第26話 黄金髪の少女

 王都を出たところで出会ったブラウさんはほむらさんを連れて、王都から東に海を越えて1週間ほどかかる大島にある獣人都市ヤマトへ向けて出発したのを見送り、私も飛行魔法を発動し、数日前にシルヴィクから王都に来た道を全速で帰還しました。

 王都から飛行し、海を渡りシルヴィクのある島の港まで来たところで、港の南西に位置している浜辺で、何やら人が集まっているのが見て取れました。


「ん? 何があるんでしょうか?」


 気になってみていると集まっている人の中に、見覚えのある顔をいくつかありますね。少し気になるので見に行ってみましょうか。


「おい、生きてるのか? 呼吸はしてるよな?」

「どうしたもんかね、とりあえず街まで運んで医者に見せるか?」

「みなさんお疲れさまです、こんなところで何しているんですか?」

「あっ! アトさん! ちょうど良かった王都から帰られたんですね」

「クランさんお疲れさまです。衛兵のあなたが島のこんな端で何してるんですか? さぼりですか?」

「違いますよ! 今日は非番です! たまたま港まで釣りに来ていたら、この人たちから『人が倒れてる、手伝ってくれ』って声をかけられたんですよ」

「人が倒れてる?」


 クランさんの言葉を受けて数名の人だかりの先まで目を向けると、腰まで伸びる黄金色の長髪を赤いリボンで二つ結びにしている少女が倒れていました。少女の黄金の髪のすき間からはピンと立つ大きな獣耳と赤の着物の腰のあたりからは小さなしっぽが顔を覗かせていました。今日は何かと縁がありますね、獣人の少女のようです。

 どうやら生きているようですが、気は失っています。全身が水にぬれていることから海で流されてこの浜辺に打ち上げられたのかと推測できます。


「命に別状はなさそうですが、これだけ濡れていては風邪をひきかねないですね。”体温向上ウォームアップ”」


 炎魔法で少女の体温をあげつつ、濡れた服や髪・体を乾かしました。


「いったんはこれで。それでこの少女はどうするつもりですか?」

「アトさん、ありがとうございます。とりあえず街に運びこむかと話していたところです。少し街まで距離があるので荷車準備がいりますが」


 さきほどクランさんと話していた、漁師のおじさんが答えてくれました。


「それであれば、私の方でシルヴィクまで運びますよ。ちょうど帰るところでしたし、私であれば彼女をそのまま運べるので」

「おぉ、それは助かります。であればお任せします」

「さすがアトさん!」


 おじさん方やクランさんの言葉を受けて、私は少女を担いで再度飛行魔法を発動しました。


「それでは、私の家まで運んで介抱しておきます。クランさん、衛兵としてこの少女がどういう経緯で発見されたのかや目撃者情報など集めて後で私の元に報告してください」

「えぇ!? 俺今日は非番なんですけど!」

「今日が非番なら明日でも良いですよ? この子をシルヴィクの街の中に入れるわけですから色々な手続き含め衛兵さんが対応してくれますよね?」

「……承知です。後で向かいます」


 不服そうなクランさんを横目に見ながら、私はそのままシルヴィク正門まで速度を上げて向かいました。

 港から数分ほど飛行して、シルヴィク正門に着いた私は衛兵の方に少女が倒れていた事情を説明し、諸々の報告は後ほどクランさんがすることを伝えて中に入れてもらい、そのまま家まで直帰しました。


「ただいまでーす」

「あっ! アトさんお帰りなさい? その子はどうされたんでしょうか?」

「帰りに港で倒れているところを拾ってね、詳しくは後ほどクランさんが来るのでその時に話しましょう。すみませんがまずは、ベッドを準備していただけますか? あと、可能なら軽食と飲み物もあるとうれしいです」

「わかりました!」


 出迎えてくれたユニちゃんに帰るなり色々とお願いしてしまいましたが、てきぱきとベッドの準備に食べ物、飲み物の準備までこなしてくれました。なんてできる子なんでしょうか!

 ユニちゃんの用意してくれたベッドに黄金髪の少女を寝かせ、念のため近くのお医者さんに声をかけて容体をみてもらい、特に問題ないということでユニちゃんが容易してくれた食事をとり一服しました。


「あの少女は獣人ですよね? どうしてシルヴィクなんかで倒れてたんでしょうか?」


 一服しているとユニちゃんが自分の飲み物を持って私の横に座りました。


「おそらく見た目から見るに獣人ですね。私もたまたま通りがかってここまで運んだだけで、最初に発見したのは漁師の方だったみたいなので。そのあたりの話はクランさんに聞き込んでもらっているので後ほど調査結果を報告してもらいましょう」

「そうですか、まだ小さい子なのに何があったのか、心配です……」


 ユニちゃんがカップを両手で持ち口元に寄せながらそうつぶやきました。

 確かに、人の感覚で見るとあの少女は10歳前後の子供ぐらいの体格です。とは言っても、獣人は見かけで年齢を推測してもあまり当てにならないところはあります。実際私の良く知るコユキちゃんだって、見かけ言動も20歳そこらの美人のお姉さんですが、もう数百年以上生きているおばあちゃん・オブ・おばあちゃんです。

 

「そういえば、あの少女のことでお話するのを忘れてましたが、王都でのこと含め共有しておきますね。それとユニちゃんに少しお願いがあります」

「アトさんが私にお願いですか?」

「えぇ、少し調べていただきたいことがあります」


 そういうと私はクランさんが報告に来るのを待つ、黄金髪の少女が起きるのを待つ間に王都での出来事と引き続きの対応状況、そしてヤマトからの使者があり、ほむらさんが先に向かっていることを順を追ってお話しました。

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