第8話 複数の報酬と≪運び屋≫の成長性

ルナを風の都に送り届けた俺とバーゼリアは、もう夜も遅いという事で酒場で宿を借りて朝まで眠った。

 その後、二人で遅めの朝食を取っていたら、

 

「おはようございます、アクセル様」

「お邪魔してもよろしいでしょうか、アクセルさん」


 何やら大きな荷物袋を抱えたルナがファングと共にやってきた。

 ルナは数時間前にこの都に降り立っていたグロッキー状態からは想像もつかない程溌剌とした表情だった。ただ、今、外にいるという事は、

 

「あれ? 二人とも、もう渉外が終わりなのか?」


 三十分くらい前に渉外が始まったとは聞いていたが、もう終了とは早すぎないか。と、そんな事を思っていたら、


「アクセル様のお陰で、こちらの交渉も大成功で終わりましたわ。本当に有難う御座います」


 ルナがぺこり、と頭を下げてきた。


「ああ、成功したのか。そりゃよかった。でも、俺はただ間に合わせただけで、交渉の出来には関与してないんだけどな」


 だからお陰も何もないんじゃないか、と思っていたのだが、ルナは首を横に振った。

 

「いいえ、十二分に関係しております。何故なら、今回、ゴブリン達のせいで足止めを食らったのは、交渉相手が仕組んだ事でしたので」

「仕組んだ?」

「はい。《モンスターテイマー》や《モンスターサモナー》の職に就いている者を複数雇い入れ、周辺にいたゴブリンやオークを、星の都と風の都の間に誘導したり、召喚していたんですの。交渉に遅れて相手を待たせた、時間的損害を相手に負わせた、という引け目と交渉材料を手に入れるために」

「ああ、だから前触れなく異常発生してたのか、あのモンスター達」


 魔物が異常発生する時は、大体数か月前から理由があったりする。

 今までの例で言うとゴブリンやオークたちの場合、発情期が到来した数か月後、異常発生につながる事が多かったりする。

 

 だが、数か月から今までの間でゴブリンなどの魔物が発情期だった、などという事実は無かった。だから少しおかしいなあ、と思っていたのだが、

 

「まさか交渉一個にそこまでするとはな……」

「私の……ひいてはこの国から多額の資金を巻き上げられるチャンスでしたからね。その位やってもおかしくはないですの。それ故に、まあ少し大変な相手でしたが……アクセル様のお陰で随分と早く到着出来た上に、平常心で挑めましたからね。その上、遅れてやって来たファングがモンスターテイマーを何人か捕まえて、自白させたので楽勝でしたわね」

「ああ、ファングが遅れて到着したのはそのせいか」

「はは、すぐに追いつくとか言ってすみません。闇に紛れたテイマーを見つけるのに、少し時間が掛かっちゃいました」


 そう言って苦笑するファングが来たのは、ほんの一時間前だ。

 どれだけの魔物や魔獣がいようと、彼一人であればもうちょっと早く切り抜けられただろうに、何をやっているんだろうと思っていたら、モンスターテイマーを捕まえていたとは。

 

「まあ、アクセルさんが早く着き過ぎってのもあるんですけどね。やっぱり竜に乗れる《運び屋》とか反則だと思いますよ、オレ」

「そんな事を言われてもな。使えるものは使わなきゃ勿体ないだろ、な、バーゼリア」

「うんうん。ボクも久しぶりに思いっきり飛べて気持ち良かったからね!」


 バーゼリアは楽しそうに微笑む。

 街中で彼女が本気で羽ばたくと、シャレにならない被害が出るから、普段は街の外でひっそりと散歩をしているけれど。

 たまには今回みたいに、思いっきり空を駈ける事も必要なのかなあ、と元気よく酒場の飯を食べているバーゼリアを見て思う。

 

「……まあ、何だ? とりあえず二人とも無事に到着出来て、しかも渉外までうまく行ったのならば、言う事なしだな」

「そうですわね……っと、そうだ。大事なことを忘れていました。アクセル様にはコレを渡さねば」


 そう言って、ルナは荷物袋を俺の前にドン、と置いた。

 中には、大量の札束と宝石類が入っていた。

  

「えっと、これは?」

「今回の報酬です。お金が五百万ゴルドと、急な依頼の迷惑料代わりとして宝石を入れてありますの。依頼をしたのですから、報酬は渡しませんと道理に合わないですからね。あと、この場での食事代もこちらが持たせて頂きます」

「……初仕事なもんで、相場が分からないけど、こんなに良いのか? 五百万って、五年は贅沢に遊んで暮らせるぞ?」


 俺がやったことは、双子都市と呼ばれるくらい距離感の近い、『星の都』と『風の都』の都市間輸送をしただけなのに。

 こんなに貰えて良いんだろうか。そう思っていたら、目の前のルナに思いっきり頷かれた。


「当然です。今回のアクセル様の働きが無ければ、この額どころではない損害が出ていたのですから。むしろ、少ないくらいですの」

「そういうもの、なのか?」


 疑問を浮かべる俺に対し、ルナだけじゃなくてファングもこの額に納得しているようで、

 

「そういうものなんですよ、アクセルさん。《運び屋》に対する報酬というのは、運んだ距離だけじゃなくて、どれだけ重要なモノを運んだか、という事も関わってくるので。ルナ姫を運んだアナタには、莫大な報酬が合って当然なのですよ」

 

 と、ルナの言い分を補強するような言葉を吐いてくる。

 

「いやまあ、金は貰えるだけ貰っておいた方が、後々のためになるから頂くけどさ。……本当に良いんだな?」

「「勿論 (です)!」」


 依頼者二人に揃って同意されたのだから、これはもう受け取るべきだろう。

 そう思って、俺は大金が入った荷物袋を手にした。その瞬間、


「あ、ご主人。またレベルアップの光が来てるよ!」

「え? あ、マジだ」


 俺の足ポケットに入れていたスキル表が光り輝いていた。なのでいつものように確かめてみると、

 

【規定難度の初仕事完了――条件達成――《運び屋》レベルアップ!】


 レベルアップの条件が変わっていたが、しかしやはり、レベルアップはしていた。


「おお、有り難い。ファングとルナ姫の依頼のお陰でレベル4になったぞ」

「え……? もう、そんなレベルになってらっしゃるのですか!? アクセル様が転職したのはつい最近と聞いていましたが……」

「ああ、つい最近だけど、レベルアップ速度が早くてな。俺も驚きなんだよ」


 そんな事を喋りながら、確かレベル4の横にも未収得だったスキルがあったはずだ、と俺はスキル表を確認する。すると、

  

【輸送袋グレード4 100%拡張 伸縮率500%増加】


 やはり、ここでも新しいスキルを手に入れる事が出来た。

 まあ、内容としてはいつもの、輸送袋が使いやすくなる系のスキルだったが、

 

「ふむ、随分とリュックが柔らかくなったな。口がゴムみたいに伸びる」

「わ、みょーんってしてる。これなら、大きい物もそのまま入れられて便利だね!」


 確かに、これだけ伸びれば槍だって横向きに入れられるだろう。

 これは大荷物を運びやすくなっていい。

 今まで入らなさそうだなあ、と思っていた物も入れられるのだから、仕事の幅も広がるだろう。

 

 こうして俺は《運び屋》としてまた一つ、成長する事が出来たのだった。

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