第22話 帰路の前に
疲れ果てた私は、一度王城の客室に戻りベッドに横になりました。
「とても疲れましたね」
「お疲れだなアト、あたしも疲れた……」
ほむらさんが椅子に座りながら労いの言葉をかけてくれました。
「ほむらさんもお疲れさまでした。色々お手伝いいただいて大変助かりましたよ。ただ、結局ほむらさんをこの世界に呼んだ人物”フルカス”を見疲れらなかったのはすみません」
私は改めてほむらさんに謝罪しました。
「あいつが見つからなかったし、今回の不審者どもの目的もよく分からなかったのは残念だが、手掛かりだったアークがすでに死んだわけだから気にしても仕方ない。それより、地下通路で約束した報酬の件はどうしてくれるんだ?」
ほむらさんは私に気を遣ってくれているのかニコっと笑いながらそう言いました。
「明日には王都を立つのでその前になにか美味しいものをごちそうしますよ」
「よし! 何食べさせてくれるんだ?」
ほむらさんが目の奥をキラキラと輝かせながら何を食べるのかを聞いてきました。
「王都に着いたときに行こうと言ってた場所です。結局王都に着くなり王城へ強制招集されていけてなかったですしね」
「例の肉料理がうまいって言ってた場所だな! おし! すぐ行くぞ!」
「まあまあ、少し身なりを整えてから行きましょう」
急かすほむらさんですが、ダンジョンに潜って戦闘したこともあり少し衣服も汚れていました。そういう私も同じくほこりっぽくなってしまっているのでお風呂に入ってから衣服を着替えて準備してからごはんに行くことにしました。
◇
「今度こそ準備万端だな!」
「はい、じゃあ行きましょうか」
「せっかくなので街をみながら歩いていきましょうか」
「そうだな、あたしもせっかく異世界に来ているのにあんまり観光できてないしな」
ということで夜のごはんを食べるお店まで王城から歩いていくことにしました。
「そういえば、ギルドマスターとずいぶん仲良さそうに話していたが、どういう関係なんだ?」
ちょうどギルド前を通り過ぎるところでほむらさんが疑問を思い出したのか問いかけてきました。
「あぁ、そういえばギルドから地下通路に行ったときはバタバタしていたのでほとんど話してなかったですね。王国のギルドマスターであるムスラさんが昔死にかけていたのを助けたことがあるんです」
「つまりアトはギルドマスターの命の恩人になるのか」
「端的にはそうですね、ムスラさんがまだイケイケの冒険者として活動していたときの話です。ムスラさんが冒険者の中のトップ、S級にあがった頃の話で、実力も申し分なかったので自信過剰になっちゃったんでしょうね。単独で天災級、★10クエストを受けて魔王領にいっちゃったんですよね」
「その天災級クエストっていうのはどのぐらい難しいんだ?」
「通常冒険者はクエストを受注するときに、近接戦闘・遠距離戦闘・偵察・補助・司令の5人一組を組むのが基本でこれを冒険者チームと言います。天災級クエストはS級冒険者からA級冒険者で構成される5チーム、25人が受注基準と言われています。ちなみに私的な感覚で、ほむらさんを冒険者ランクでいうとA級ぐらいだと思います」
「……あのギルドマスターは見かけ通り頭の中が脳筋バカなのか?」
あまりに無謀な単独攻略に聞こえたのでしょう。ほむらさんがムスラさんのことを頭のおかしいやつと思い始めてしまったようです。
「一応過度な誤解がないように補足すると、当時のムスラさんの実力は上がりたてとはいえS級の中でもトップクラスでしたし、適当に受注したわけではなく補助用魔法道具に回復系のポーションなども必要十分に準備していました。それにムスラさんは遠近双方に通じた戦闘スタイルでそれまでも単独でクエスト攻略していましたし」
「それだけの実力者が死にかけたってどんなクエスト内容だったんだ?」
「魔帝竜イビルドラゴンの討伐です」
「まていりゅう? イビルドラゴン? この間ダンジョンで倒したガイアドラゴンみたいなやつか?」
「イビルドラゴンは野生の魔物ではありません。“災厄”と呼ばれる魔王の買っているペットの一匹です」
「魔王!? ペット!? ここの魔王はペットを飼ってるのか!?」
「もちろん戦闘用ですよ。イビルドラゴンはブラックオリハルコンとも呼ばれる超硬質の鱗に覆われ、黒い稲妻を放出し辺り一面を火の海にするといわれています。魔王城近辺に広がる黒雷雲を統べる魔王国の空の支配者ですね。今日倒したガイアドラゴンを含むすべてのドラゴンの頂点に君臨しています」
「……やっぱりバカだろギルドマスター、単騎というか、冒険者どうこうじゃなくて国がなんとかするべきモンスターだろそれ」
「ですね」
「で、そのイビルドラゴンに殺されかけていたのをアトが助けたのか。……一体どういう経緯なんだ?」
「まあ、たまたま魔王領に出かけていたらかなり派手に戦闘していたのが見えたので見に行ってみたんですよ。そしたら今にも死にそうなムスラさんが食べられかけていたので少し横からお邪魔したというわけです」
「それで、そのイビルドラゴンとやらは倒したのか?」
「いえ、とても強いドラゴンですよ? めんどくさかったのでムスラさんを担いでさっさと逃げてきました」
適当に話してしまったので何だかほむらさんが訝し気な顔をしていますが嘘偽りない事実です。
「あ、もうすぐ目的のお店につきますよ。ムスラさんやイビルドラゴンの詳しい話が聞きたければお店に入ってごはんを食べながらにしましょう」
お腹も空いていたので、私はほむらさんの手を引いてお店に向けて駆け出しました。
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