学園の日々⑤

 スタートからゴールインまでがまるで一瞬だったように感じた。

 梓は夢を見ていたようだ、と思ってしまった。いつのまにか詰めていた息を、ほうっと吐き出す。

 それは教室の中も同じだった。

 女子たちが一斉にため息をついたような空気が流れる。


 それを感じたようで先生がやはり顔をしかめた。

 けれど騒ぐ子はいなかったので、先生も注意しないでいてくれた。


「はい、ではここを音読します」


 そうしてみんなの注意を促すので、梓はちょっとほっとした。


 最後にと、ちらっと窓の外を見る。

 ゴールした渉は、タイムを聞いたようで嬉しそうな様子だった。

 かたわらにいた男子が渉の背中を軽く叩いた。

 やったな、とか言ったのだろう。渉も笑顔でそれに答えているようだ。


 楽しそうな様子に安心して、梓はやっとしっかり黒板のほうを見た。国語の時間に戻る。


 帰ったらタイムがいくつだったのか聞いてみようかな、と思った。

 きっと自分には夢のような数字だろうから、驚いてしまうだろうけれど。

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