第34話 新手

「コユキちゃんはそのまま障壁を張り続けてくださいね」

「大気中の魔力がゼロだから、あんまり長く続けるのつらいんだけど―ふぐあぁ!?」


 コユキちゃんから愚痴が飛んできたので私はコユキちゃんの口に指を突っ込みました。


「さきほど大気中から回収した魔素を流し込んだので使ってください。切れかけたら順次追加します」

「ふぁんらかはちくひふぁっはひふん(なんだか家畜になった気分)」


 指突っ込んだまま喋られると何を言っているかわからないので一旦抜きました。


「ここからが大変ですね。魔素がないので敵は湧きませんが、核子を回収しないことには魔素があふれた途端にまた湧いて出ますよ」

「そうね、わたしは動けないからアトがなんとかしてね」

「仕方ないですが、またですか?」


 対応するのが誰かという押し付け合いをしていたところで、ヤマトの城と城下街の四方を囲んでいた壁が大きな爆発と共に崩壊しました。近辺にいた獣人たちも爆発の余波を受けて多数が倒れています。


「ヤマト盟主コユキ、および愚民ども。貴様らの命は我々がいただく。降伏せよ」


 爆発の土煙が晴れる中、姿を現したのは大きな黒い翼に湾曲した角を頭に生やした生き物でした。


「魔族がこんな場所に何の用事かしら?」

「それだけ大きな耳を持っていて聞こえなかったか獣。降伏しろとそういったのだ」

「名前ぐらい名乗ってはどうでしょうか?」


 コユキちゃんと魔族の会話に横やりをいれると、その魔族は大きな赤い瞳で私のことをにらみつけました。こわい。


「俺はフルカス、王都ではずいぶん邪魔をしてくれたようだな、アト」


 フルカス。ほむらさんを私のもとに差し向けた人物と同じ名前です。


「いえいえ、おかげさまでずいぶん骨を折らせていただきました。あなたがほむらさんを私の元に差し向けた方ですね」

「ほむら? あぁ、三界の小娘か。あの程度では貴様を仕留めるには敵わなかったようだが、テストとしては使えたな」


 ほむらさんが眠ったまま起きなくなったのはこの方の仕業かもしれませんね。


「それで、フルカスさん。あなたおひとりで私たちを相手にしてどうするおつもりですか?」

「ふん、強がったところで無駄だ。現在この周辺に魔力はない。加えて、そこの女狐も障壁の展開で動けないことは知っている。この状況を作るために、こちらもずいぶん細工を準備したのだからな」

「私が魔力を消して対処することを読んでいたと?」

「無論だ、貴様ら獣あがりが考える程度のこと私の手のうえだ!」


 そういうとフルカスさんは鋭いつめを剣のように使いコユキちゃんに向けて突き刺そうとしました。


「そんな簡単にやられるわけないでしょ!」


 コユキちゃんは素手でフルカスの腕をつかみ辛うじて攻撃を回避していました。そのままつかんだ腕を振り回し瓦礫に向けてフルカスさんを叩き投げました。

 

「魔力も使わず腕力だけでこれとは、さすがは獣だな」


 瓦礫の中から無傷の状態でフルカスが立ち上がってきました。


「だが、いつまで持つ?」


 フルカスがそう言ったのと同時に、城下の四方の森から下級・中級・上級入り混じった多数の魔族が姿を見せました。


「もう一度だけチャンスをやろう。降伏しろ。さもなくば力づくで連れていく」


 魔族の群れに囲まれていることに今の今まで気が付きませんでしたがどうやらコユキちゃんも同じようです。周囲の獣人たちもこの状況に恐怖を感じているようです。


「降伏などしない。力づくでできるものならやってみなさい!」

「……あの女以外は死体で構わん。もれなく連れて帰る。やれ」


 フルカスが言葉を告げると、号令を待っていた魔族たちが、崩壊した壁を乗り越え城下町になだれ込んできました。

 

「みな! わたしたちに敗北はありません! ヤマトの力を見せてやりなさい!!」

「「おぉ!!」」


 コユキちゃんの号令が聞こえた獣人たちはさきほどの恐怖が嘘のように、立ち上がり奮い立ち魔族との交戦を開始しました。

 

「おまえたち5人はアトをやれ。俺はコユキをやる」


 どうやら私の相手はフルカスのそばに控えていた魔族のようです。


「コユキちゃん、大丈夫そうでしょうか?」

「こっちは問題ないわ」


 そういうコユキちゃんではありましたが、フルカスは明らかに最上位の魔族です。私から見ても、普段と違い多少の焦りがあるように見えます。


「わかりました。こちら片付いたら援護にいきますね」

「片づけられるのはてめぇだよ!!」


 5匹のうちの1匹が私に向けてそう吐き捨てました。


「魔力のない魔法使いなんてゴミ同然だろ!!きゃはは」

「フルカス様が油断するなと言っていただろう。最初から全力でつぶす」


 私の周囲を囲んだ5匹の魔族たちが、一斉に私に対して攻撃を行ってきました。魔法を使って。

 重力系統の魔法で動きを封じられ、周囲を灼熱の炎が包み、地面からは土の針が無数につきあがり、頭上からは轟雷が響き落ちてきました。


「ははぁ!! 後片もなっく木っ端みじんだ!!」

「あっけねぇじゃねえか!!」

「では、俺らもフルカス様のサポートにっ……!?」

「!? ベリル!? 一体どうやって!?」


 私は、壊れた住居からナイフを拝借して、ベリルと呼ばれていた魔族の首を跳ね飛ばしました。


「魔族側は魔法が使えるんですね。大気中に魔力はないので、外じゃないなら中ですよね?」


 私は首を跳ね飛ばした魔族の腹をそのまま包丁で掻っ捌きました。


「簡易的ですが”異界門”ですね」


 魔族の腹から出てきたのは、”異界門”に似た能力を発動させる札のようなものでした。


「ここから魔力を供給しているから魔法が使えるわけですね。転移の痕跡も残っていないのに大量の襲撃者が突然出現したのも同様の能力を行使したのでしょうね。異界門による転移で界振は発生しませんからね」

「貴様! よくもベリルを!!」

「仕組みもわかりましたし、この護符の作成者についてはフルカスに後ほど聞くとしましょう。まずはあなたたちを処分しますね」 

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