第33話 正体
コユキちゃんが襲撃してきた人たちを片っ端からつぶしている横を通りながら、一体この人たちがどこから湧いて出てきているのか探し当てないといけません。コユキちゃんに頼まれてから一応界振の痕跡も調べましたがどこにもありませんでした。
「界振痕跡がないということは王都のときとは状況が違いますね」
城下の襲撃者は増えては減って増えては減って、何とか均衡を保っているように見えます。だというのにどこから湧いているか分からないというのは一体どう考えれば良いのか……
「コユキちゃん! この人たちどこから湧いているか全く見当がつかないんですけど!!」
「だから探してっていってるじゃない!!」
コユキちゃんに大声で泣き言を叫びましたがあっさりと返されてしまいました。
「むぅ……城下に何もないということは島内の別の場所? でもそれじゃあ城下で襲撃者が減らない理由がつかない……ん?」
少しピンときた私は忙しく飛び回るコユキちゃんに再度話しかけました。
「コユキちゃん! 今から1人捕まえるので私の半径10m以内には手を出さないでください」
私の声に気づいたコユキちゃんは軽く手を挙げて、私から距離を取って闘いはじめました。しばらくすると物陰から誰かが私のことを狙っているのがわかりました。
「もう少し殺気を抑えた方が良いと思いますよ! ”
物陰に潜んでいた人物を魔法で完全停止させてそこまで歩み寄りました。自害してしまう前に、分子運動も魔力運動もすべて合わせて何もできなくしてしまえば良かろうという作戦でしたが、うまくいったようです。
「ではゆっくり頭の中を覗かせてもらいましょうか。王都の時はしくじってしまったので少し趣向を凝らしてやりましょう」
私は時が止まったように動かない襲撃者に指をかざし丁寧に頭の中の記憶を覗かせてもらいました。
「……何もない、頭の中身が空っぽですね。いや、直前の記憶が、これは、いやそんなはずは」
この人の頭の中から読み取れた内容は非常に薄いものでした。どうやら襲撃者には一切の自我がないようで、過去の記憶が丸々抜け落ちていました。それどころか、新しい記憶も残らないようになっています。
そんな中で、ほんのさきほどこの人が”生まれた”時の記憶が見えました。この人たちは人の形をしていますが中身は空、どこかから来ているわけではなく、今ここで生まれています。
「人造人間、しかも非常に精度が高いですね。しかも……どうりで何も分からないはずですね」
この人造人間は物理的に作成されているものではなく、空間に存在している魔力を寄せ集めて構成されています。
おそらく人造人間の核となるものを前回襲撃時にばら撒いて時間経過によって魔力を吸収して形を形成するような仕組みだったのだと思います。となると、核子がつきれば自然と増加も停止します。おそらく島内全域に撒かれていると考えた方が良いでしょう。
「コユキちゃん、発生元がわかりました! 端的にいうと発生数には限りがあります! つぶせばいずれ尽きます!」
「いずれって後どのぐらい倒せば良いの!?」
「う~ん数億とか?」
「無理!」
さすがのコユキちゃんも無限にエネルギーが湧いて出るわけではないので厳しいようです。となるとあまり使いたくない手段ではありますが。
「この襲撃者は魔力から生まれています! なので魔力を消してしまえばとりあえず発生は停止しますがどうでしょうか!」
「魔力を消すなんて、さすがにアトでも難しいんじゃないの?」
たしかに、この世に満ちる魔力を消すなんていうのは神の力ですが。
「島全体を魔力障壁で囲ってもらえますか? そうすれば島内の魔力だけなら一時的に消せます。まあその場合魔法は使用できなくなりますが」
「ずいぶん大きな魔力障壁ね。しかもそれ事態が収拾するまで展開しておけってことでしょ?」
「そういうことです」
「むちゃくちゃね、でもこのままやってても埒があかないし、わかったわ」
「ではタイミングを合わせて障壁展開と魔力消失を同時に行います。魔力が消えれば襲撃者も止まるはずなので被害も出ません」
私は準備ができたら合図を送ると伝えてヤマト中心、私たちが転送されたヤマト城の天守に向かいました。
「さて、ではやりましょうか」
天守に着いた私は手を高く掲げて魔力を消す体勢を取りました。消すというよりは吸収するという方が正確ですが。残った左手をコユキちゃんに向けて念話を飛ばします。
「コユキちゃんいきますよ」
「いつでもOKよ」
コユキちゃんからの返事を受けて実行に移します。
「3・2・1……”創世回帰”」
「”魔封の陣”」
私が術式を発動したのと同時にコユキちゃんは城下を超えヤマト全域を指定領域とした魔法を完全に防ぐ魔術障壁を展開しました。私の術式も展開範囲を魔術障壁内部に調整し拡大させます。
「無事に完了しましたが……」
ここに来たときと同じように城下を覗くとさきほど多数出現して荒らしていた襲撃者は完全に機能を停止し、新規も発生していないように見えます。
コユキちゃんも障壁を展開しながら、私の方に親指を天高くつきあげ、『やったね』と言っていました。
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