第17話  ギルドマスター

 ギルドマスターの帰りを待つため、ギルド販売所の菓子とジュースを手に取り、たまたま居合わせた冒険者パーティの方々とお茶会を始めることにしました。その冒険者パーティの方々も依頼のため出発するとのことで、それを見届けて、仕方なくカロスさんを呼んでお茶会の続きを始めようとしたところギルドの扉が盛大にうるさく開かれました。


「おう戻ったぞ!」


 筋骨隆々のザ・冒険者のような風体のおじさんがギルドの入り口から入ってきました。


「ギルマス! お客さんです」

「あ? 俺に客?」


 椅子に座ってお菓子を口いっぱいにほおばるほむらさんと私の方に手を差し出し、カロスさんはその筋骨隆々のおじさん私たちを紹介しました。


「あんたは……アト局長!?」

「はい、ご無沙汰してます。ムスラさん」

「こんなところに一体何をしに…まさか俺をやりに…」


臨戦態勢になったムスラさんに驚くほむらさんを横目に、私はため息をつきながら話をつづけました。


「同行者も驚いてるのでやめてください。それと私はいつのまにそんな野蛮人になったんですか」

「いやぁ、あまりに久しぶりでつい冗談を。だが王都にいるのも驚いたが、それ以上に冒険者ギルドなんかに何の用だ?」

「王命で調査をしています。”下”に案内いただけますか?」


 私がそういうとムスラさんは驚いた顔をして、カロスさんに目をやり、それに無言でうなずき返しました。ムスラさんは状況を理解したのかすぐに『ついてきてくれ』と言ってギルマス部屋まで案内してくださいました。


「カロスからは地下通路の話は聞いていると思っていいか?」

「はい、話を聞いておおよそこの地下迷宮、ダンジョンができた理由や背景は察しています」

「それなら助かる。ところで調査ってのは俺がさっき国王に呼ばれて受けた、王都内に人を入れるな出すなの依頼と関係ありそうだな」

「同じですね、私が受けた国王陛下からの命の最中で不審人物に出会いまして陛下には王都封鎖をお願いしました」

「そうか、ここが地下へつながる扉だ」


 そういいながらギルドマスター部屋に着いたムスラさんが机に手をかざし魔力を流すと床に扉が出現しました。


「魔力隠蔽してるんですね」

「あぁ、特定の波長で魔力を流すと魔力隠蔽が解ける仕組みになっている」

「じゃあさっそく入って調査させていただいても?」


 さっさと入って終わらせたい私が扉を開いて中に入ろうとしたところでギルマスからストップがはいりました。


「聞いていると思うが、この地下通路は王国中に張り巡らされていて一度入ると……」

「はい、聞いていますがそれほど問題にはならないと思います」

「確かにアト局長ならとは思うが……一応これを渡しておく」


 ムスラさんは懐から小さな紙切れのようなものを取り出し私に渡してきました。


「これは?」

「通常は鍵を持っているものなら自由に場所を指定して入ることができるんだが、鍵のないものが緊急時に中から脱出できる魔法を封じたスクロールがあるんだ。それが今渡したスクロールだ。持って行ってくれ」


なるほど、広大なダンジョンを管理するのは大変だろうと思いましたが、専用魔術をスクロールに封じて複数人で管理していたんでしょうね。


「ありがとうございます。ほむらさんもいるので一応もう一枚いただけますか?」

「いや、その魔法自体がロストマジックで初代ギルドマスターしか作成方法がわからないのでスクロール枚数が限られていてな。それは俺が持ってる最後のスクロールだ」


「そうですか、それでは仕方ありませんね……ところでギルドマスターであるムスラさんは鍵をお持ちなのではないですか? であればスクロールをくれるよりムスラさんがついてきてくれる方が話が早いのですかダメなんでしょうか?」


 私がムスラさんについてきてほしいなぁという顔をしながら問いかけたところ、ムスラさんは非常に気まずい表情をしています。

 少し時間を置いて口を開きました。


「……すまない、カロスには歴代ギルマスが鍵を持っていると嘘をついているんだが……その、本当のことを言うと3代前のギルドマスターの時に鍵は紛失している。今あるのは国王と教皇の持つ2本だけだ」

「そんな大切なもの紛失したらまずいでしょ!」

「俺もそう思う」


 昔の人のせいだからという感じでムスラさんも何度もうなずいていました。


「伝え聞いた話では火山かどこかで落としたみたいな話を聞いているが、とりあえず俺は持っていない!」

「……つまり鍵がないのでムスラさんは来ても意味がないということですね」

「そういうことになるな!すまん!」


 ムスラさんは大きく笑いながらそう言い放ちました。


「お手伝いしてもらいたいのでほむらさんにはついてきてもらいたいんですが、スクロール1つで2人は転送できないのでしょうか?」

「一応範囲転送なので近くにいれば問題ない。大体半径2mぐらいだ」

「そうですか、であれば私とほむらさんで行きましょうか」

「わかったが……こんなところから本当に地下につながっているのか……」

「あぁ、中はとんでもなく広いから人探しってのは大変な気がするが、まあアト局長がなんとかするだろ気をつけてな嬢ちゃん」

「では行きましょうか、ほむらさん」

「りょうかい!」


 ムスラさんは近への扉を開いて私とほむらさんを中に誘導してくれました。扉の先には、階段が続いており、階段を下りた先にはテレポート術式が記された扉がありました。


「この扉の先に入るとテレポートが発動してランダムで飛ばされるんですね」

「あぁそうだ、俺はここで見送ることにする、何度も言うが十分気を付けてくれアト局長」

「大丈夫です、行きますよほむらさん」


 私はそういうとほむらさんの手を取り扉を開け中へ進むとテレポート術式が発動したのか眼前が真っ白になりました。

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