第30話 盟主コユキ

 ヤマトの城と城下街は四方を十m程度の壁に覆われています。城下町の外はほとんど開拓されておらず、島の端、つまり海に出るところまで木々に覆われ、広大な森林になっています。そのため、人が隠れるにはかなり都合が良いです。逃げた襲撃者の方たちもおそらくそう考えて四方に散ったのでしょう。ただ、ここの住人が獣人であることは考えるべきだったのだと思います。

 

 ヤマトに来て初の食事を終えて、お店を出たところ、街を覆う壁、その1面に据え付けらえている大門に人が群がっていました。


「何かあったんでしょうか?」

「この匂いは!? アト、わらわ達も行くぞ!」


 人だかりの方を遠目に見ていたところ、シキナミさんが少し興奮した声色で私の言葉につづける形で言い放ち颯爽と大門の方に走って行きました。


「匂い? さすが獣人ですね。特に何も匂わないですが。でも、確かにこの気配は……なるほど」


 私もシキナミさんの飛び出した理由を察して歩いてシキナミさんの後を追いました。

 大門の周辺の人だかりを見ると身軽なそれでいて丈夫そうな装束に身を包んだ獣人、重装兵のような鎧に身を包んだ獣人たちが、城下の民衆に囲まれていました。彼らの後ろの方には縄で縛られた人間たちが複数人見えます。


「姉さま!!!」


 大門の人だかりを無視してその中心に飛び込んでいくシキナミさん。その先にいたの獣人は白い装束と赤い袴に身を包んでいました。シキナミさんと似たリボンで2つ結びにした真っ白な長髪にツンっと空に向かって立つ白い獣耳、暗い夜の中で月明りに照らされ妖艶に光る赤い瞳を持った大変美しい獣人です。

 シキナミさんを見つけたその獣人の目の奥に少し驚いたような様子が見えましたが、すぐににこやかな表情に変わりシキナミさんを見つめていました。


「シキナミ、無事だったのですね」

「姉さまこそ!」


 シキナミさんは涙をためながらその美しい獣人の胸に泣きついていました。


「コユキちゃんおかえり」

「……ただいま、ありがとうねアト」


 私が声をかけると、コユキちゃんは驚く様子もなく、ただただ自然に礼を口にしました。

 ヤマト周辺の森に逃げた襲撃者を討伐に行ったコユキちゃん率いる討伐部隊が仕事を終えて戻ってきたところだったようです。


「無事使えたんだなあの転送陣とかいうやつ」


 コユキちゃんがシキナミさんを抱きかかえてその場に座り込んでいたところで、そのコユキちゃんの白に対比するようなきれいな黒髪の少女が顔を出しました。


「ほむらさんもおかえりなさい。転送陣無事に使えましたよ。ありがとうございます」

「ここに着いて、アトに渡された転送の大札をそこのコユキに渡したらすぐに転送陣を張ってくれたよ。あたしは札を渡しただけで何もしてない」

「そんなことないですよ。ちゃんとお仕事果たしてくれて助かりました、ほむらさんも襲撃者の掃討戦に参加されていたんですね」

「コユキに手伝ってくれと言われたからな。食事も寝どころも良い者準備してくれたしアトを待つまでのついでだったよ」


 聞いていた通り、森に逃げた襲撃者の掃討にほむらさんもコユキちゃんと一緒に、行っていたようです。


「それで、その後ろで縛られている人たちが襲撃してきた人の残党ですかね?」

「そう、直接城下まで攻め込んできた人たちはまとめて掃討したんだけれど、結構な数が逃げちゃって。ここにいるので今この島にいる襲撃者は終いよ」

「さすがはコユキちゃんですね。被害も特にありませんでしたか?」

「えぇ、こちらの損害は0なので心配ないよ。ありがとう」


 数百の敵が攻めてきて、損害0とさらっというあたりまったく恐ろしいですね。


「コユキちゃんにほむらさんと、メンバも揃ったところで、コユキちゃんから連絡いただいていた件を伺いましょうか。コユキちゃんが相談したいってことでブラウさんという方を送ってきた件です。どうにも行方不明者が出ているとか。今回の襲撃と関係ありそうな感じですか?」

「今帰ってきたところなんだから、少しぐらい休ませてくれよ」


 私がコユキちゃんから色々と話を聞こうとしたところで、ほむらさんがだらーっと腕を垂らして、めんどくさそうな表情でそう言いました。


「ほむら様にもずいぶん助けていただいたから、さすがにお疲れだと思うよ。色々お話をするのはひとまず城で一休みしてからにした方が良いかも。諸々のお話はその後にしようか」

「そうですね、ほむらさんの表情を見るだけでかなりお疲れだったのが窺えますね。コユキちゃんが言う通り、積もる話は休んでもらってからにしましょうか」


 そういうとほむらさんが『休みだ!』とうれしそうに声に出しながら一人さっさと城に走って行きました。


「じゃあ私もお城にお邪魔しましょうかね、シキナミさんもそろそろ大丈夫そうです?」

「あぁ、すまぬ、姉さまの顔を見たらつい。もう大丈夫だ」


 涙を拭うシキナミさんの頭をなでながらコユキちゃんはすごく優しそうな表情をしていました。


「それじゃあ行きましょうか」

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