第40話 不自然な動向
「行動調査ってどういうことだ?」
「王国での事件が終わってシルヴィクへの帰りでほむらさんと別れましたが、その時にユニちゃんにお願いすることがあるって言ったと思うんですが、その話です」
「いや、それはそうだが、それよりも行動調査ってことはアトは誰かを疑っていたってことなのか」
関係者の行動調査をした話をユニちゃんとしていたところ、ほむらさんが驚いた表情で問いかけてきました。
「特定の誰かを、というよりは広く関係者を調べてもらっていました。王都で転移と思われる術が利用されていたのですから、異界門について知っている人が怪しいなと思いまして」
「確かにアトから聞いていた転移や異界門の関係を考えれば当然といえば当然だが……」
ほむらさんも驚いていたものの、それもそうかと納得してくれたので話を先に進めます。
「それで、ユニちゃんの調査結果、何かわかりましたか?」
「はい、王国、帝国の主要な関係者が直近3ヶ月程度で何をしていたか調べました。特に大きく行動が変化していたり、不自然なことは基本的にありませんでした」
「基本的にはというのは?」
「……1名だけ気になる動向が見えました。……ツィル副局長です」
ユニちゃんの口から出た名前は、よくよく知っている人物でした。
ツィル異界門管理局副局長、私の同僚であり部下でもあります。世界有数の大国であるシルヴィクが属する王国と同程度以上の国力を有するエスティア帝国に派遣されている異界門管理局のナンバー2です。もちろん私がナンバー1です。
「ツィル副局の気になる動向というのは?」
「アト局長もご存じの通り異界門管理局の局員は各地での対応状況を定期報告いただいています。ツィル局長も同様です。そのツィル局長の先月の行動ですが、以前連絡を取った際に伺った通り帝国国内での転移事件の調査をしていた旨の報告がありました」
「そうですね、私もそのように聞いています。それ自体は真っ当にお仕事していただいていると思うのですが?」
「報告書の確認と合わせて現地での対応状況を各種目を使って追いかけたところ、先月にツィル副局長は帝国国内にいなかった時期があり、その時期が報告書の記載と完全に食い違っています」
「そのときに実際はツィル副局長は何をしていたのかはわかっているんでしょうか?」
「不明です」
ユニちゃんは一言、そう言いました。
「ではどこに居たのですか?」
「……不明です」
「おい、何もわかってないじゃないか! たまたま調査もれしたとかそういう話じゃないのか?」
ユニちゃんが何もわかっていないような話をしたことでほむらさんからツッコミが入りました。しかし、これはそういう話ではありません。
「ほむらさん、ユニちゃんは異界門管理局の情報調査室のトップです。その彼女が何もわかっていない状況でこの報告をするとは思えません。ユニちゃん、わかっていることを教えてください」
私がユニちゃんの発言の意図をくみ取ってほむらさんをなだめたところで、ユニちゃんが続きを話しました。
「わたしも始めは調査漏れかと思ったので、帝国現地の副局長の動向を辿りましたが、途中で完全に消息を絶ちました。世界に散らばるわたしの目からの情報なので間違いありません。期間にすれば1日に過ぎませんが、その期間ツィル副局長はこの世界から完全に消えていたことになります。つまり―」
「つまり、無断で別の異世界に行っていたということですね」
ユニちゃんが言い終わる前に私が言葉を挟みました。
「その通りです。ツィル副局長が王都の事件に絡んでいたかどうかまでは分かりませんが、管理局の規定に違反しています」
異界門管理局に所属するものは異界門に関しての行使権限を持っています。ただし、それを乱用すれば世界が傾くほどの力のため制限されています。
「異世界ってそんなにほいほい行けるんだな、異界門が必須なのかと思ってたが」
「いえ、通常は異界門必須ですよ。ただ、異界門管理局局長および副局長には冠位と呼ぶ、異界門の力を個人的に行使できる術式を所持しています。今回ツィル副局長もこの術式で一時的にこの世界を離れたのだと思います」
「はい、私の目で追えなかったのでおそらくその通りかと思っています」
「おい、その冠位とかいう力ってまさにこの間の魔族が持っていたっていう道具と同じ力じゃないのか?」
「その通りです。なので、私もヤマトであの道具を見た瞬間に似ているなと思っていて、そうなると情報提供者として可能性があるのは私かツィル副局長ぐらいしかいないなと思っていたんです」
「じゃあ、もうその副局長が黒幕で確定じゃないかよ! さっさととっちめよう!」
「とはいえ、決定的に証拠があるわけでもないですし、仮にそうだとしても何が目的なのかわかりません。なので一度話を聞いてみましょう」
私が煮え切らない返事をほむらさんに返すと、ほむらさんは少しムッとした表情で『まあ仕方ないか』と返事をしました。ユニちゃんは私とほぼ同じ意見らしくゆっくりとうなずいていました。
「では、私は帝国に行って話を聞いてきます。ユニちゃんはまた留守番ですみませんが―」
「その必要はありませんよ、局長」
私がまた役割分担をしようとしたとき、なんの前触れもなく部屋の扉が開き、少しクセがついた短い黒髪に、黒の服の上に白い管理局のローブを羽織った男性が入ってきました。
「直接お会いするのはいつぶりでしょうか。元気にしていましたかツィルくん……いえ……いえ、ツィル副局長」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます