薄紫色の花①

 その夜。

 お風呂から出てきて、リビングにて髪をタオルで拭いている渉を、梓は捕まえた。

 梓はまだお風呂に入っていないので私服だったけど、渉はすでに寝るときにも着るスウェットを着ている。

 こういう姿を見るのももうすっかり慣れた。

 すごく特別な姿だから、渉に憧れている子はうらやましく思うだろうけど。


「お兄ちゃん! 生徒会役員をやってるってほんとなの!?」


 わしゃわしゃと髪を拭いていた渉は、その手を止めて梓を見た。きょとんとしている。

「あれ、言ってなかったか」


「言ってなかったよ! だって集会でも特に……」


 生徒会役員、しかも副会長なんて重要な立場なら、集会で話をしたりするだろう。

 けれど梓はそういうものを見たことがなかった。だから気付かなかったのだけど。


「集会では会長しか話はしないからな。俺はあくまでも副会長だから、今は別に」


 しれっと言われてしまった。

 梓は黙るしかない。

 そういえばそうだった。

 集会で話をするのは生徒会長のみだ。

 きっと副会長のお兄ちゃんもそばにいたのだろうけれど、近くに立っていただけだったのだろう。

 それで梓はまだ集会も数回目で、聞いているだけで精一杯だったから気付かなかったようだ。


「それで、副会長だったらどうなるんだ?」


 逆に質問されてしまった。梓は、う、と詰まる。

 今日のホームルームで決まってしまったことは言いづらい。

 でも言わないわけにはいかない。言わずにいて、顔合わせのときに驚かれる……なんてのは困るし。

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