第25話 ヤマトの使者

 フランさんと別れた後、王城の部屋に戻り、酔いつぶれたほむらさんをベッドに寝かして、私も眠りにつき翌朝を迎えました。


「アト、助けて、頭が痛い……」

「二日酔いでしょうね」


 朝日がほのかに窓から差し込む中、私が優雅に朝食を食べていると、昨晩酔いつぶれたほむらさんが両手で頭を抱えながら起き上がってきました。


「二日酔いに染み入る朝食を準備していただいているのでこちらに来て召し上がってください」


 私はほむらさんの分のスープとごはんを椀によそって机の上に準備しました。


「いや頭が痛すぎて食事どころじゃな……いい匂いだな? 匂いだけで頭痛が和らいできた気がする」

「それはさすがに気のせいだと思いますが、食べますか?」

「食べる」


 ほむらさんは辛そうな顔でベッドから起き上がると椅子に座ってごはんを食べ始めました。


「食事が終わったらシルヴィクに戻りますよ」

「それで戻ってからはどうするんだ?」

「転移に関しての過去文献を漁ろうと思います。今回新たな転移使用者が出たことで過去に似た事例がなかったかどうか改めて調べてみようかと、ユニちゃんにも追加調査を依頼予定です」

「荒事もなさそうだな、あたしは一旦待機で良いか?」

「そうですね、少し頼みたいことがあるのでまたシルヴィクに着いたらお願いします」

「そうか、わかった!」


 食事も終わったところで支度を終えて、国王陛下とダイナス宰相に挨拶をし王城を出ました。王城を出た後、帰りついでにギルドに立ち寄りました。


「ムスラさんいますか?」

「おつかれさまです。少しお待ちください。ギルマス! アト局長が来られました!」


 受付が声をかけてすぐ奥からムスラさんが出てきました。


「アト局長!」

「おつかれさまです。王都を出立してこれからシルヴィクに戻るのでその前に一言挨拶をと思いまして」

「帰るんですか、先日の件が片付いていない中でそれは少々心細いな!」


 ムスラさんが柄にもないことを言いました。


「昨日”蒼玉”に会いましたよ。現役のS級がいるなら王都も何も問題ないでしょう」

「そうか……何の話を?」

「事態は解決したのかや、行方不明者は引き続き調査するなど今回の事件絡みの話が主ですね」

「……あまり俺から言うことではないが、フランのパーティメンバが行方不明でな、恐らく事件絡みだ」

「S級パーティのメンバが行方不明? そんな話は何も聞いていないですが……」

「非公表だ。もともと冒険者なんてあちこち冒険するのが仕事なんだから、多少姿を見ないぐらいで騒ぎ立てるものでもない。だが、フランとその行方不明のベリルという魔法使いは旧友で、なのに何も言わず消えたからフランは事件に巻き込まれたんじゃないかと言っていてな」

「そうでしたか……」


 昨日のフランさんに感じた訳ありげな雰囲気はそれでしたか。


「行方不明者を放置はしないので、そのベリルさん含めこちらで調査します。仮に事件に巻き込まれていたのであれば連れ帰りますので」

「あぁ、頼んだ」

「えぇ、王都の警戒は引き続きお願いします。フランさんにも言いましたが何かあれば情報連携を」

「任せろ」


 フランさんの事情も伺い、ギルド挙げての王都警戒を改めてお願いしたところで、王都を後にしました。



「あたしは昨日酔いつぶれてたからあまり記憶がないが、あのきれいな女性の話だったんだろ? さっきのギルマスの話は?」

「えぇ、S級パーティのメンバがそうやすやすと、ましてや先日私とほむらさんで倒した人たちにさらわれるとは考えにくいですが、調査を進めればわかるでしょう」

「そうだな、ところで帰りも飛ぶのか?」

「そのつもりでしたが、海路の方が良いですか?」

「そういうわけじゃないんだが……ん?」


 帰り方の相談をしていると、ほむらさんの視線が動き刀に手をかけました。誰かに見られているようです。


「ごめんにゃ、警戒させるつもりはなかったにゃ」

「にゃ?」

「おや、獣人ですね?」


 木の影から人が出てきました。その人物が深く被ったローブを脱ぐと黒い短髪からピンと立った獣耳が見えました。


「ブラウと言いますにゃ。コユキ様がアトさんに折り入って相談したいことがあるとのことで呼びに来ましたにゃ」

「コユキちゃんが?」

「はい、急ぎということで至急ヤマトに来ていただきたいですにゃ」

「困りましたね、まだ色々片付いていないですし。具体的にはどういう相談なんでしょうか?」

「ヤマトで行方不明者が続出しているのにゃ。そういう話が王都でも起こっているという噂は耳にしていて転移絡みじゃないかということでコユキ様がアトさんに相談したいという話にゃ」

「……王都の話と似てますね。これはコユキちゃんに話を聞きに行けば何か手がかりが見つかるかもしれないですね。でもユニちゃんと交代しないといけないですし……」

「どうするんだアト?」


 悩んでいるとほむらさんが声をかけてきました。


「そうだ! ほむらさんこれを持ってブラウさんと一緒にヤマトに先に行ってくれませんか?」

「先に行くのはいいが、今渡されたこれはなんだ? 紙?」

「転送陣の大札です。コユキちゃん、ヤマトの盟主にその札を渡して術式展開してもらってください。そうすれば私も転送陣を媒介してすぐに飛べますので。ほむらさんがヤマトに着くまでの間に、私はシルヴィクで用事を済ませてきます」

「そんな便利なものがあるんだな、転移は使えないとかテレポートも使えないとかは聞いていたが……」

「それじゃあこのほむらちゃんを先に連れて行けば良いのにゃ?」

「はい、それでお願いします」

「りょうかいしたにゃ! よろしくにゃ!」

「こちらこそよろしく!」


 ほむらさんとブラウさんがヤマトに向かうのを見送り、私も急ぎ空路でシルヴィクに戻りました。

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