第28話 ヤマトの異常
シキナミ、そう名乗った黄金色の髪をした獣人の少女はそう名乗り、自身を獣人種自治区ヤマトの次期盟主だと名乗りました。
「ヤマトというとコユキちゃんのところですか?」
「貴様! 姉さまをコユキちゃんなどと無礼だぞ」
「姉さま? コユキちゃんに妹がいるなんて聞いていませんが……」
「……そなた、姉さまの知り合いか?」
コユキちゃんと彼女、シキナミちゃんの関係を考えていたところシキナミちゃんから問いかけがありました。
「コユキちゃんは友人です。けれど、あなたのような妹がいるとは聞いたことがなく……」
「……それはそうだろう。実の姉妹ではないのじゃ。わらわの両親が死んだ1年前に引き取ってくれたのがコユキ姉さまじゃ」
「1年前……そういうことですか。通りで私も知らないわけですね」
「お主の名前はなんというのじゃ?」
「私はアト、異界門管理局の局長をしています。こちらは同じく管理局のユニちゃんと、そちらの男の子はこの街シルヴィクの衛兵のクランさんです」
「アト……姉さまから聞いたことのある名前だ。それより、ここがシルヴィクだと? バカを言うな!!」
「間違いなくここはシルヴィクです。少しは落ち着いて話ができそうなら、どういう経緯でここに辿り着いたのかお話を聞かせてもらえませんか?」
「……わかった」
私がコユキちゃんの友人であることを納得してくれたのか、ようやく落ち着いてお話ができそうです。
「ヤマトが襲われたんじゃ……」
「襲われた!?」
かなり驚きの発言が飛び出してきて、ユニちゃんも思わず大きな声を出していました。
「襲われたというと誰にですか?」
「わからぬ。はじめはヤマトの島外縁に船が乗り付けたところからじゃった。その船に乗っていたのは全身を黒い装束に身を包んだ如何にも不審なやつら。そいつらは船を降りるなり入島管理を強硬突破して2~30名ほどが島内にばらばらに侵入したんじゃ」
「それでその人たちが襲撃してきたんですか?」
「それだけではなかったんじゃ。その後、戦闘部隊を編成して捕縛に向かったんじゃが、明らかに船で乗り込んだ数よりも人数が多かった」
「というと? 数え間違えたわけではなく?」
「わらわが把握しただけで200名以上。把握できていない数も想定すれば入島管理者に聞いていた数の10倍以上じゃ」
「それは良くないですね」
ヤマトの人口はせいぜい1000人前後です。もちろん全員が獣人なので戦闘能力は高いですが、戦闘人員はせいぜい100名前後でしょう。それにしても200名以上とは、ひっそりと侵入していたのかそれとも……
「それで、『把握していただけで』というのはどういう意味でしょうか?」
「200を超えた数が、島内の至るところで全身武装のうえヤマト城下に攻め込んできた……わらわはその時城の外におってそいつらに捕まってしもうた……」
「目的は獣人の拉致ですか? それにしては行動が大胆過ぎる気がしますね。捕まった後はどうなったんですか?」
「その後は、気を失っておって気が付いたら海の中じゃった……それでわらわは泳ぐのが得意ではなくてな……溺れて気が付いたらここにいたというのが覚えている話じゃ」
「ありがとうございます。さらわれてどこかで海に捨てられたのか落ちたのか、ヤマトとシルヴィクの間はかなりの距離があるので運ばれている途中に何かしらの要因で海に落ちたのが妥当でしょうか」
「そうですね、でも命があって何よりです」
「わらわは急いでヤマトに帰らねばならぬ、みなが心配じゃ」
「シルヴィクからヤマトへは急いでも7日ほどかかりますよ」
脱力してしまった体を無理に起こしながらヤマトに向かおうとするシキナミさんにシルヴィクからヤマトはかなりの遠足になると伝えます。
「ヤマトについて今どういう状況なのか正確にはわかりませんが、今日の朝にヤマトのブラウさんという方と話しました」
「ブラウ! 黒猫のブラウか!?」
「そうですね、黒髪に猫のような耳でした」
「そうか、それでブラウはなんと!?」
「コユキちゃんが私に相談したいことがあるとのことでしたが、一度ここに戻る必要があったので、ほむらさんという私のお仕事を手伝ってもらっている方に先行してヤマトに向かってもらっています。ブラウさんがいつ頃ヤマトを出たのか聞いていませんが、襲撃の話はしていませんでしたね」
「そうか……」
ヤマトから王都までは距離があるので、ブラウさんがヤマトを出てから襲撃があったのか、出る前に襲撃があったのか。
「テレポート陣をヤマトに張ってもらうようにお願いしているので準備が整い次第私もヤマトに向かう予定ですが一緒に行かれますか?」
「良いのか!? ぜひ頼む!」
「もちろんかまいませんよ。わかりました。ほむらさんがヤマトに着くのはおそらく3日後ぐらいになるかと思います。それまでは体を休めてください」
「ありがとうなのじゃ!」
「シキナミさんは今飛び出してきた部屋をお貸ししますので滞在中は自由につかってください」
「世話になるのじゃ」
「それではまずは食事にしましょうか。それとユニちゃんには王都での事件についてとヤマトに行く間のことを相談させてもらいますね」
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