第27話 シキナミ
「おつかれさまでーす」
ユニちゃんと王都での事件等について話していたところで、クランさんがやってきました。
「おつかれさまです、クランさん」
「おつかれクラン」
「げっ、ユニさんいらっしゃるんですね……」
「人の顔を見てその反応はあまり失礼よクラン! ちょっとそこに座りなさい。大体あなたは先日の迷い子の時も……」
挨拶するなりユニちゃんに叱られたクランさんはそのまま玄関入り口でユニちゃんに正座させられてコンコンとお説教を受け始めました。このまま見守ってもいいですが、説教の内容が徐々に過去に遡り始めてこのまま終わりを待っていると日が暮れそうな勢いなので仲裁に入りましょう。
「ユニちゃん今はそのぐらいにしてあげてください。良い大人がそろそろ涙目になりつつありますし、話を先に進めたいです」
「うぅ、アトさん……」
クランさんが神に祈りと感謝をささげるような目でこちらを向きました。
「あっ! アトさんすみません、ついダメ人間にいらいらしてしまって!」
ユニちゃんが泣きそうなクランさんにダメ人間の烙印を押したところで、クランさんの瞳から一筋の涙が流れ天を仰ぎ始めました。さすがになんかかわいそうになってきました。
「じゃ、じゃあクランさんに例の黄金髪の少女について港で集めた情報を伺いましょうかね? お願いできますかクランさん?」
「……はい」
クランさんとユニちゃんに椅子に掛けるように促しながら、クランさんに報告を求めました。クランさんは涙を拭いながら、椅子に掛け、港に居た人たちに聞いた状況を報告しはじめました。
「まず、あの子を最初にみかけたのは沖合に漁に出ようと船に乗っていたモンド爺さんです。停めていた船に乗り込んで出発しようとした時に浜辺から30mぐらいのあたりで海面の反射と異なるキラキラとした光が見えたのでよく目をこらすとその子が波に揺られて浮いていたらしいです」
「そこそこ沖に近いですね」
「はい、それで慌てて助けに行こうとしたら大き目の波が来て、その少女がそのまま浜辺に打ち上げられたと。それで近くにいた知り合いを呼んで打ち上げられたあたりに行って、その途中で俺に声をかけたと言っていました」
「それで?」
「そこからは、アトさんも知っての通りです。それ以上の情報は何も出ませんでした」
「最近港に船が来たりはしてませんでしたか? 乗り合ってきたところで海に落ちたりしたのではないかと」
「いえ、その辺も確認してまわりましたが、船は来ていないとのことです。最後に船が来たのは……ユニさんが到着した時です」
クランさんはユニちゃんの顔色を窺いながらそう話しました。ユニちゃんはクランさんのことはまるで意に介していないようです。まだ少し怒っているのかもしれません。
「そうですか、そうなると一体どこから流されてきたのか。流石に身一つであの海峡を大陸側から流されてきたとは考えられませんし……」
その時、少女を寝かせていた部屋で魔力反応が急激に高まりました。
「アトさん!」
ユニちゃんも気づいたのか、即座に私とクランさんを含めて神聖結界を展開しました。結界を張ってすぐ部屋からあふれるオーラと共にすごいスピードで少女が飛び出し突進してきてユニちゃんの張った結界に攻撃をしかけました。
「くっ! 教会の下僕が生意気に!」
飛び出してきた少女は結界に弾かれて体勢を崩しました。
「ひとまず落ち着いて話を聞いてもらえませんか」
私が声をかけましたが、聞く耳を持たないようです。なんかついこの間も似たような状況があった気がします。
少女は崩れた体勢を立て直し再度こちらに向けて手刀を突き出す形で突っ込んできました。獣人の爪は非常に鋭く人体を容易に引き裂く膂力もあるため大変危険です。
「ふぁ……」
私に攻撃しようとした少女が、突然力を失ったようにその場に倒れ込みました。気づくととても良い匂いが周囲に漂っています。
「くぅ……力が入らない……」
「教会で利用している魔力を抑え込む香剤です。通常は神力での祈りを行うために低濃度で利用するものですが、薄めず使えば全身脱力で動けなくなります」
ユニちゃんは物理結界で自信の体を覆いながら倒れた少女に話しかけています。ユニちゃんの後ろではクランさんも口と鼻を腕で覆いながら片膝をついて座り込んでいます。倒れた少女ほどではなさそうですが、この香りを少し吸い込んでしまったようです。
「大丈夫ですか、クランさん? ”
「面目ありません……というか、なんで2人は大丈夫で俺だけ?」
「私にはこの手のものは効かないので。ユニちゃんはそもそも自己防衛してますね」
ユニちゃんは私には大して効果がないことを見越していたのと……クランさんに対して結界を張らなかっのはまださっきの話を根に持っているのかもしれません。
「すみませんアトさん、少し強引ですが無力化させてもらいました」
「いえ、ユニちゃんありがとうございます。適切な状況把握と無力化、さすがですね。王都に返すのが大変惜しいです。さて」
私は倒れ込んだ少女の元に歩み寄りつま先で体重を支える形で座り話かけました。
「私はシルヴィクの異界門管理者のアトです。何もしなければこちらから危害を加えるつもりはありません。まずはあなたのお名前とどこから何の目的で来たのか教えてもらえますか」
「わらわはシキナミ、ヤマトの次期盟主じゃ……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます