第19話 地竜

「見ただけで分かるが、さすがにこれはマズイんじゃないか?」


 ほむらさんの世界にも強力な竜種がいるようで、今日一番の真剣な顔つきでドラゴンを注視しています。


「竜っていうと、あたしの世界だとほとんど神と変わらない扱いをされる生き物だぞ」

「それは、こちらの世界と同じですね」

「このガイアドラゴンっていうのはあたしでも倒せるか?」

「そうですね、ガイアドラゴンはマグマの中を潜行するほど耐熱性能が高い竜種です。ほむらさんの炎系統の術とは相性最悪ですね、そもそも倒す倒さないの前にこの狭い場所でこんな大きなモンスターに暴れられると迷宮が崩落してみんな揃って生き埋めかもしれません」

「ごちゃごちゃと相談しているようだが、上位冒険者が束になっても適わないモンスターだ! 諦めてこいつのエサになることだな。やれガイアドラゴン!」


 アークさんの命令と共にガイアドラゴンが大きく息を吸いました。


「おい、この予備動作は……!?」

「ほむらさん、側面に避けてください」


 ガイアドラゴンの動きを見てマズイと察したほむらさんは私が声をかけるより早く即座にドラゴンの正面から離脱しました。次の瞬間、超高温の青色の炎の渦がドラゴンの口から放出されました。


「鋼鉄をも溶かす“竜の息吹”だ! 跡形もなく消えてなくなれ!」

「“氷塊壁グレイシャーウォール”」


 私は氷壁魔法を発動し自身とドラゴンの間に巨大な氷の壁を張り炎をしのぎました。


「神の身をも焼き尽くす竜の炎を高々その程度の氷魔法で防げると思っているのか! 溶かして終いだ! 」


 確かにアークさんの仰る通り、このままでは氷が溶かされて炎が直撃してしまいますね。


「ほむらさん!」


 私が呼びかけると左側面に回避していたほむらさんがドラゴンの頭上に飛び上がりました。


「地面の中で寝てろ!! ”鋼剛脚”!!」


 ほむらさんの右足が鈍色に染まり、力が込められているのが遠目から見えました。ほむらさんの右足がガイアドラゴンの頭に強烈な蹴りを決め込みました。蹴りが直撃したガイアドラゴンの上あごが下あごにぶつかり、それと同時に”竜の息吹”も中断されました。


「くっ! 足いてぇ!! 硬すぎだろ!」

「邪魔くさい! ガイアドラゴン! そのガキを殺せ!」


 アークさんからの命令を受けたガイアドラゴンは即座に体勢を立て直し、まだ空中で身動きが取りづらいほむらさんめがけ再び”竜の息吹”を浴びせようとしています。


「”地殻槍”《グランドスピア》”」


 ほむらさんに息吹を浴びせようとするドラゴンを、今度は下あごからアッパーカットする形で私が魔法を放ち息吹を中断させました。一瞬ひるんだドラゴンでしたが、すぐに態勢を立て直し、着地したばかりのほむらさんに対して腕を振り下ろしました。


「ほむらさん!」

「問題ない!」


ドラゴンの鋭い爪を手持ちの刀で完全に受け止めました。


「問題ないとは言ったが……とんでもなく重い!!」

「ほむらさんナイスです。“氷塊縛鎖グレイシャーチェイン“」


 ほむらさんをそのまま上から押しつぶそうと注意を向けているドラゴンに対して横から氷の鎖を放ち、四足と首を縛りあげました。


「クソ! その程度の鎖! 構わずやれガイアドラゴン!」

「遅いです。”結凍花”ブルームフロスト“」


 ガイアドラゴンがほむらさんを炭にする炎を吐く前に、絡んでいた氷の鎖から青白い多弁の花が咲き乱れ、体温を急速に奪いました。体温を奪われたガイアドラゴンはほむらさんを上から叩き潰そうとしていた前腕が緩み、全身の動きも鈍くなりました。


「この魔法はなんだ!? ガイアドラゴン動け! ”体温向上ウォームアップ”!」

 

 ガイアドラゴンが冷やされて動きが鈍くなったことには気づいたのか、アークさんはガイアドラゴンの体温を上げようと魔法を施そうとしましたが、ドラゴンの腕から抜け出したほむらさんがアークさんに向けて飛び込み抑え込みました。


「おとなしくしないとその腕を切り落とす」

「ひぃっ!!」

「アト、こっちは確保だ」

「ほむらさんありがとうございます。こちらも動かれては面倒なのでかわいそうですが少し冬眠してもらうことにします。”獄凍ヘルグレイス”」


 動きが鈍くなっていたガイアドラゴンが動きを取り戻すより早く私の追加魔法が発動し、放たれた冷気が一瞬で全身を駆け巡り、ガイアドラゴンは完全に沈黙しました。


「おい! 起きろガイアドラゴン!」

「当分は目を覚ましません。ガイアドラゴンは体内にため込んだ熱の力を使ってすべてを溶かす高温の竜の息吹を放ちます。この特性から氷にも強いと勘違いされがちですが、高温を冷ましきる極低温下では活動を完全に停止します」

「そんな生態聞いたことないぞ……伝説級の竜種がこんな……」


 おそらく切り札であっただろうガイアドラゴンが倒されたことがいまだ信じられないのか、ほむらさんに抑え込まれているアークさんは膝をついて焦点の定まらない目で氷漬けになったガイアドラゴンの方を見ていました。


「さて、部下の方も全滅、モンスターの手ごまも尽きたかと思いますので、ゆっくりとお話のお時間をいただけますかね?」


 モンスターを氷塊で圧殺した際の返り血を凍結させて落としながら、ほむらさんに完全に拘束されたアークさんの方に歩み寄りました。

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