薄紫色の花④

「梓」


「なに?」


 名前を呼ばれて、普通に答えたのだけど渉に手招きをされた。


「ちょっと、こっち来い」


「? うん……っ!?」


 渉に招かれるままに近付いたけれど、直後、梓は言葉が止まってしまった。渉の手が頭に触れる。


 え、なに、突然!? 

 頭を撫でられ、てる……?


 一瞬にして頭の中が煮え立ってしまった梓とは逆に、渉は特に変化のない優しい目をしている。

 あたたかみのある濃い色の瞳。

 そんな瞳が間近で見られることに心臓が飛び出しそうになってしまう。両方から顔が一気に熱くなってきた。


 でも頭なんて撫でてくれているというのに、なんでもない顔なのはどうして。


 さわさわと髪に渉の手が触れる。こんなふうに男の子に触れられたことはなかった。

 胸が熱くなる。


 渉の手は大きくてあたたかかった。

 お風呂に入ったからだろうか。ほかほかと高くなった体温が直接伝わってくる。

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