学園の日々②

 確かにその通りで、街並みがもう、今まで過ごしていた埼玉の奥地とはまるで違う。比べたら失礼だが。

 石だたみの地面だけでも高級感があるし、標識や公共物も壊れてなんかいない。

 建っている建物も新しく、また都会的な印象。

 元々暮らしていた埼玉の家のあるエリアは、昔ながらの住宅街という雰囲気だった。どこにでもありそうな街だ。

 民家がいっぱい、ごちゃごちゃに建っている。


 でも梓がその街を嫌いだったかというと、そういうことはない。

 むしろ過ごしやすいと思っていた。

 良い意味でまったりできる気持ちになれる。

 学校までは遠かったけれど、そのぶん近所の友達とたくさん話をしながら歩けたし。

 おしゃべりしたいことなんて、三十分でもたりない。


 だからここに引っ越してきて、元の生活と比べることになったときは、やはりここは夢の街のような気がした。

 どうして自分が急にこんなオシャレな生活をすることになってしまったのか、といまだにたまに不思議に思う。


 それは『お母さんの再婚』という、自然で、まぁまぁたまには起こるだろう出来事のためなので、理由としてはまるで不思議ではないのだけど。

 でもこんなオシャレな街に住み、オシャレな学校に通い、おまけにイケメン王子様なお兄ちゃんまでできてしまったのは……やはり夢のようであった。



 運がいいのかなぁ。


 たまにそう考えるけれど、yesかnoかといったら、『yes』だと思う。

 でも理由は、オシャレな生活ができることでも、イケメンのお兄ちゃんがいることでもない。


 梓がそう暮らしていて『楽しい』とか『幸せだ』とか感じられること。

 それが一番大切だから。


 街は快適で安全。

 家の中は穏やかで新しいお父さんも梓を大切にしてくれる。

 お兄ちゃん、いや、渉はイケメンである以上に、優しくて頼りになった。

 だから梓は今の生活を気に入っている、と胸を張って言えるのだ。

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