第43話 違う都市での評価

「な、なんだ、貴様らは……!?」


 空から降ってきたからか、帆船前にいた乗組員が警戒の目を向けてくる。


「ああ、怪しいもんじゃない。海事ギルドから荷物の輸送に来た運び屋だ。まだ、荷物の受付は終わってないよな?」


 だから、目的を話すと、乗組員の目つきがいぶかしむようなものになった


「か、海事ギルドの荷材、だと?」

「うん。これこれ」


 俺が輸送袋から金属のコンテナと依頼書を取り出してみせると、乗組員の目つきから警戒がゆるんだ。


「む……確かにこれは海事ギルドの魔法印と、頭領のサイン……だな。少々、確認させてもらうぞ?」


 そして金属のコンテナに触れて何やら確かめること数秒で、乗組員の目つきから完全に訝しみが消えた。


「うむ。偽造はないな。確かに海事ギルドの魔法印だ。これも追加で船に積み込めばいいのだな?」

「ああ。お願いできるか? あと受領印も」


 言いながら依頼書を渡すと、乗組員は魔力を発するペンで、さらさらっとサインをしてから返してきた。


「では、その荷物を受け取ろう」

「ああ、頼むわ。結構重いから気をつけてな」

「重い? なあに、初級職の君が持てるのだから、《上級漁師》の俺が持てないハズは――ぐお?!」


 上級漁師に金属のコンテナを乗せた瞬間、一気に腰が落ちた。


「ぬ……お、重い……!?」

「だから言ったじゃないか。手伝うよ」

「う、うむ。す、すまない、運び屋殿……」


 そうして乗組員の腰を気遣いながら荷物を帆船に積み込み終えて、数分ののち、定期船は出航した。


「助かったぜー、運び屋殿ー!」


 荷物運びを手伝った乗組員が礼と共に手を振ってくるのを見つつ、


 ……水の都でも、星の都での経験を生かして仕事が出来そうで何よりだな。


 などと思いながら、俺は海賊の宿屋まで戻っていく。



 ライラックは海賊の宿屋で、窓の外を眺めていた。


 ……大丈夫かねえ、アクセルさん。無茶しないといいんだけど……。


 仕事を頼んだのはこちらだけれども、あれだけの重い荷物を抱えさせて、無茶な移動をさせているのだ。


 ……マリオンからはとんでもない力と速度の運び屋だってのは聞いているけれどさ……。


 確かにあのコンテナを軽々と持ち上げたのは驚いたが、それでもこの街に来たばかりの人だ。どうしても心配が先に来るなあと思っていると、


「ああ……、定期船、出航しちまいましたね」


 ギルドメンバーの一人が窓の外を双眼鏡で眺めながらそう言った。

 定刻通り。遅れることなく出航された。 


 アクセルは先ほど出て行ったばかりだというのに。


「……さすがに無理だったかなあ」


 思わず呟いていると、宿屋の入り口から声が聞こえた。


「何が無理だって?」

「いや、アクセルさんが荷物を届けるのは無理――って、うん?!」


 声に返答しながら顔を向けると、そこにはアクセルがいた。

 その後ろには汗をかいて、座り込んでいるバーゼリアもいる。

 

「アクセルさんとバーゼリアさん? どうしてここに!?」

「いや、荷物はきっちり届けてきたから戻ってきたんだけど」

「「はい!?」」


 思わずギルドメンバーの一人と声がそろってしまう。

 まだ、出発してから一〇分そこらだというのに。

 そんな驚愕の雰囲気の中でもアクセルは気にすることなく輸送袋の中に手を突っ込み、

 

「じゃ、これ受領印な」


 差し出された依頼書を、ギルドメンバーと共に見る。するとそこには、


「か、カシラ。これ、確かに、あの定期船のサインです……」

「ああ、その船員しか書けない魔法サインだ。本当に、あそこまで行ってきたのか」


 このサインがあるということは、荷物が確実に積み込まれたということだ。

 あの帆船に取り付けられた魔法装置の力場内で、決まった道具を使わないと、このサインは書けないのだから。


「……はは、こりゃマリオンの話以上だ」


 ライラックは思わず笑う。

 マリオンから昨日一晩、話を聞かされていた。熱に浮かれたように話してくる彼女の言葉を疑いはしなかったが、少し信じきれない部分はあった。でも、


 ……マリオンがお熱になるのは当然さ。こんな想像を超えるような人なんだから。


 そんな思いと共に頭を下げる。

  

「アクセルさん、バーゼリアさん。アタシらを助けてくれて、ありがとうよ」

「いいって。俺がやりたいって言ったことなんだから」

「ボクはご主人に付いていっただけだから気にしないでー」

「ふふ、そう気軽に言ってくれると、助かるけどね。……よし、アタシもアクセルさんに奢りたいから、朝飯じゃんじゃん作って奢るからね!」


 ライラックの言葉に、アクセルとバーゼリアは嬉しそうに笑った。


「おお、マジか。ありがとうよ!」

「わあい。ボクおなかペコペコだったから助かるー」

「二人ともがっつり食べて行ってくんな!」


 そしてライラックは、朝食を作る手に力と感謝を込めていくのだった。

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