第41話 副局長
私たちが帝国へ向かおうと話をしていたところで、扉を開けて入ってきたのが、まさに話題にしていた人物。異界門管理局副局長ツィルくんでした。
「局長、ユニさんご無沙汰してます。それとほむらさん、直接会うのは初めてですね。よろしく」
「ツィル副局長、お久しぶりですね。でも今日シルヴィクに来るなんていう話は聞いていませんでしたが何の用事でしょうか?」
「いえ、局長がずいぶんお忙しくしていると聞いていたので何かお手伝いできることでもあるかなと思ってふらっと戻ってきてみただけです。そうしたら都合よく戻られているじゃないですか」
「都合よくというのはどういう意味でしょうか」
「転移者が増えている件についてお話でもいかがかなと思ってまして」
「それだけですか?」
飄々と話をするツィルくんですが、今このタイミングで入ってきたということは私たちがさきほどまで話していたことは間違いなく聞いていたでしょう。なのにその件を一言も口に出さないのはこちらから切り出すのを待っているのでしょうか。
ユニちゃんは少し緊張気味に私とツィルくんの会話の行く末を見守っているようです。ほむらさんは窓際の椅子に腰かけて窓の外を見ていますが、意識は入ってきたツィルくんに集中しているようで警戒していました。
「ツィルくん、単刀直入に言いますが2か月前のこの日の報告書と実態に相違があるように報告を受けています。何をしていたか教えてもらえますか」
「その日ですね。その日は……八界にお邪魔しました」
「何をしに八界に行っていたんですか?」
「人材発掘でしょうか」
「良い人材は見つかりましたか」
「ぼちぼちですね」
「発掘した人材はどうされたんですか」
「こちらに」
ツィルくんがそういうと私、ユニちゃん、ほむらさんの喉元には刀が突き付けられていました。
「この方々が八界の発掘人材ですか?」
「そうです。竜神族と言われていました。八界の神の系譜だそうです」
私たちの喉元に刀を突き付けていたのは鋭い角と牙に細くしなやかなしっぽ、なによりこの世界でも先日王都の地下で目にしたものとよく似ている特徴的なドラゴンスケイルを持った3人の竜。ツィルくんは竜神族と言っていましたか。意識はなさそうですが。
「それで、こんな方々を連れてきて何をするおつもりですか?」
「もちろんこの世界の発展のためにご協力いただきます」
「無断での異界転移は規定違反なので、もちろん罰しますが、その前に。フルカスという人物について聞き覚えはありますか」
「この世界の協力者です。局長に滅されてしまったようですが」
ツィルくんはそう言いながらにっこりと笑いました。それを見たほむらさんは竜神の拘束を抜けて刀を抜きツィルに対して突き付けようとしました。しかし―
「”神鏡”」
ツィルくんの術によりほむらさんの刀は弾かれました。
「まさか竜神の拘束を抜けるとは、あなたも局長との同行でこの世界になじんできたんですね」
「クソ!」
弾かれたほむらさんは空中で体勢を立て直そうとしていますが、その背後からは、さきほどまでほむらさんを拘束していた竜神の槍のような形状の刀が突き立てられようとしていました。
「”神鏡”」
「アト!」
私もツィルくんと同じ術式でほむらさんの背中から迫る刃を弾きました。
「ツィルくん、一度落ち着いてお話をしませんか」
「もちろんですよ、そちらの彼女も待ってくれますかね」
ツィルくんがほむらさんの方をちらりと見てそう言ったため、私もほむらさんに自制を促すようにアイコンタクトを送りました。
「ツィルくん、本当に何がしたいんですか? 魔族に異界門の情報を提供しヤマトを襲わせたり、王都でも大量の人間を拉致したり」
「言っているでしょう、この世界をより良くするためです。より強い人物を選抜して私も新しい世界を作ろうと思ったんですよ」
「世界を作るなんてそんな簡単ではありませんよ」
「えぇ、なので方々に手を尽くしました。最後の仕上げがあなたです。局長」
「私ですか?」
「はい、異界門の力を持つあなたは明確に支障になります。なので僕にご協力をいただけないですか?」
「それは無理ですね。私の役割はこの世界の維持と監視です」
「そうですか……残念です。でしたら僕もあなたをなんとかしないといけなくなりますね。協議決裂です」
「そうですね。そもそも、無断で異界転移をしているので規定に則ってあなたをまず罰する必要がありますし。ツィルくんにはキツイお説教が必要ですね」
「それは恐いですね!」
ツィルくんは竜神族に指示を出すのと同時に転移を発動して離脱しました。
私は竜神族の刃がユニちゃんの身体を突き破る前にユニちゃんをテレポートさせました。ほむらさんはすでに戦闘を終えて竜神族を組み伏せています。
「アト! あいつを追ってくれ!」
「アト局長! お願いします!」
ほむらさんとユニちゃんは私にツィルくんを追いかけるようにいってきました。
「わかりました、お気をつけください! ほむらさん、ユニちゃんのことをお願いします」
ほむらさんは私の言葉に力強くうなずいてくれました。そのため私はほむらさん、ユニちゃんに竜神族の対応を任せてツィルくんの後を追いました。
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