第23話 王都一の名店

 ギルドマスターとの昔話をしながら街の中を散策して、ギルドから10分ほど歩いていると今回目当てのお店に着きました。


「ここが私のイチオシの名店“大鳳亭”です!」

「……なんというか、かなり質素な作りだな」


 ほむらさんが言葉を選びながら店の外観について感想を述べました。実際この大鳳亭は名前が大層な割に、シルヴィクにもあるような小さな酒場のような外観をしています。それはそれで隠れ家的で好きですが、王都の名店という構えとはいえないのは事実です。


「大きなお店ではないですが、王城にいたダイナス宰相も忍んで通っている串鳥の名店です。食事内容は楽しみにしていてください」


 ほのかにがっかり感の漂うほむらさんをフォローしつつお店のドアを開けて中へ入ると店員さんの元気な声とお客さんの賑わいが聞こえてきました。


「いらっしゃい! 2人でいいですか?」

「はい、2名でお願いします」

「一番奥のカウンター席が空いているのでそちらへどうぞ!」


 店員さんの示す席につきメニュー表を確認します。


「外から見たときは気づかなかったが、すごい繁盛してるな」

「でしょ? とりあえず、おすすめの串鳥を一通り頼むので他にも食べたいものがあれば何でも注文してくださいね」

「写真はうまそうだが、名前が全くわからない……」

「そういえば、そうですね。この世界の鳥の名前が書いてあるので、面白そうなもの適当でいいですよ。基本全部美味しいので」


 ほむらさんは『う~ん』と悩みながらもこの店の店名にも入っている大鳳の丸串を注文しました。


「そういえば、明日には一旦シルヴィクに戻るつもりですが、ほむらさんもそのタイミングで元の世界に帰りますか……?」

「今のままだとすっきりしないところではあるんだよな……、結局あたしが連れてこられた理由もわからないし、黒幕みたいなやつらもまだいるわけだからな」

「私は引き続き調査していきますが、ある意味この世界の話なので最後までほむらさんに付き合っていただく必要もないとは思っていたり……ただ、手伝ってもらえると助かるなぁみたいな?」

「報酬出してくれるなら急いで帰る理由もないから手伝うぞ?」

「ありがとうございます! では引き続き雇用継続ということでお願いします!」


 ほむらさんに手伝ってもらえることが確約されたところで私が注文していた天鶏(てんけい)の串焼きセットが届きました。


「すごい美味そうだな!」

「さぁさぁ今日は私のおごりですので! とりあえず料理をいただきましょうか!」


 届いた串焼きを一本手にとりほむらさんがかぶりつきました。


「!? うま!!」

 

 どうやら気に入っていただけたようです。


「おい、アト! めちゃくちゃうまいぞ!! なんだこの鶏肉!」

「お口に合ったようで良かったです。これからも手伝っていただけるということなのでまた美味しいもの食べにいきましょうね」

「いや、食べ物がおいしいから帰りたくないとかそういうわけじゃないんだからな!」


 アトさんは相変わらず美味しそうに食事を食べ、一緒に頼んでいたお酒も飲みながら何か弁明しているようでした。


「大鳳の丸串入ります!!!」


 厨房の方から店員さんと思われる方たちの大きな声が聞こえてきました。声が聞こえたと思ったら、頭から尾まで一本の串で貫かれてこんがりと焼かれている、体長5mはありそうな鳥の丸焼きが5人がかりで運ばれてきました。


「!!?? なんだあれ!!??」


 ほむらさんがあまりのサイズの料理に立ち上がりながら驚いていました。


「あれが、大鳳というこの世界最大級の鳥です。繁栄の象徴ともいわれるありがたい鳥さんで味もすごくおいしいんですよ」

「いや、あんなでかい料理食えないだろ!」


 私が平然としながら、運ばれてきた大鳳の丸串の説明をしているとほむらさんは『食い切れる気がしない……』と立ち尽くしていました。


「アトちゃん、久しぶりだね」


 呆然としているほむらさんの席の奥、厨房の方から大鳳の丸串と一緒に、この店の女将クルスさんが歩いてきました。


「おひさしぶりですクルスさん。中々王都に来る機会もなくてご無沙汰してます」

「大鳳の大串の注文が入ったと聞いたんで、誰かと思って覗いてみたらアトちゃんだったんで思わず出てきたよ」

「ありがとうございます。大串はサイズがサイズなのでほとんど頼む人いないですもんね、まあ今回頼んだのは私ではなくこちらで呆然としているほむらさんですが」

「おや、かわいい子だね、見たことない顔だけど同僚さんかい?」

「いえ、仲良くなって少しお仕事を手伝ってもらっています。ほむらさん、こちらはこのお店の女将のクルスさんです。クルスさんは元S級冒険者で……」


 と声をかけていましたが、まだ料理のでかさに思考が止まっていたようでした。


「まあ、2人じゃ食べきれないと思うので、いくらか私たちように切り分けてもらえますかね? 残りは私たちから今いるお客さんへのおごりです」

「まかせな、こちらのアト異界管理局局長様があんたたちに大鳳の丸串をおごってくれるらしいよ! 食べたいやつは皿持って並びな!」


クルス女将の一声に店内のお客さんたちがざわざわと反応し始めました。


「マジで!? あざます!」

「大鳳が食える日が来るなんて!」

「というか局長が来てるのかよ! 有名人じゃん!」


 酒を飲んで酔っ払っていたお客さんたちも大鳳の丸串に酔いが覚めたのか次次に列に並び始めました。


「ほら、ほむらさん、クルスさんにとりわけてもらったので私たちはすみっこでゆっくり食べましょう」

「……はっ!?あたし今意識が飛んでたか?」

「驚き過ぎたのか飛んでましたよ、大鳳の肉は絶品なのでどうぞ」


 意識を取りもどした、ほむらさんは大鳳の肉を食べ始め、その美味しさにまた一瞬思考が止まっていたようでした。ほむらさんを見ながら笑っていたところ、とても美しい青い髪を型ぐらいまで伸ばした女性が声をかけてきました。


「アト局長ですね。わたしはフラン・レストリア、王国で冒険者をしています」

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