第18話 地下迷宮=>ダンジョン

「う、やっと目が……」

「目が見えるようになってきましたか、ほむらさん?」

「あぁ……ここが地下通路か?」


 ほむらさんは目をしばしばさせながら起き上がってきました。強制テレポートは慣れていないと一時的に意識を消失してしまうのでその影響で少しぼやぼやしています。


「さて、これでようやく不審人物の捜索が一歩進展したわけですが、ここがどこの階層なのかまったく分からないですね」

「そういえばこの後どうやって件の不審者を探すんだ? この地下に潜んでいるところまではアトは分かっているようだが」

「地上からだと反応が薄かったんですが、ここまで来ればもう少し詳しい場所まで索敵できるんじゃないかと思います」


 そういうと私は索敵術式を発動しました。全73階層のマップデータを読み取ります。


「この階層は47階層ですね。そして、ダンジョン内に私たち以外に30人ほど人を見つけました」

「30人!? 1人じゃないのか?」

「まず間違いなくその中の1人があの小屋にいた人物だと思います。一か所に30人なのでお仲間さんでしょうね」

「荒事になりそうだな」

「えぇ、じゃあ行きましょうか73階層に」


私とほむらさんは73階層にいるであろう今回の転移事件関係者のもとへダンジョン内を進み始めました。



「おい……」

「何ですか? ほむらさん?」

「このダンジョンにはこんな化け物が徘徊してるのか……」


 ほむらさんがジャイアントオークの死骸の上で息を切らしながらこちらをにらみつけていました。


「言い忘れていましたが、ランダムに飛ばされた先にはトラップとして協力なモンスターが配置されているそうです」

「先に言ってくれ! 仮にも王都の中でこんな化け物に襲われるだなんて思ってないだろ!」

「さっき『荒事になりそうだな』って言ってたじゃないですか」

「それとこれは話が別だろ!」

「まあまあ、もうすぐ48階層への階段ですよ」


 怒るほむらさんをなだめながら次々と階層をクリアしてひたすら下の階層へ向けて歩き続けました。


「ぜぇ…ぜぇ…、おい」

「いやぁ、ほむらさんに来ていただいて大変楽……助かりましたね」

「ほんとどうなってんだ、化け物だらけじゃないか」

「すごいですね、ヘルスネークも倒すとは恐れ入りました」

「見てないで手伝えよ!」


 赤青入り乱れた返り血まみれのほむらさんが息を切らしてブチギレながら言葉をまくしたてています。


「後で報酬は弾みますので、それよりいよいよ次の階層は目的地の73階層です、気合入れていきましょう!」

 念のため、ほむらさんをフル回復させて73階層への階段を下りました。

 73階層に降りたところで少し進むと大部屋があり、その奥の方に人影が見えたのでとりあえず挨拶を交わしておきます。


「こんにちは、いや、今はもうこんばんはでしょうか?」

「こんなところまでわざわざご苦労なこった」


 私が話かけた黒いローブを纏った長身の男性がそう答えました。


「こんなところまで……ということはあなたがさきほど小屋から逃げた方でしょうか?」

「ご名答だ、まさかここまで追いかけてくるとは思っていなかったがな」

「それは来た甲斐がありました。では少しお聞きしたいことがあるのでお時間をいただいても良いですか」

「俺もかわいい女の子とお話をするのはやぶさかではないが、あいにくこちらも時間がなくてね。お前の相手はこいつらだ」


 黒いローブの男が大きな声を出すと脇の通路から30人ほどの野蛮そうな人たちが現れました。加えて入ってきた通路からはさきほどほむらさんが倒したモンスターの上位種がわらわらと現れました。


「これは大変なもてなしですね…」

「十分なもてなしだろ? 感謝しながら退場してもらおうか!」


 その黒ローブの男の声かけと同時に数人が私の後ろに回り込んで切りかかってきました。


「“矢炎やえん“」

「ぐわぁぁ」


 切りかかってきた男性3人が炎の矢に撃ち抜かれ炎上しました。


「この人間たちの相手はあたしがしよう」


 姿を消していたほむらさんが現れ、そう言いました。


「後ろのモンスターもやってくれていいんですよ?」

「断る。モンスターはもういい」


 ほむらさんにきっぱり断られたので仕方なく後ろのモンスターは私が処理することにしましょう。


王蛇キングマンダ魔牙蛙デーモントード多獣蝙蝠キメラバット魔巨人サイクロプス…この子たちは使役しているんでしょうか」

「俺たちの使役獣だ、モンスター共!その女を殺せ!」

 

 男の指示に従いモンスター一斉に動き始めました。


「“氷塊の地落グレイシャーフォール”」


 モンスターの頭上に巨大な氷塊が生成され、氷は重力に従いモンスターの軍を押しつぶしました。


「な…!?」

「さて、まずはお名前からうかがえますか?」

「Aクラスの魔獣だぞ……何なんだお前は……」

「あれ、名乗ってませんでしたっけ? 人に名乗らせる前にまず自分からですよね、すみません。では改めて、異界管理局局長アトと言います。以後お見知りおきを」

「異界門管理局、じゃあお前が……」

「改めてお名前を教えていただけますでしょうか?」

「……アークだ」

「アーク……ほむらさんから聞いていた名前ではありませんね。あなたがそこの女の子をこの世界に転移させた方でしょうか?」

「そんなこと答えるわけないだろ?」

「そうですか……ではさきほど王都郊外の小屋を燃やして転移をしようとしたのはあなたですか?」

「これ以上お前に話をする必要はない!」


 アークさんが大きな声で叫ぶと後ろの通路から30mは優にあるモンスターが顔を出してきました。


「おいおい、竜かあれは?」


 黒マント、アークさんの手下っぽい人たちを一掃して戻ってきたほむらさんが少し焦りを見せた表情で言いました。


「ですね、モンスターの中でも群を抜く存在の竜種。黄金色の鱗に覆われた外骨格と前脚についた鋭い爪、地を統べる竜の最上位種、星の地殻に住むガイアドラゴンです」

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