第24話 蒼玉の冒険者
「さて、フランさんでしたか? すみません、どこかでお会いしたことありましたっけ?」
美味しい料理とお酒に飲まれてしまったほむらさんを、半個室部屋でソファをお借りして少し休ませながら、さきほど声をかけてきた青髪の女性とお話を始めました。
「いえ、初対面です。突然お声がけしてすみません。アト局長の噂はかねがね聞いていて少しお話をしてみたいなと思っていたんです」
なるほど、初対面であれば知らないはずですね。
「では初めましてですね、異界門管理局の局長をしているアトと言います」
「はい、大変な実力者であると国王陛下、宰相殿から聞いています。お会いできて光栄です」
国王陛下や宰相と面識がある、話したことがある冒険者とはずいぶん珍しいですね。
「大変失礼なのですが、国王陛下と面識があるということは高ランク冒険者さんですか? A級、いやS級とか?」
「まだまだ未熟者ではありますが、一応S級冒険者の端くれとして活動しています。今回の王国民の失踪事件について異界門管理局で調査の上、対応いただいたと聞いています。冒険者にも王国からの色々と指令があったのですが対応に苦慮していたところでして、一言お礼ができればと思ってました。ありがとうございました」
お会いしたかったといっていただきましが、私の方こそS級冒険者にこんなところでお会いできるとは驚きました。しかし、S級……フラン……。
「あ~蒼玉のフランさんですか! こんな有名人に会えるなんて!」
「その蒼玉と呼ぶのはやめてください……恥ずかしいので……でもお名前を知っていていただけたなんて嬉しいです」
フランさんが頬を薄く赤に染めて少しうつむきがちにつぶやきました。
「光に照らされ美しく輝くコバルトブルーの髪の毛をなびかせながら、鍛え上げられ引き締まった肉体で振るう剣は金剛石をも粉砕する。一方でその鎧面の下に隠された美貌は宝石ですらも嫉妬する。まさに容姿端麗、英雄豪傑、世界最高の冒険者と名高いフランさんじゃないですか!」
「やめてください……」
私が巷で聞いている蒼玉の冒険者フランの噂話を語ってみるとフランさんは耳まで真っ赤にして両手で顔を覆いながらそう言いました。蒼玉というのはそのきれいな青い髪の毛と、玉、つまり宝石のように美しい容姿から、彼女がS級冒険者になったときにつけられた二つ名です。当時は貴族令嬢みたいな女がS級冒険者になったみたいだぞと国内でも少し噂になっていました。いやしかし確かにこれは噂通りの蒼玉の二つ名にふさわしい力と美しさですね。
「すみません、ついからかい過ぎました。フランさんも今回の一件に対応いただいていたんですね」
「はい、ギルドマスターから召集がかかり、王都近辺にいたS級冒険者が本件の原因究明にあたっていました。途中から異界門管理局が動いたとのことで依頼内容が王都内の不審人物探しに変更となりましたが」
気を取り直したフランさんが冒険者側の事のあらましを話してくれました。
依頼内容が変わったというのは、ちょうど私が国王陛下とダイナス宰相に依頼したタイミングでしょうね。国王陛下も迅速に対応いただいていたようです。
「そうでしたか、こちらこそ本来は管理局がもっと早くに動くべき事案だったのですが、対応が後手に回ってしまいました。ご協力ありがとうございます」
「いえ、それで今日は対応も終わって打ち上げといったところですか? お連れの方もずいぶん楽し気に酔いつぶれていましたし」
「まあそんなところです。これから一度シルヴィクに帰ろうと思っていてその前にほむらさん、今酔いつぶれている黒髪の子に報酬をごちそうしにきたところでした」
「そうですか、となるとこの一件は片がついたとお考えなのですか?」
さきほど照れていた顔が見間違えだったかと思うほどに、真剣で凛々しい表情でこちらを見つめるフランさんのギャップに思わず惚れてしまいそうになります。
「……何か聞いていますか?」
「いえ、冒険者の勘というやつです。今回の一件、ギルドからは依頼完了と報酬の支払いがあったものの引き続き協力を求めることがあると言われていたもので。それに……何より行方不明者がまだ戻っていませんし」
「そうですね、まあ片はついてますね。仰る通り行方不明者も未発見で首謀者も捕まっていませんので解決はしてないです」
「そうですか……」
フランさんはさきほどよりも一層深刻そうな顔でつぶやきました。
「行方不明者については別世界に転移した可能性も高いので、こちらは管理局の仕事として調査して戻ってこれるようにしようと思います。首謀者については国にも報告済みで管理局も引き続き対応します。ギルドにも協力はお願いするつもりです」
「ぜひお願いします……」
フランさんの様子から見て何か事情がありそうですが、初対面であまり詮索するものでもないのでこの話はここまでにしましょう。
「それでフランさんもここのお店の常連さんですか?」
「えぇ、冒険者になりたての頃からの行きつけだったんですが、最近は国外に出ることも多かったので中々寄れなかったんです。今回は王都に戻ってきていたのと報酬も出たので久しぶりに食事に来ました」
「流石S級はお忙しいですね。ギルマスにこき使われてないです?」
「結構あっちこっちと飛ばされてますね」
フランさんがギルマスへの愚痴を笑いながらこぼしたところで私も思わず笑ってしました。
その後も食事をしながらたわいもない話をしていると、女将さんがそろそろ店じまいだというので寝ているほむらさんを担いで店を出ました。
「それでは、フランさん今日はありがとうございました」
「こちらこそ、色々お話が聞けて大変楽しかったです。……行方不明者の件は何かわかれば連絡いただけると助かります。さきほど話をしたように冒険者ギルドに言伝いただければと思います」
「はい、そちらも情報連携しましょう。それではまた」
酔いつぶれているほむらさんを抱えてお店を後にして王城の部屋への帰路につきました。
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