学園の日々③

「ね、梓」


 そんな授業中、不意に、背中をつんつん、とつつかれた。


「なに?」


 ちょっと驚いたけど、すぐにわかった。

 うしろの席に座っている友達……朝、声をかけてきた元気な笑顔の子、火焚ひたき かえでである。梓の一番の友達。


「外! 高等部の二年生が体育みたいだよ」


「え? ……あ、ほんとだ」


 窓のほうに目を向けると、グラウンドの様子が見えた。

 ジャージ姿の男子がわいわいしている。

 その中に、渉の姿が見えた。


「小鳥遊先輩がいるね」


 ひそひそと楓がささやいてきた。

 でも窓の外の体育の授業に気付いたのは、このクラスの様子からかもしれない。

 女子たちがなんとなく落ち着きがない。

 みんな、窓の外の『小鳥遊先輩』に気づいてそわそわしていたのだろう。

 ちらっと黒板の前を見ると、先生があまり良い顔をしていなかった。みんなが集中していないからだ。

 これ以上騒いだりすれば注意されるだろう。


 おとなしくしてないと。


 梓は自分に言い聞かせた。

 窓の外の体育は陸上だった。

 順番に走ってタイムを計っているようだ。

 渉はまだ待つ生徒たちの中にいた。

 でもこれから走るのだろう。


 梓はなんだか自分までどきどきしてしまった。

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