第3話 預かり銀行ってどんな店?
「お前らの世界でも『
チャンプスはぴょんとジュラーネの肩から飛び降りると、さっきまで彰が見ていた棚の方まで駆けていき、箒の柄の部分をポンポンと触った。
「簡単に言うと、魔法道具を預けてもらう代わりにお金を貸すって店だ。お前らの世界みたいなちゃんとした銀行なんてものはねーからな。例えばアキラが自分の持ち物の中で値打ちがあるものをここに持ってくるとするだろ? それをジュラーネが鑑定するわけだ。お前らの国のお金の単位は? ふうん、円か、じゃあ千円だったとしよう。そしたら俺たちは九百円までお金を貸すわけだ」
「お金を借りるってことは、利子をつけてちょっと多めに返すってこと?」
里琴の質問に、チャンプスは「そうだ」と尻尾を振って見せる。口は悪いけど、なんだか動きがアニメみたいで憎めないやつだ。
「その利子がオレたちの儲けになる。金を返してもらったら、こっちも預かってたものを返すってわけだ」
「万が一お金を返してもらわなかったら、預かってた品物を貰うの?」
「おう、アキラも勘がいいな。その通りだ、だから鑑定したよりも安い金しか貸さねーんだ。踏み倒されてもこっちは損しない。こうやって中古品として売るんだよ」
なるほど、ここに並んでるのは魔女がお金を返さずに手離してしまった魔法道具ってわけか。
「あの、ジュラーネさん、訊いてもいいですか?」
「なんだい、お嬢ちゃん」
まっすぐに見つめられ、里琴が小さく深呼吸してから口を開く。
「なんでこの店をやってるんですか? 魔女ってお金に困ってるんですか?」
それを聞いた彰は、確かに、と思う。自分の大事な魔法道具を預けてまで、この店を利用する魔女が多いのだろうか。
彼女の質問に答えたのは、チャンプスではなくジュラーネだった。
「この世界もだいぶ時代が変わったからねえ。例えば、昔は遠くに荷物を運ぼうとしたら魔女に頼んで箒で飛んで届けてもらうのが一番早かったのさ。でも今は電車もできて、船もできた。あんた達の世界みたいに車があるわけじゃないけど、それでも別に魔女に頼まなくてもよくなった。そうやって仕事にならなくなったり、体も魔力も弱ってきたりしている魔女を助けるための店なんだよ、ここは。幸いアタシは優秀だったから、食うに困らないくらいは蓄えられたからね」
またキシシッと笑う。自慢げに語っているものの、それはきっと一種の照れ隠しのようなもので、お店をやっている理由に心根の優しさを感じた。
と、ジュラーネが空を指差す。
「さて、今日も何人かお客が来そうだね」
「あれはリズルのところの鳥だな」
あの鳥は美味そうだからつい食べたくなっちまう、と言うチャンプスが短い腕で示した先から、一羽の真っ赤な鳥が飛んできた。
目だけが黄色い、極彩色のその鳥は、店の中まで入ってきてカウンターに降りると、深紅のくちばしを開く。そこから金色の砂を吐いたかと思うと、その砂同士が自然と丸く集まっていったかと思うと、シュッと煙があがってコインになった。
「すごい、本物の魔法だ! リンコ、見た?」
「見た! うわー、すごい! すごいなあ!」
彰と里琴は、同じように体を揺らして興奮している。彰が小さい頃から大好きだった、魔法使いをモチーフにしたアメリカ映画。そこに出てきた魔法みたいなことが、目の前で起こっている。これはCGじゃない、現実だ。
「十グルか……今月の利子分ぴったりだね」
「でもリズル、今回もちょっと支払い遅れてんな」
詳しく知りたいな、と思ってコインを覗き込んでいた彰の気持ちを察したのか、チャンプスがそのコインを肉球の上に乗せて見せてくれた。
「西の方に住んでる魔女でさ。お金全部返す余裕はないらしくて、毎回利子だけ払ってんだよ。利子もらってるうちはオレ達も道具は預かったままにしておくからな。でもそれも最近は厳しいらしい」
「何を預かってるんですか? ここにあるもの?」
里琴が陳列されている箒や杖を指差すと、チャンプスは「ちげーよ」と尻尾をピンと立てた。
「ここに置いといたら売れちまうだろ? 預かってるもんは店の奥にしまってんだ」
「ほら、これだよ」
ジュラーネが手をサッと払うように動かすと、奥まった場所から何かがフワフワと飛んできた。大した魔法ではないのかもしれないが、彰はいちいち感動してしまう。
カウンターの上にゴトンと着地したのは、中央にくぼみのある舟のような形の器具と、握り手のついた車輪を組み合わせた道具だった。
「
「んじゃあ、オレが案内してやる。アキラ、リコ、行くぞ!」
突然の仕事の手伝い。それでも、魔女に会えるのが楽しみで、彰は「はい!」と大きな声で返事した。
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