薄紫色の花⑤

 いったいどのくらいの時間だったのか。

 おそらく数秒だったのだと思う。

 けれど梓にとっては心臓が速く打ちすぎて止まってしまうかと思うほど、長い時間だった。息を詰めすぎて苦しい。


 それが解けたのは、渉が、ふっと笑って「取れたよ」と体を引いたときだった。


 取れ、た?


 梓はきょとんとしてしまう。

 渉の言葉の意味がわからなかった。

 なのに、渉はさらりと手を差し出した。


「花なんてくっつけてきて。どこ通ってきたんだ?」


 花?

 ……え、花?


 渉の手を、梓はぼうっと見た。

 そこには薄紫の花びらがあった。確かに花だ。


「これ、藤の花だな。季節の花をくっつけて帰ってくるなんて、風流だな」


 渉は楽しそうな目で、てのひらの薄紫の花びらを見た。

 数秒、その様子を見守ってしまったけれど。


 不意に緊張が解けた。

 しかし今度は違う意味で恥ずかしくなってしまう。


 渉は髪についていた花びらを取ってくれただけだったのだ。

 なのに撫でられた、なんて誤解をしてしまって。


 また顔が熱くなるのを感じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る