第36話 vsフルカス

「この魔力量の増幅は犠牲魔法か!?」

「どうやら俺の眷属たちは苦戦していたようだが……この魔法が発動すればさすがのアトも生きてはいられまい」

「あいつらの分もまとめて喰らえや!! 流星爆発ステラエクスプロージョン!!!」

「アト!!」

「俺も爆発に巻き込まれないようにいったん離れ―」

「”神鏡の天球”」


 今にも爆発しそうな魔族と私を中心に複数枚の神鏡が半径5m程度の規模で球を形成する形に配列しました。魔族の爆発は想定の数倍の破壊力でしたが、天球の内側で反射され外に影響は及びません。


「なんだ……あの魔法は……? しかし、魔法は発動している自身を犠牲に他の獣人やヤマトの地を守ろうとしたのか。ひどく滑稽だな」

「これで全員処分が終わりましたね。最後の一匹は爆発とともに異界門の札は消失して回収できませんでしたが、まあいいでしょう」

「アト! 無事だったのね!」

「勝手に殺さないでください!」

「……アト、貴様……一体どうやってあの爆発の中で生きて、いや全くの無傷などありえないだろ!!」


 天球を解除して土煙がまだ舞い上がっている中から、私が出てきたところで、フルカスが言葉に詰まるほど驚いているのが遠目から見えました。


「どうやっても何も、爆発を外に漏らさなかったのとほぼ同じ原理ですよ」

「4人の上位魔族、100人以上の中位魔族の魔力を混合した大魔法だぞ……それがまともに発動してなぜ……」

「なんども言いますが、爆発を球内に抑え込んだ術式で自身への爆発を反射しただけです。さて、残る魔族はあなただけですね。コユキちゃんお待たせしました」

「ふっ、じゃあここからは任せるね! もう疲れたから」


 そういうとコユキちゃんは戦闘体勢をやめて地面に座り込みました。魔力なしで、障壁を張りながら最高位魔族を相手取るのはかなり大変だったようです。


「おつかれ、バトンタッチで大丈夫です。少し休んでいたください」

「ありえない……」

「さっきからぶつぶつと言っていますが、コユキちゃんに変わり私がお相手しますので!」

「!?」


 私は言い終えると同時に持っていたナイフをフルカスに向かって勢いよく投げつけました。頭めがけて投げつけましたが、フルカスは辛うじてそれを身を翻して回避しました。


「貴様、ふいうちとは姑息な……」

「いやいや、とんでもなく綿密そうな計画でヤマトもろとも葬り去ろうとしている人に言われたくはないですね。ところでどういう目的でコユキちゃんを狙っているかまだ聞いていないんですが」

「……お前たちが知る必要はない!!」


 フルカスが私の視界から消え、その瞬間に後ろからの殺気とともになぐりかかってきました。私はそれを掌で受け止め、逆に空いていた方の手を振り被りなぐりつけようとしました。


「させるか! ”魔神炎砲サタンフランマ”!」


 魔法の詠唱とともに片方の手で受け止めていたフルカスの掌から黒い炎が噴き出しました。炎の圧力に押された私は後方に弾き飛ばされました。


「アト!」

「いやぁ、思ったより高火力ですね」


 後ろに弾かれたものの辛うじて立った状態で持ちこたえた私は、フルカスのいた方を向きましたが、フルカスの姿がありません。


「一体どこに?」

「”魔神轟雷サタントニトル”!!」


 魔力を感じて上を向くと数百m上空にフルカスがいるのが見えました。フルカスが視界に入ったのとほぼ同時に黒い稲妻が私の体に直撃し視界が真っ黒に染まります。


「そのまま丸焦げになれ! ”魔神炎砲サタンフランマ”!!」


 フルカスは雷を発動しながらさきほど私を弾き飛ばした黒い炎を追加で打ち込んできました。うっすらと見える視界には、落ちる雷と降り注ぐ炎がその途中で混ざり合い増幅しあっています。さきほどの4匹の魔族が使っていた雷炎の魔法に近いですが、威力はこちらの方が上でしょう。


「”天雷纏”」


 おとなしく受けるわけにもいかないので、私は自身の術式で黒い雷を相殺し、炎が届く前に飛び退きました。同時に身にまとっていた天雷をフルカスに向かって放出しました。


「”天雷”」

「当たるか!!」


 フルカスは攻撃に気が付くと、放っていた黒炎と黒雷をぶつけてきたため相殺されました。


「……さっきから、俺の魔法をこうも易々と相殺されるとは、貴様のその術、魔法ではないな」

「さて、どうでしょうか?」

「……まあかまわない、どうであろうと殺すことに変わりはない!!」


 そういうとフルカスは全身の魔力出力を引き上げました。おそらくこいつも体内に異界門の護符を持っているのでしょう。魔力が無尽蔵にあふれて出力が上がっています。フルカスの肉体がさきほどの数倍程度に大きなり、魔力出力は10倍程度になっています。と思っていたら、フルカスさんが背後に回り込んでいました。肉体強化に似合わずスピードもさきほどの数倍上昇しています。


「つぶれろ」


 そのままの勢いで足元の地面が割れて足が地面にめり込むほどに、頭を真上から殴りつけられました。おかげで足が抜けません。と思って下を向いていると、フルカスは休むことなく私を連続でなぐりつけてきました。一発一発が軽いわけではなく、この一撃と殺すという明確な殺気がこもっています。

 打ち込まれる拳を私も受け流していましたが、蹴りも混ざってきて、少し押され始めました。


「さすがに受けきれないようだな、そのまま死ね!! ”魔神爆裂斬サタンスラッシュ”」


 フルカスはどこから取り出したのか黒く禍々しい魔力を纏っている大剣を取り出し、さらに魔力を載せて私の首筋から斜めに袈裟切りに振り下ろしました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る