っているだろうか。
教授室は大学の2階に固まっている。彼は2階の中でも奥の方で日当たりが少し悪い。
「
常識としてノックを2回ほどしてから声をかける。
「入っていいよー」
彼のよく通る高めの声が聞こえてきた。
講義ではよく聞こえるのでありがたい声だなと思う。
「失礼します」
彼の教授室の中は会議室によくありがちなローテーブルとパイプ椅子が4つ。部屋の角に少し大きめな棚があり本がしまわれている。かと思ったら、本の合間合間にゲームカセットが密かに入れられている。これはいいのだろうか…。
机の上にはカゴが置いてあり複数の種類にわたるグミが入れられてる。確か前にグミが好きと言っていた。
彼の向かい側のパイプ椅子に座るように促される。
「雨が降ってきたねー、僕傘持ってないよどうしようかな」
シトシトと外から聞こえてくる。
雨音とジメジメしている教授室。
まるで世界に…2人っきりのようだ…。
というそんなあまあま展開は私達にはない。
「私もです。後で大学の貸し出しの傘借りようと思います。ながめんのも残ってるといいね」
机の上に置いてあるグミに手を伸ばす。
苺や葡萄、檸檬などのフルーツグミを口に入れる。果汁そのものの甘さと周りに付いてる酸味のパウダーがいい味を出している。
「さて、僕のことを知りたい、という事だが…なんだい?」
明らかにニマニマしているこの顔を殴り掛かる衝動を抑える。
「朝話してた夢の事について聞きたいんだけど」
彼も机の上のグミを漁り出す。糖尿病にならないか心配だ。
「夢?……あー僕好みの少女の話?」
"好み"という余計な一言に突っ込みたいが我慢し頷く。
彼の好みなど心底どうでもいい。
「さっきも話した通り少女が僕に助けを求めてきたんだよ、僕は何もすることができなかったけどね」
彼も私と同じ為す術なくという状況だったようだ。
「起きたのは何時?」
「確か…8:39だった」
大方私の起きた時刻とリンクしている。
やはり私と彼はほぼ同時刻に同じ夢を見てた、ということになる。
でも、なぜ。
どうして。
そもそも、なんで私と彼なんだ?
聞いたはいいものの…だった。
「どうした?」
彼は首をコトンっという仕草を見せる。
彼に状況を説明した。
私と彼が同じ夢を見ていること。しかもそれがほぼ同時刻で私は詳しく情景を覚えてないこと。不可解なことばかりだが、ありのままに包み隠さず話した。
「なるほどな…それは不思議だね」
腕組みをして考え込む彼。意外にも筋肉質な腕だった。何か鍛えているのだろうか。
「でも、とわさんの勘違いじゃない?たまたまだよ。偶然が重なっただけさ」
そこまでセリフも一緒で情景も一緒なことがあるのだろうか……。
確かに私は彼ほど詳しく情景を覚えていない。少女の見た目も詳しく覚えていない。
長い髪なんて覚えていないし、深みのある青色の瞳だなんて覚えていないし…。
「ん…?」
自分の思考に疑問に感じて思わず声を出してしまった。
彼は長い髪の事は言ってたが深みのある青色の瞳だなんて一言も言ってなかった…。
違う。これは私の記憶だ。
深みのある青色、紺色に近い…警察官の服の色と言ったらわかりやすいだろうか。
いや、青色と水色を混ぜたような色…、、
違う朱色だ…。
熟れすぎたミカンのような鮮やかなオレンジだった気がしなくもない…。
コンソメスープのような透明な薄黄色か…。
いや、、、。
ダメだ、何がなんだが分からなくなってきた。
そもそもさっきは思い出せなかった少女の姿が何故今となって思い出せるんだ?
疑問しか増えない。
1人で悩む姿と感情があまりにも表に出ていた。
「とわさん、何を悩んでるの?さっきから小さな声で「ん?」ってずっと言ってるよね。どうしたの?少女がどうかしたの?」
流石に彼に話さずに自分の中で悶々と考えすぎた。
「私は最初ながめんから少女の話を聞いた時少女の見た目すら思い出せなかった。黒いモヤモヤがただ助けを求めできたことしか覚えてなかった。けど今ハッキリではないけど髪色や瞳の色が思い出しかけてきたんだよね。これってどうゆうこと?」
たまには人の手も借りないとだ。頭脳はいくらあっても困らない。
彼も忘れがちだが大人なのだ。しかも大学教授。それなりの頭脳は持ち合わせてるはず。
「んー、なんだろねーーー」
これは……何も考えていない顔だ…。
聞いた私が間違っていたのだ。彼の言う通り偶然が重なっただけかもしれない。
そう深く考えのはやめよう。なんか考えるだけ無駄のようにも感じてきた。
「変なこと聞いてごめん、私そろそろバイトなんで」
葡萄のグミをもう1つ食べて椅子から立ち上がる。
雨は強くなる一方でやはり傘を借りなければいけない。
「うん、気をつけて。君が見た少女と僕の見た少女が例え同じだとしても、それがなんだと思う?もし君が言う同じ夢を見ているとしてもそれがどうした。実際にそうなってる訳じゃあるまいし。そう深く悩むことじゃないと、僕は思うよ」
彼は軽やかに微笑んだ。唇の両端がほんのり上がり、彼の発言には落ち着いた語調が宿っていた。
私の考えすぎだ、と自己にも言い聞かせる。
そのまま教授室を後にした。
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