デート(仮)――2

 映画館は、駅から徒歩五分の位置に建てられた、大型複合商業施設のなかにある。


 映画館を訪れた俺たちは、エントランスでどの映画を観るか相談していた。


「どれがいいかな? 話題作だらけで迷っちゃうね」

「これなんてどうかな?」


 上映中作品のポスターを月花がキョロキョロと眺めるなか、俺は一枚のポスターを指さした。人気恋愛漫画を実写化した作品のポスターだ。


「月花、この前これの原作を読んでいただろ?」

「覚えててくれたの?」

「ああ。俺も原作読んだことあるし、一緒に楽しめるんじゃないかな?」


 目を丸くする月花に、俺は微笑みかける。


「じゃあ、これにしよっか……えへへへ」


 原作を読んでいたことを覚えてもらっていたのがよほど嬉しいのか、月花がふにゃんと頬を緩めた。愛らしい表情に、俺の胸がキュウッと疼く。


「よ、よし! 観る作品は決まったし、列に並ぼう!」


 これ以上ときめいたらまたしても赤面してしまう。そう危惧した俺は、月花から目を逸らして受付を指さした。


 日曜日だからか、列には結構なひとが並んでいた。しばらく待って、ようやく俺たちの番がくる。


「いらっしゃいませー。どの作品をご覧になりますか?」

「これでお願いします」


 和やかに対応してくれた、二〇代後半とおぼしきお姉さんに、俺は希望する作品を伝えた。


「では、こちらのタッチパネルで座席を選んでくださいねー」


 お姉さんが、カウンターに置かれた機器を手で示した。俺と月花はふたりで画面を覗き――「「むぅ」」と渋い顔をする。


「隣り合って観られる席がないね」

「混雑してるからなあ。しかたないと言えばしかたないんだろうけど……」


 画面に表示された座席のなかに、ふたりで観られるものがなかったからだ。


 一緒に来たことに加え、仮ではあるが俺たちはデートをしているのだ。せっかくならふたりで観たい。


 どうしようか悩んでいると、「でしたら」とお姉さんが提案してきた。


「こちらのカップルシートはいかがでしょう? ちょうどひとつ空いていますよ」

「「はぇ?」」


 思わぬ提案に、俺と月花は揃っての抜けた反応をする。


 ニッコリと笑うお姉さんの視線は、繋がれた俺たちの手に向けられていた。俺と月花がカップル(仮)なのは筒抜けらしい。


 繋いだ手から伝わってくる体温が急上昇した。見ると、月花が赤面しながら唇をモニョモニョさせている。


 俺もまた、月花と同じように全身をカッカさせていた。きっと顔も真っ赤になっていることだろう。


「あ、あきくんは、どう思う?」

「つ、月花が嫌じゃなければ、いいと思う」

「い、嫌なわけ、ないよ……あきくんだもん」

「そ、そっか……じゃあ、カップルシートにする?」

「う、うん。そうしよっか」


 ふたりしてモジモジしながら、俺と月花は頷き合う。


「はふぅ」と溜息をついて、受付のお姉さんが呟いた。


「てぇてぇ~」

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