第37話 悪魔

 フルカスが振り下ろした魔剣は私の首筋でその刃を止めました。しかし、その威力は凄まじかったらしく、私の数百m以上後ろにあったヤマトの城の天守が刃の余波を受けて崩れ落ちました。


「あっ! まずい! 城にはほむらさんとシキナミさんが!!」

「大丈夫よ、二人もそうだけど他の人たちはアトが戦ってくれている間にシェルターに避難させておいたから」


 コユキちゃんが声をかけてくれました。コユキちゃんの手厚いフォローによりどうやら周囲の心配はしなくても良かったようです。


「ぐっ!! なぜ切れない!!」

「当たっていないからですね」


 フルカスが振り下ろした魔剣は私の首筋の数cmほど上で止まっています。


「ではそろそろこちらからも攻撃させていただきますね」

「なに!?」


 私の正面で困惑と恐怖を覚えているフルカスの顔に手の平向けました。


「”天焔掌”」

「!!??」


 フルカスにかざした左手に白い炎を纏わせて衝撃とともに放出しました。炎と強烈な衝撃を受けて、フルカスは顔をのけぞらせながら家屋を貫通しながら数百m後方に吹き飛びました。


「できれば街への被害は抑えめでお願いできるとうれしいなぁ」

「相手は最高位魔族ですよ? あんまり無茶言わないでください」

「……そうだ、俺は最高位魔族だぞ……それが小娘一人に……」


 瓦礫の中から全身にやけどを負ったフルカスさんが這い出てきました。かなりの深手のようですが、驚異的な超再生能力でみるみる傷が回復しています。


「超速再生、面倒ですね」

「もう許さん、貴様は嬲り殺しだ!! ”眷属召喚デモンズサモン”」


 フルカスの周囲に数十m級の召喚陣が発動しています。そこからは召喚陣の規模に似合わず、小さな、といってもフルカスと同じ程度のサイズの悪魔が召喚されました。

 大きな黒い翼に大山羊のような角、筋骨隆々の肉体を持った悪魔。内包する魔力はフルカスに匹敵、いやフルカス以上に見えます。


「アバド、あいつを殺す、手伝え」

「ずいぶんな言いようだな魔族ごときが」


 私は悪魔がフルカスと話をしている隙をみて一気に距離を詰めました。


「”天雷”、”天焔掌波”」


 近づきつつ即座に雷を落とし、加えて両の掌に炎をまとい一気に二人をなぐりつけると同時に炎を放出しました。

 爆炎に巻き上げられた土煙の中から鋼鉄鞭のようなものが飛び出して私を殴りつけてきました。それを鏡で弾いたところ土煙の中から声が聞こえました。


「なるほど、たしかにフルカスが手を焼くのもわかる強さだな。さきほどの炎の威力もそうだが、我の尾を弾くとは貴様、何者だ?」

「鋼鉄の尾を持つ悪魔、ずいぶん懐かしいですね……」


 件の悪魔は天焔を喰らっても無傷のようです。フルカスさんはまともに喰らったようでしたが、超速再生による再生が効いています。


「私はアト、異界門管理局の局長。召喚されて早々ですが、あなたには退場いただきます」

「やれるものならやってみろ」


 フルカスとアバドは連携して私に向けて攻撃をしかけてきました。左右から挟まれた私は四方に神鏡を張り攻撃を受けきりつつ、フルカスの腕をつかみ投げ飛ばしました。


「アバド、あなたには元の場所に帰ってもらいます」

「何?」


 私はアバドの四方を神鏡で囲いました。


「これで我を抑えたつもりか?」


 アバドは神鏡に強烈な連打を繰り出しています。


「なんだ、この鏡は!? 我の攻撃が通らぬ!?」

「神の鏡はすべて弾く、絶対の障壁。何人たりともやぶれません。それではさようなら、二度と出て来ないことを願います。”送帰送還アスケンシオ”」

「貴様! その術式まさか!! 白金の―」


 身動きが取れないアバドの足元に精緻な術式円陣が発動し青白く輝き、アバドが言葉を言い終わるより先にアバドの姿をかき消しました。召喚されたものをあるべき場所へ帰す術式。これでフルカスとの契約も解除され二度と召喚はできないでしょう。

 その光景を唖然とした表情で見つめていたフルカスでしたが、やがてその表情は絶望に変わりました。

 私はゆっくりと歩いてフルカスの前まで向かい、暗い顔でうつむいているフルカスに語り掛けました。


「あなたが異界門の力を使って何をしようとしていたのか知りませんが、終わりにしましょう」

「……まだ、まだだ!!」


 フルカスはそういうと自身の胸に腕を突き立てました。腕が深々と刺さった胸からは赤黒い血液が噴水のように吹き出しました。


「一体何を!?」

「異界門の力によりあらゆる世界の強者を呼び出し使役し、この世界を取る!! 異界門の力よ、崩壊し俺に力を寄こせ!!」


 フルカスは大きな声で叫びながら自身の胸に魔力を注ぎ込みました。自身の体に埋め込んでいた異界門の護符のリミッターが強制的に破壊されたのか、フルカスの魔力が数千倍に膨れ上がりました。


「確かにこれだけの魔力量であれば世界も取れるかもしれませんが……あなたの身体では持ちません」

「がはっ!!」


 魔力の急速な増大に耐えきれなかったフルカスの身体が崩壊していきます。


「俺は……こんなところで……」

「さようなら、天光フルーギア


 私はせめてもの情けにすべての魔を掃う天の光で、崩壊するフルカスにとどめの一撃を与えました。

 光にさらされたフルカスは輝く粒子となり消え去りました。

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