朝一番の「おはよう」を③

「おはよう……」


 おはようございます、と言いたいのをこらえて普通に言った。

 はじめの頃は「おはようございます」と言っていたけれど、家族だから敬語禁止、ということになってしまった。


『お兄ちゃん』だけにではない。

 新しい『家族』全員にだ。

 もちろん、向こうからも同じ。


「ああ、おはよう。ご飯は? 大盛りか?」


「ふ、普通で……」


 でもやっぱりもじもじしてしまう。それはいきなりできた『お兄ちゃん』だけにではない。

 なにしろお兄ちゃんときたら……。


 もっと食えばいいのに、なんて言いながら梓のまだ新しいお茶碗を手にしたひとは、炊飯器の前に向かった。

 ご飯の大盛りかの質問や、炊飯器や、そういうものが似合わなさ過ぎるひとだ。

 梓は着替えや簡単な身支度などはしたものの、まだ起きたばかりなのに、彼はもうきっちりと支度を済ませていた。


 緑のチェック柄のパンツ。

 上はぱりっとしたワイシャツ。

 ネクタイだけは汚さないようにか、もしくは邪魔になるからだろうか。まだ締めていなかった。

 ついでにジャケットもまだ着ていない。シャツ一枚でももう寒くないのだ。

 五月になって、ゴールデンウィークも終わったのだから当然かもしれないけれど。ここしばらくは、もう暑いといえる日もちらほらある。

 それでもきっちりと整えられた髪も、眠たげな様子なんてない涼しい目元も、一日の支度はすっかり終わっている。

 焦げ茶の髪は短めで、前髪を横に流していてすっきりとした印象だ。

 目は、すっと切れ長でクールに見える。

 おまけに背が高い。梓より高いのは当たり前だし、クラスでも背の順に並ぶとうしろのほうだと言っていた。

 さらに体型だって綺麗だ。運動をしているので適度に筋肉がついていて、でも細身ですらっとしている。


 つまり、……とてもカッコいいのだ。

 梓の『お兄ちゃん』になったこのひとは。

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