ボッチ卒業と男飯――4

「――それでね? 趣味は読書ってわたしが答えたら、みんな興味を持ってくれてね? オススメの作品を尋ねられたの。それでわたし、『転生したらドラゴンだった件』を挙げたんだ」

「雛野、好きだもんな。『転生したらドラゴンだった件』」

「で、コミカライズ版もあるよって教えたら、読んでみようかなって、みんなで書店に行って、買ってくれたの!」

「おお! 布教成功じゃないか」

「うん! まあ、わたしの本当のオススメはあきくんの作品なんだけどね?」

「それだけはオススメしないでください! マジでお願いします!」


 テーブルに打ち付ける勢いで頭を下げる俺に、「冗談だよ」と雛野がクスクス笑ってみせる。


 和やかに談笑しながら、俺と雛野は夕食をとっていた。


 チャーハンも野菜サラダも散々な出来で、決して美味しくない。それなのに、雛野と一緒に食べていると不思議と気にならなかった。どうやら味よりも、雛野と一緒に食べていることのほうが、俺には重要みたいだ。


 俺、雛野と一緒に過ごす時間が好きなんだなあ。


 そんなことを自覚して、気恥ずかしさで顔が熱くなった。


 それにしても、今晩の雛野はいつになくよく喋る。天堂さんたちと遊べたことがよほど嬉しいのだろう。はしゃいでいるのだ。


「楽しんでこられたのなら、俺としても嬉しいよ。いい友達ができたな」

「うん! あきくんのおかげだね!」

「俺の? いや、雛野が高校デビューしたからだろ」

「けど、わたしが高校デビューしたのって――」


 そこまで言って、雛野がハッとしたように口を覆った。口が滑ったと言わんばかりの反応だ。


「高校デビューしたのって?」

「いいいいまのは……その……なんといいますか……と、とにかく! あきくんのおかげなの!!」

「えっと……俺がなんかしたんだ」

「そう! あきくんがなんかしたの!」


 なんの説明にもなってない。雛野の言っていることがサッパリわからない。


 それでも、雛野の慌てようからして、この話は掘り下げないほうがよさそうだな。機嫌を損ねられたらかなわないし。


 心のなかで頷き、俺はなにも気にしていないように笑う。


「そっか。俺がなんかしたんだな」

「そう! そうなの!」


 納得した振りをすると、雛野がホッと胸を撫で下ろした。


 そんな仕草をしたら、本当のことを隠したがっているのがバレバレだぞ、雛野。まあ、追求はしないけどさ。


 雛野の微笑ましさに苦笑して、俺は話題を変える。


「カフェのほうはどうだった?」

「とってもいい雰囲気のお店で、陽向ちゃんの言ったとおり、スイーツがスッゴく美味しかったよ。ランチメニューも豊富で、パスタとかオムライスも食べられるみたい」

「それは気になるな。俺も行ってみたくなってきた」

「そっか……」


 俺が興味を示すと、雛野が急にモジモジしはじめる。


 どうしたのだろう? と首を傾げていると、頬に朱を差しながら、雛野が勇気を振り絞るように言った。


「えと……今度、一緒に行かない?」

「え?」

「よ、よかったらでいいんだけど……その、あ、あきくんと一緒に、行きたいなあ……なんて」


 期待と不安が入り交じった表情で、雛野が俺を見つめてくる。


 全身がカアッと熱くなった。


 こ、これって、デートのお誘い……なのか? 男女が一緒にお出かけってことだし……いや、けど、幼なじみとしてかもしれない……ど、どうなんだろう?


 異性との交流経験がなさ過ぎて、上手く判別できない。俺は軽く混乱に陥る。


 それでも答えは決まっていた。


「お、俺でよければ、喜んで」

「は、はい……よろしくお願いします……」


 答えると、雛野の顔がますます赤くなった。


 照れくさくて、むず痒くて、俺はポリポリと頬を掻く。雛野も同じ気持ちなのか、髪の先を意味もなく弄っている。


 青春の気配をまとった居心地の悪さは、それから二分ほど続いた。

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