第35話 実力差と地力
「クソが!!」
仲間をやられたことに激怒したのか、残り4匹の魔族が魔法を使ってきました。1匹は私の四肢を土属性の魔法で縛り上げてきました。残りの3匹はそれぞれが炎、風、雷の魔法を発動し、発動した魔法を風魔法を使っている中央の魔族の手の中に注ぎ込んでいます。どうやら3属性を合算し複合した高威力魔法を発動しようとしているようです。
風魔法の中に注がれた炎と雷の魔法は、術者の両の手のひらの間で圧縮に圧縮を重ねられ、炎と雷が風の力で増幅されていきます。ここから見てもわかるほどに、重質量のエネルギーが魔族の手の中で練り上げられています。
「燃え尽きろ!! ”
魔族は重ねていた両の手をそのままの形で腕を前方に突き出し、指先を私に向けました。その瞬間、指先のすき間から高度に収束された膨大なエネルギーが光速に近い速度で放たれました。
「”神鏡”」
私は放たれた光線の直線上、つまり私の頭の前に、寸分違わぬ美しい正円の鏡を展開しました。
鏡に直撃した魔族たちの魔法は傾けた鏡の角度に従って、私を土魔法で縛り上げた魔族の頭を貫き一瞬で絶命させました。
「うわぁ……頭を貫いた、というより頭消し飛びましたね。すごい威力」
「マドス!!」
「弾かれただと!!??」
「なんだ今の魔法は!?」
「見たことがなかった魔法ですが、高威力の炎と雷の魔法を風魔法で増強して出力口を引き絞ることでスピードを上げてさらに威力を強化する感じですね。さすがは魔族。魔法の扱いには長けていますね」
土魔法で私を拘束していた魔族が死んだことで拘束が解けました。
「何なんだお前! ここには魔素がないはずだ! どうして魔法が使える!」
「それに答える義理はないですが、勘違いを正してあげましょう。あなたたちは私のことを魔法使いと言いましたが、そもそも私は魔法使いではなく、異界門管理局の局長です」
「それは肩書だろうが! 魔素がない中でどうやって魔法を使っている!?」
大きな声とともに残り3匹の魔族が一斉にとびかかってきました。
そのうちの一人の腕を取りその場にねじ伏せると同時に、残った2匹を蹴り飛ばします。蹴り飛ばされた2匹は勢いよく瓦礫の中に突っ込んでいきました。
「くっ! 離せ!!」
「離せと言われて離す人はいないでしょう」
私は地面に抑え込んだ魔族の頭を、空いている片方の手に持っていたナイフで躊躇なく首から切り落としました。
「はぁはぁ……メテオ、生きているな」
「あぁ……」
「あの女、明らかに異常だ。さっきの反射魔法もそうだが、ただのナイフでベリルやバファスの頭をあっさり落としやがった……」
「……ベリルもバファスも魔力を使って全身に障壁を張っていたはずだな……」
「こうなった以上は役割を果たすためにやるしかない」
「さて、残り2匹ですね」
瓦礫の中に蹴とばした残り2匹が起き上がり何やら話していたようですが、あまりのんびりしているとコユキちゃんの方が大変そうなので早くこちらを終わらせたいところです。
「眷属ども!! この女を殺せ!!」
残った2匹のうちの1匹が大きな声を上げると周辺で獣人族と戦っていた他の魔族や魔獣が一斉に私を標的に変更して襲いかかってきました。
「面倒ですね、”天雷”」
私に襲いかかろうとしていた魔族・魔獣たちに青い稲光が走り沈黙しました。
「ぐふっ!」
「おや、そちらの2匹は生きていたんですね。さすがは高位魔族」
他の魔族に指示をしていた魔族とその横にいた魔族は天雷を受けても辛うじて生きていたようです。
「「くそったれがぁ!!」」
残り2匹は私の足元に泥沼で、黒い光を放つリングで全身を、それぞれ拘束魔法を発動してそのままの勢いで突っ込んできました。そのうちの1匹は拘束された状態の私に対して、腰に据えていたずいぶん立派な装飾の付いた剣を抜き、切りかかってきました。
「好きですね、このパターン。”神鏡”」
剣の軌道の位置に対して正円の鏡を発動して剣を弾き返しました。弾かれた剣は衝撃に耐えきれなかったの粉々に砕け散り、使用していた魔族にその破片が浴びせられます。しかし、魔族はためらいなくその破片の中に飛び込み私を正面から抱きかかえるかたち掴んできました。それと同時に残ったもう1匹は私のことを羽交い絞めにする形で後ろから掴んでいます。
「何のつもりですか?」
「てめえをフルカス様のところに行かせるわけにはいかないんでな」
魔族2人は私のことを絞め殺す勢いで両腕両足、全身に力を込めています。
「時間稼ぎですか? あまり意味はないですよ」
私は正面から掴みかかっていた魔族に全力で頭突きをかましました。意識がゆらいだのか掴みが甘くなりました。右手に持っていたナイフを魔族の頭めがけて投げつけます。ナイフは魔族の頭を貫通して、正面にいた魔族は沈黙しました。
「……時間稼ぎじゃねえよ!!」
私を羽交い絞めにしていた魔族は、正面の魔族が死んだのを視認すると、大きな声でそう叫びました。
「あいつらの分もまとめて喰らえや!!
後ろの魔族が魔法を唱えると同時に、私の後方から眩しいほどの光があふれ、私の視界が真っ白に染まりました。それと同時に魔族の体から膨大な魔力が暴発して私の背中から前面に向けてまるで太陽の横で直接熱風にさらされるような熱量に当てられていくのが感じられました。
「アト!!」
真っ白な視界の中で遠くの方からコユキちゃんの声がきこえました。
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