第29話 ヤマトへ

 ユニちゃんには私がヤマトへ行っている間も引き続きシルヴィクの対応を、合わせて、ツィル副局長に連絡を取り帝国側の状況確認をお願いしました。帝国側での行方不明者や転移事象の発生事象など、王国側と同様の事象が起こっていることから、件の集団の手がかりを見つけている可能性がありますからね。過去の転移に関する資料の整理までお願いしてしまったので、ずいぶん色々と押し付けてしまいました。ヤマトから帰ってきたらお礼をしましょう。

 シキナミさんにシルヴィクの案内をしたり一緒にごはんを食べたりして3日が経ちました。


「それではこれからヤマトに向かいます」

「アトさん、転送陣の設定完了しました」

「ユニちゃんありがとうございます。シキナミさんは準備大丈夫ですか?」

「準備することなどないからな、いつでもいける」

「それではさっそく」


 私はユニちゃんに準備いただいた転送陣に魔力を注ぎ込み術式を発動させました。家の2階の床に転写された転送陣が光りを出し術式の発動が確認できました。


「転送陣がつながったみたいです。ほむらさん、無事にコユキちゃんに転送の大札を渡してくれたみたいですね。では私が先に入るのでシキナミさんは後に続いてくださいね」

「うむ」

「ユニちゃん、シキナミさんの転送サポートお願いします」

「おまかせください!」


 私は転送陣の中心まで歩いて進みました。

 次に目の前に広がったのは四方がふすまに囲まれた、どこかの部屋の中でした。扉の方に歩み寄って開くと、木材で出来たベランダに出て、その先には青空が広がっていました。手すりによって上を見ると一面空が広がっており、下をのぞき込むとかなりの高さなのがわかりました。


「城ですね……それにしてもこんな一番高いところにおかなくても良かったんですけど……」


 そうしていると部屋中央の転送陣からシキナミちゃんが出てきました。


「おぉ、ヤマトの大城じゃ! 無事に戻ってこれたのじゃ! 姉さま! 誰かおらんのか!?」

「シキナミさんも無事に来られましたね、天守閣に転送されたようですが、周囲はかなり静かですね」

「そうか……階下におりれば誰ぞおるじゃろ」


 そういうとシキナミさんは駆け足で階段を降りていきました。私もシキナミさんを見失わないように後を追いかけます。


「おい! 誰かおらんのか!?」


 階段を降りながら大きな声で人を探すシキナミさんですが、人っ子一人出てきません。


「なぜ誰もおらぬのじゃ! まさか、やつらに……」

「城内には誰もいないようですね。城下まで下りれば流石に誰かいるでしょうし行ってみましょう」

「うむ……」


 誰もいないことで不安になってきているシキナミさんを連れて城を出て街まで下ることにしました。コユキちゃんがいる状況でヤマトが落ちるということはあり得ません。城にいないのにはおそらく何等かの理由があるはずです。

 城下まで下りたところでようやく人の気配がしました。気配がしたというより、多数の獣人たちが何やらかなり騒いでいるようです。


「おぉ! みなおるではないか! おーい無事か!?」

「お前は……シキナミじゃないか!? 無事だったのか!」


 シキナミさんが話しかけたのはクマのように大柄な獣人の男性でした。


「あぁ、そこにいるアトに助けてもろうてな、無事に戻ってこれたのじゃ」


 シキナミさんからの紹介を受けて、こちらを向いたその男性がこちらに歩み寄ってきました。


「白銀の髪に金色の瞳にアトという名前、コユキ様のご友人、異界門管理局のアトさんですね」

「よくご存じですね。ご推察の通り異界門管理局の局長のアトです。よろしくお願いしますね」

「わしはバルグ、城下の統括をしています。シキナミを助けていただき、そのうえヤマトまでお連れいただきありがとうございます」 

「いえ、大したことではないです。それにもともとヤマトには来る予定でしたし」


 一通りの挨拶をすますとバルグさんはシキナミさんに向き直り話をつづけました。


「アトさんに助けていただいたのは幸運だったなシキナミ……コユキ様もずいぶん心配しておられた」

「コユキ姉さまはどこにおるんじゃ、城の中にも姉さま含め誰もおらなんだぞ」

「コユキ様と近衛兵衆は島内に残党狩りに出ているところだ」

「残党狩りということは攻めてきたという人たちは粗方対処できたということでしょうか?」

「あぁ、城の周囲を包囲されて攻め込まれはしたが、コユキ様含め近衛衆が出ればすぐに片付いた。だが、シキナミのようにいくらかは攫われたようでな。そいつらを逃がさないためにコユキ様が先導して残党を狩りに出たのが今朝の話だ」

「残党狩りには黒い髪の人間の女の子も一緒だったりしますか?」

「あぁ、確かにブラウが連れてきた人間がいたな。コユキ様と一緒にいたはずだ」

「そうですか、ありがとうございます」


 ほむらさんの姿が見えなかったので聞いてみました。コユキちゃんと一緒のようなのでとりあえず問題はないでしょう。


「襲撃も片付いているのであればコユキちゃんを待ちましょうか。どこか宿はありますでしょうか?」

「わらわの部屋が城内にあるんじゃ! そこに泊まれば良い!」

「そうだな、アトさんであれば城内にいても誰も何も言わないだろう」

「そうですか、わかりました。ではコユキちゃんが帰ってくるまでは少しゆっくりしましょうか。ブラウさん、どこかおすすめの食事処ありますか?」


 私とシキナミさんは、まずは腹ごしらえということでブラウさんにおすすめいただいたごはんを食べに行きました。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る