ブラック職業【聖女】を廃止せよ!

ノエル・フォン・シュテュルプナーゲル

第1話 もう嫌!

「もう嫌!あれもダメこれもダメ!帰りたい!!」


 女神教皇国 大神殿の自室で彼女は叫んだ。


 彼女の名はステラ――

 世界の守護者であり民を支える【大聖女】として君臨している。

 女神に選ばれた神の使途として、女神から授かった加護で世界を導く存在だ――ということになっている。


 大聖女としては歴代最高にして最強――

 白銀の髪色に紅い目をして華麗で可憐、それは女神の生き写し――

 そう謡われる彼女だが女神に選ばれたわけでもなければ、加護もない。


「もう嫌――森でひっそり暮らしてた方が幸せだったよわたしゃ……」


 ステラの正体は【森の魔女】――実際の職業は魔導師だ。


 魔導師とは魔を極めようとする者達の総称。

 魔術を開発し操り、その技術を応用し生成するポーションの開発、魔道具開発など分野は多岐に渡る。錬金術師などそういった表現で彼女を言い表した方がわかりやすいのではないだろうか?


 2年前まで森でひっそりと暮らしていたステラ。彼女は薬や魔道具を作り、時折人里に降りては作った物を売り、その収入で甘味を頬張る。そんな生活を続けていた。それが彼女にとっての幸せだった。

 森に住んでいたのも彼女は容姿が優れ、面倒事に巻き込まれやすいからだ。だがそんなステラを知る者は――


「ステラ様、次は隣国の遺跡で復活した魔人の討伐です」

「もう!こんなババァにばっかり働かせて!恥ずかしくないの!?」

「ステラ様、またその冗談ですか?ふふふ、大昔ならまだしも今の時代は16歳はまだまだお若い女子ですよ。」

「そ、そそそ、そんなお若い女子に働かせまくって恥ずかしくないの!?」


 ステラは【森の魔女】、魔導を極めた彼女は老いない。年齢は秘密だが見た目通りではないステラは16歳ということになっている。



 その理由とは――



 ――時間は2年前に遡る

 とある国のに降りて屋台のクレープを頬張り街を闊歩していたステラ。彼女は広場の【次期大聖女募集!!】と書かれ大きく貼りだされた求人広告をみていた。


【貴女のハートで民の心も浄化!次期大聖女募集!!年収3000万(※大聖女の場合)!募集資格:魔力抵抗値が10以下の女神ノエル教徒・または入信出来る18歳迄】


「この子が今大聖女に近いとされるシャルロッテだっけ?背は確か私より5cm高いんだよね……」


 自身の背の低さを露骨に気にするステラ――

 両手でハートマークを作りウインクをする求人広告のシャルロッテをみて、彼女は鼻で笑った。


「ふふ、この子も大変ね~若いのに。まあでも若いのに貴族よりも稼げるのは魅力的だね~。まあ18歳までだし私には縁のない話――そもそも就労は性に合わん――」


 ――これは武器防具店の求人募集でみる幹部候補募集!と同じ様な謳い文句だろう。実際は下働きから始まり、幹部に上がるまでに何人もやめ入れ替わりも激しい、というのはよく噂される話だ。それに大聖女候補のシャルロッテがいるならば、聖女の補充だろう――と、ステラは出来レースぷんぷんの世知辛い実態を想像した。

 フリーランス魔導師【森の魔女ステラ】として生きて来た彼女に就労の実態も噂に聞く程度の想像でしかない。彼女自身もかつて、とある国で宮廷魔導師もやっていたが好き勝手やって為、イメージ力などどこかから取って付けた程度のものだ。


「職務内容は?」

 特に就労する気もないステラだが、見ている分には楽しく聖女の職務内容欄もとい奉仕内容欄に目を移した。


奉仕内容:瘴気の浄化、討伐業務、ポーション作成、会計業務、その他雑務。

 ※聖堂の掃除、民への炊き出しも含む。

奉仕時間:神殿 6:00~17:00※奉仕内容による


「あ~、聖女っぽい!私でも全部出来そうだな――簡単そう。でも討伐業務?冒険者いるのに?変なの~、待遇詳細は~――」


待遇詳細①:モデル年収

 大聖女年収例:3000万(20年奉仕)

 聖女年収例:900万(10年討伐メイン奉仕)

 見習い聖女年収例:400万(4年奉仕)

 ※討伐出来高にもよる


 最初の1年は試用期間となる

 ※試用期間中は時給制ですが衣食住保障で見習い聖女と同等です


「あ~、結構いいのね。でもこれって一握りなんじゃないの~?私が若ければやっちゃうかもしれないね。続きはどれどれ?」


待遇詳細②:衣食住

 個室寮完備→実際の部屋の間取りとイメージ

 3食付き(お菓子付)→お菓子のイメージ(ケーキが彩りみどり)

 法衣支給(法衣持ち込みも可)     


「あ、あれ?結構よくない?こんな簡単そうな業務で……?」


 個室の間取りは1LDKお風呂付、ステラの小屋の様な住み家とは大違い。

 3食付き、シチューのイメージイラストがどことなく美味しそうで、ケーキのイラストも描かれていた。


「ショートケーキとか毎日食べられるってこと?」


 ステラは少し聖女という職業に興味をもってしまった――


「いやいやいや、18歳までって書いてるじゃん!いや~ね~もう、ははは……」


 とは言いつつも後ろ髪を引かれる思いで求人広告を後にするステラ。

 その時、誰かが後ろから話しかけてくる。


「あ、あの……、その求人広告がんですか?」


 ステラは後ろを振り向き声の主を見る。


「――貴女は……?本物?」

「あ、はい、初めまして、私は聖女をさせていただいております。シャルロッテと申します。」


 声をかけて来たのは求人広告にも起用されたシャルロッテ本人だった。

 少しカジュアルにも見える法衣を纏いながら、彼女はもじもじとステラに視線を送る。


「少し、私とお話しませんか?そ、その……」


 なんで?とステラは当たり前の様に思った。魔導師には理屈っぽい者が多い。広告を見ていたら話しかけられたのだ。ステラは身構えた。


「あ、その、そんな身構えないでください。そ、その……そこのカフェでケーキをご馳走しますので……お話しませんか?あ、えーと、友達になれるかなって思って。なんでも選んでもいいですよ」


 シャルロッテは貴族御用達、高級スイーツカフェ【ヨネダ】を指さした。

 ケーキと飲み物を頼めばステラがいつも食べているクレープが100個は買える高級店だ。


「あ、あー!なんだー!お友達になりたかったのね?ケーキご馳走してくれるの!?しかもヨネダ!?え~悪いなー!でもそこまでいうなら~ミルクレープとショートケーキご馳走になろうかな~?食べてみたかったんだよね」


 ステラは身体をくねくねとせわしなくニヤニヤしながら踊る。


「かわいい……」


 彼女は【森の魔女】、甘味を食べられるのは貴族だけ!という時代から生きている年長者だ。いまだに甘いスイーツに目がない。甘味が庶民にも味わえる時代になっても当時から持つその感覚は今だに根強い。普段は屋台のクレープですら贅沢だ。


「では、なんでも頼んで大丈夫ですよ」

「あら、わるいわね~えへへ」


 とミルクレープとショートケーキ、調子に乗ってモンブランまで頼んだステラはご満悦でシャルロッテの話を聞いていた。


「そっか、そんなに人手不足だったんだ。神殿の仕事って大変なんだね」

「神殿というか、聖女の仕事ですけどね。身体が何個あっても足りないですよ」

「へ~、でも給料もいいし憧れの職業でしょ?いいじゃないの」

「そうはいいますけどね~、まあ今は人事部と医療部の掛け持ちで比較的、楽でいいですけどね」


 シャルロッテの身の上話を聞いてあげる内に、若い子にとってはそれが大変なんだろうなと人生の先輩風を内心吹かしていた。宮廷魔導師時代も好き勝手やっていたステラだが楽だったというわけでもない。でもシャルロッテの話を聞く限り聖女の仕事はそこまで大変でもなさそうに彼女は感じていた。


「ふーん、まあ中身を知らないから私には何も言えないけどね。浄化、討伐、ポーション、会計だっけ?」


 なんていうものだから人事部シャルロッテはくらいつく。


?ステラさん、神殿に1日聖女体験しにいきませんか?」

「あ、私は別に――」

 

 そもそも18歳というかもう年齢は言いたくない程に年長なステラは当然断ろうとした。


「お土産のケーキも3個頼んでいいですよ」

「ちょっと体験していこうかな!?」


 お土産の高級ケーキを包んで貰ったステラはニマニマしながらシャルロッテとこの国の神殿へ向かった。シャルロッテはしっかりと領収書をもらっていた。人事部の経費にするのだろう。


「――ここがこの国の神殿です。女神教皇国の大神殿とは違いますが、規模としては大きい方です」


 城の様に大きな大神殿の中には、法衣を纏った聖女見習いが数名いた。


「シャルロッテ様、お帰りなさいませ。」

「ただいま、皆さん、今日はこちらの御方が見学されますので失礼の無いようにお願いしますね」

「『御方』ということはそれほどの御方なんですね?」

「はい、そうです」


(ん?なんの話?もしかして歳バレてる?)


 歳はバレていないがステラはその程度の発想しか出来ない。


「あくまで体験なのですが、ステラさんには今日はこの法衣を着ていただきます。一応、一般開放している聖堂以外の部分にも立ち入りますので」

「ああ、なるほどね」


 あくまで人事部的な体験の為に着させただけなのだが、ステラは抗菌加工された作業着、魔導師的に言えば魔導師ローブくらいの感覚でいた。ポーションを作る体験をするなら当然だとも思っていた。


「やはり、似合いますね……ステラさん」

「まあそんなおべっかしなくてもいいのに、えへへ」


 シャルロッテはおべっかしていなかった。そこまでステラの容姿は優れている。


「それでは今日はステラさんに、ポーション作成と浄化の体験、医療現場の見学をしていただきます」


 こうしてステラは聖女への第一歩を大きく大きく踏み出していく。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回!ポーション作成と浄化!


20万文字~25万文字程度で完結させる予定です。

よければ最後までお付き合いください。

ステラの奮闘をみたい御方は


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転生錬金術師の地球出戻り聖女譚

という長編予定のものも書いてます!

ぜひぜひよろしくお願いします!

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