第20話 消失

「おい、アト! 危うく灰になるところだったし、引き裂かれてミンチ肉になるところだったじゃないか!!」

 

 うなだれるアークさんの声をかき消すようにほむらさんが抗議の声を挙げています。


「ないすでしたよほむらさん。ちょうど良い隙を作ってくれて楽ができました。それと灰にしようとしたのもミンチにしようとしたのもガイアドラゴンなので、文句はアークさんに言ってください」

「……それもそうか」


 怒るほむらさんはジロリとアークさんを睨みつけながらそうつぶやきました。

そんなほむらさんを横目に見ながら私はアークさんに歩み寄りました。


「さて、お仲間さんも手ごまのモンスターも全滅となりましたがそろそろ詳しく話を聞かせてもらえますか?」

「何も話すつもりはない」

「強情ですね、とりあえずあなた方がこの王都内で何をしようとしていたのかとその目的を教えていただきたいのですが」

「……」

「ほむらさん」

「痛い!! 待て! 話す! 話すからやめてくれ!」


 ほむらさんがアークさんの腕を今にも折りそうな勢いでひねりあげたことでアークさんの口が開きました。


「俺たちは王都内でめぼしい人物を攫っていただけだ」

「情報が少ないですね。目的は? 攫った人たちはどこに?」


 私がアークさんからさらに話を聞こうと近づいた瞬間、アークさんの体に転移術式が発動しました。


「馬鹿め! 王都内からの転移が阻害されていたからな! 外部からの干渉で穴をこじ開けるための時間稼ぎだったんだよ!! じゃあな!」


 アークさんはそう叫びながら転移時に発生する術式の中でこちらをあざけっていました。


「そんなもの私が許可してるはずないでしょう?」


 足元に広がっていた転移術式がガラスが砕け散るような音と共に霧散しました。


「なっ!?」

「外部から王都内に次元干渉しようとするものに対しては反転術式が発動するようにしています」

「これであなた方が転移を使用していることも明確になりました。異界管理局としてあなた方を拘束し、別のところでゆっくりと詳しく話をきかせていただきます。“鉄鋼縛鎖アイアンチェイン”」


 アークさんを鉄条網で縛り上げて、合わせてほむらさんが倒した黒いローブの男たちも連行するため縛りあげました。


「ぐっ……」

「それでは道すがら少しお話しましょうか。アークさんはどうやってその転移を使えるようになったんですか?」


 私が問いかけるものの、アークさんはだんまりを決め込んでいます。


「話す気はないということですかね?」


 一切話をする気がなさそうなので気乗りはしませんが強制的に話を聞かせてもらうことにしましょう。


「”精神圧壊マインドアウト“」


 魔法を発動するとアークさんの頭がかくっと落ちて意識がなくなりました。


「さて、じゃあ記憶を読ませてもらいますね。と言っても聞こえてないと思いますが……」


 意識の落ちたアークさんの頭に指を当て記憶回想の魔法を発動しようとしたとき、アークさんが突然意識を取り戻しました。


「!? 意識消失のかかりが甘かった!?」

「……ぐわぁ!」


 アークさんが悲鳴を上げた瞬間、アークさんの全身が炎に纏われました。


「これは、自傷魔法!? 口止めですか!」


 全身を炎に包まれたアークさんはその数秒後に消えました。文字通り消えました。炎に包まれるアークさんの中心に黒い球体が発生し、アークさんはその球体に吸い込まれるように飲み込まれそのまま跡形もなく消えてしまいました。


「……一体何が起こったんだ……?」


 ほむらさんが困惑した表情でアークさんがいた場所を見つめていました。


「情報がもれる類の魔法をトリガーにして発動するトラップですね。炎上魔法と圧縮魔法でしたね」

「逃げられたのか?」

「いえ、逃げられてはない……まあ死んでしまったので逃げられたようなものですが」


 さきほどの重力魔法はアークさんの連れていた黒ローブの他の人達にも同時に発動したようで、この場にいた人たちは1人残らず死んでしまいました。


「粛清と口封じってところか?」

「そうでしょうね、重力魔法だけで一瞬で殺せるところをわざわざ延焼魔法で苦しみを与えていたように見えました。先に延焼魔法が発動したせいで私も重力魔法の方に対処が遅れたのでまんまとやられたと言えます」

「結局手がかりは1つ残らず消えちまったわけだな、どうするんだアト?」


 ほむらさんがトーンを落とした声で私に判断を仰いできましたが、正直どうしたものかというところですね。


「まあ、ほむらさんをここに呼んだであろう人物とつながりのありそうな組織が王都で暗躍していたということで、加えて王都外部から次元干渉できる協力者がいた。そして暗躍していた組織の人物は何者かに殺されたという事実を報告してどうするかは協議ですね。王都で大量の転移を発生させていた集団が彼らであればいくらかはこの騒動も収束に向かうのかと」

「だが、まだいるんだろ? そのアークを殺した、裏で糸引いているやつらが」

「えぇ、これ以上王国に被害が出ないように備えはしておくべきでしょう。加えて彼らに迷い子にされてしまった王都行方不明者の捜索は引き続きになります……問題山積みですね」


 私はそういうと何か手がかりになる物がないかほむらさんに周辺の探索を依頼し、その探索が終わり次第、地下通路から抜けて王城へ帰還することにしました。

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