同じ夢を見る僕らは

永和

第1話 夢から始まる教授と生徒

「ねぇ、たすけて」


















麗しい通るような声が響く。




少女がこちらに右手を伸ばす。




伸ばした手を掴もうとした。



だが…


「はっ!!!」

「はぁ!はぁ!はぁ、、、」

今のは…。


けたたましいアラームと共に目覚める朝。

今日も一日が始まる。

朝は優雅にカフェインでも取りながらテレビや新聞等を読みニュースを得る。

軽くストレッチをし時間に余裕を持って家を出る。

……なんてものはたかが理想だ。

私、永和とわは情報科の大学2年生。

アラームをかけてあるはずだったのに起きたら遅刻ギリギリ。朝ごはんを食べる余裕などあるはずもなく、パジャマを脱ぎ捨て夜遅くまでやってた課題を鞄に詰め込み家を慌てて出る。

「やっべ!今日一限ながめんやん!!!絶対いじられる!!!!」

ながめんとは私の通っている大学の情報科教授。フルネームは蒼空眺あおぞらながめ。情報科なのにも関わらず機械音痴で知識は生徒に負ける事も多々ある。

しかし持ち前の元気とトーク力で生徒からの信頼を獲得していた。


9時から講義は始まる。現在時刻8:44。

電車で大学まで15分。うん、微妙だ。確実に遅刻だが3分程の遅刻になるだろう。

このケースが1番いじられやすい。

「はぁ…。仕方ない、寝坊した私が悪いし」

電車に乗ってスマホの通知を確認する。

LINEが3件。大学の友達だ。

その他のSNSにも2、3個通知が付いている。天気予報アプリからは午後から雨と言われた。傘など持っていない。

あとでどうにかしよう…。

遅刻は確定なので駅から大学までの道は余裕を持ってるかのように優雅に歩いていこう。

大学に入った瞬間、慌てて来ましたかのように走る。

どこの教室も講義を行っている。静かに廊下を歩き、彼の講義の教室の後ろからコソッと入る。

どうか、、鈍感さを信じて…バレませんように…。

「あ、とわさん。おはよう」

はぁ…。だよなぁ…。

「おはようございます」

生徒全員が私の方に注目する。

目立つのは嫌いでもない。ただ悪目立ちはしたくない。

「遅刻した理由は何かな?一応聞いとこうかな。僕の予想は朝ごはんのフレンチトーストが上手く焼けず遅刻したって所だけど、当たってる?」

何をこの人は馬鹿げたことを言ってるのだろう。先日私に朝ごはんを食べてきてないことを指摘してきたばっかではないか…。

ただ、それが面白いのか生徒達はクスクスと笑い出す。

「ただの寝坊です、すみません」

あまりにも彼の冗談がウケすぎて言うのがとても気まずかった。

「まぁまぁ、僕もさっき教授室で居眠りをしてたから今回は目をつぶろう」

彼の許しを得た所で席に座る。隣は親友のなずなだ。

「とわ〜遅かったねぇ〜、また夜更かし?」

「うん、ゲームしてた」

「寝なきゃダメだよ〜、居眠りなんかしたらながめんにまたいじられちゃうよ」

彼女がそれを楽しんでるのも承知だ。

彼と私の関係性はただの教授と生徒。それ以上も以下もない。もちろん今後もだ。

「居眠りで思い出したんだけどさ、僕さ」

彼のいつもの世間話が始まった。

「さっき教授室で寝てた時に変な夢見たんだよなー、1人の少女が髪が長かったかな僕好みの女性でね、あれはどこだろ…海だ。深い海だったと思う、綺麗な海でさ。凄かったんだけど、その少女が僕に言うんだよ」

『ねぇ、たすけて』

隣に座っていたなずなが驚いている。無理もない。私の発した言葉と彼の発した言葉が一緒だったからだ。

私も目が飛び出そうなくらいに驚いている。

彼ほど情景は詳しく覚えてないが確かに私も夢で誰かに「ねぇ、たすけて」と言われた。確実に言われた。耳が覚えている。

現に今彼の言葉を予想出来た。

ただ、あまりにも現実離れしすぎててにわかに信じ難い。だが…。彼に聞いてみよう。


講義は終わり生徒は彼の周りに集まった。

本当に凄い人気だ。私には何がいいのかさっぱり分からない。いつもなら即教室を出る。しかし今日はやるべきことがある。

「ながめん、聞きたいことあるんだけど」

「ん?珍しいねとわさんが僕に聞きたいことなんて、それはつまり恋のお悩みかな?」

そろそろこの勘違い野郎を私はぶん殴ってもいいかなと思っている。

「ちがうちがうーとわはながめんの事を知りたいんだってさ♡」

私の震える右手の拳を見てなずなは気を利かせたつもりだろうが全然フォローになってない。なんならなずなの事もほっぺを解けたチーズみたいに伸ばしきってやろうかなと思う。

「え、!そうなの!とわさん!いいよ!僕この後講義ないから後で教授室来なよ」

もう弁解する元気すらなかった。

「はい…ありがとうございます。お昼に行きますね」

お昼に彼との約束を取り付けることに成功した。

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