第38話 戦の後の

「終わったみたいね、相変わらず化け物ねアト」

「えぇ、なんとか終わりましたね」


 フルカスが消えた場所に立っていた私の後ろからコユキちゃんが声をかけてきました。


「ところでこの障壁ってまだ張っておかないとダメ?」

「使役者が死んだので解除してもおそらく大丈夫だと思います」

「OK!」


 そういうとコユキちゃんはずっと出力していた障壁への魔力供給を断ちました。ヤマトの城下を覆うように展開されていた障壁がゆるやかに崩れていきます。それと同時に城下にも魔力が流れ込んできました。コユキちゃんもみるみる元気になっています。


「後片づけが大変ですが、まずはシェルター内に退避いただいた方々に終わったことを伝えに行きましょうか。ほむらさんとシキナミさんも目を覚ましたことでしょうし」

「そうね」


 コユキちゃんの案内のもと城下の東街に向かうと、ヤマトの街並みに似合わない鋼の扉が地面にありました。扉を上に上げる形で開くと階段が続いており中には、多数の獣人たちが避難していました。


「おぉ、コユキ様よくぞご無事で」

「あなたたちも大事なさそうね。アトが今にも暴れそうだったから急いで避難してもらったから詰め込む形でごめんね」

「いえいえ、我々は対してお役に立てなかったことを悔やむばかりでありました。今後は一層精進いたします」


 シェルターの中の獣人たちは安堵と申し訳なさの混じった顔でコユキちゃんと話をしていました。


「アト!」


 獣人たちの奥から目覚め元気なほむらさんがひょっこりと顔を覗かせて声をかけてきました。ほむらさんは獣人たちの人込みをかき分けて私のところまで出てくると両の掌を合わせて謝罪してきました。


「すまん! なんかわからないが今の今までぐっすりすやすや眠っていた。目を覚ましたら周りは獣人が一杯で襲撃者がどうのと物騒な話をしていたから何事かと思っていたんだが」

「えぇ、紆余曲折ありましたが、襲撃者たちは蹴散らしました」

「そうか! それは良かった」

「ほむらさんこそ、眠ってから起きなくなっちゃって心配していたんですよ。何事もなく起きてこられてよかったです」

「……すまない。なんでそんなに眠ってしまっていたのか……」

「今回の襲撃者、ほむらさんに関連深い方でした。フルカスです」

「!?」

「どうもフルカスがほむらさんに最初に接触した際に何等かの術をかけられていたようで、その影響で眠って起きなくなっていたみたいです」

「そういうことか……くそ、そんなことされて気づかなかったなんて、忍として失格だな」

「そんなに気を落とさないでください。もうすべて解決しましたから」


 落ち込むほむらさんを慰めているとコユキちゃんが声をかけてきました。


「ほむらさんも無事目を覚ましたのね、良かった。シキナミも起きてるかしら?」

「コユキも無事で良かった。あたしが起きたときにはシキナミは眠っていたな。もしかしてあの子もフルカスの術のせいで?」

「そうですね、ヤマトから連れ去られるときでしょうね」


 そんな話をしていたところで、ほむらさんの後ろから黄色い狐耳がひょっこりと見えました。


「むぅ……眠いのじゃ……」

「シキナミ、おはよう」

「!? ね、姉さま!?」


 術が解けて目が覚めたのかシキナミさんが起きてきました。どうやらまだ寝ぼけ眼ですが、コユキちゃんに声をかけられて頭がすっきり冴えたのか、声を裏返しながら寝すぎたことの謝罪をくりかえしていました。


「まあ、そのあたりにしましょうか。人的な被害は奇跡的に0のようですし、みなさんもこんな窮屈なところに長々いては気が滅入るでしょう」


 私がほむらさんとシキナミさんに外に出ましょうと促すと、コユキちゃんも他の獣人たちに地下のシェルターから出るように声をかけてくれました。

 外に出ると戦闘の余波で多くの家屋が壊れていたりしたため、ショックを受けている方も多かったですが、そこも流石は盟主コユキちゃん、復興を頑張ろうという雰囲気にうまくまとめあげました。


「それでフルカスの目的は結局なんだったんだ?」


 ほむらさんは自分この世界に連れてきた張本人であるフルカスの真意が気になっているようです。


「真意だったのかはわかりませんが、各地、各世界の実力者を集めて使役し、この世界を征服したかったみたいですよ。つまりほむらさんは強者として呼ばれたんです。おめでとうございます」

「冗談はやめてくれ。それでフルカスは転移を使ってたんだよな」

「えぇ、どうやら転移、というより異界門の力を行使していたようです。異界門の力を札に込めてそれを使うことで転移術式を使っていたようです」

「そうか……」

「ほむらさんの怒りの分も殴っておいたので安心してください!」

「なんだそりゃ」


 冗談めかして話をするとほむらさんも少し笑ってくれました。黒幕も無事倒してこれで事態は解決でしょう。一息ついたら国王陛下にもまた報告にいかないといけません。ほむらさんもこれで気兼ねなく元の世界に帰ることができます。


「ほむらさんもこの世界から卒業ですね。約束通り元の世界に帰る前に美味しい物をたくさんごちそうしますね。まずはヤマトを復興させてヤマトの美味しい物を制覇しましょう! それまでもう少しおつきあいくださいね」

「もちろんだ! たくさんおごってもらうから覚悟しろよ」

「アト、ほむらさん! シキナミがだだをこね始めたのでちょっとここ任せて良い?」


 だだをこねるシキナミさんの頭をなでるコユキちゃんから声をかけられ、私とほむらさんは2人のもとに向かいました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る