朝一番の「おはよう」を⑤

 ふりかけのファスナーを開けて、中身をさらさらとご飯にかける。

 たまごのいい香りに、危うくまたお腹が鳴るところだった。

 ふりかけもかけたので、お茶碗を持って、ひとくちご飯を食べた。

 炊き立てご飯はほかほかあたたかくて、口の中を幸せにしてくれた。

 おまけに食卓に並んでいるのは、ほかに、おいしそうなおかずも。

 お茶碗の横にはお味噌汁、ひじきの煮物と玉子焼き、漬け物。

 ご飯をひとくち、ふたくち、食べて、次はお味噌汁。

 お箸を入れて軽くかき混ぜると、ふわっと出汁のいい香りがした。

 とても素敵な朝ご飯だけど、実は梓のお母さんが用意したものではない。


「味噌汁、どう」


 自分は漬け物をつまみながら渉が聞いてくる。

 梓はひとくちすすったお味噌汁の感想を考えて、口に出した。


「おいしい。かつお節の味がする」


「そうか。時間あったから出汁を取ったんだ」


 しれっと言ったけれど、つまり、この完璧な朝ご飯を作ったのは彼ということ。

 梓はここまでお料理の上手な男の人を知らなかったし、おまけに高校生なのに朝からこんなにたくさんお料理をするというのはもっと驚いてしまった。

 けれど彼は週に三日はこんなふうにご飯を作ってくれる。

 朝ご飯だけではない。

 夕ご飯もたまに作ってくれるのだ。

 それは彼によると「父さんは料理なんてしないから」だそうだ。

「ラクになったほうだよ。『母さん』も料理をしてくれるんだから」とも言っていた。

 そう言った渉は確かに嬉しそうだった。料理は好きでも、やはり学校に通っていて作るのは大変だから。


「ほら、さっさと食べろ。あんまり時間ないぞ」


「う、うん」


 梓は促されるままに、玉子焼きにお箸を伸ばした。

 ほっくりとやわらかくて、甘い味がして、朝から心も満たしてくれた。

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