第16話 ギルド

 教会の白さ美しさとは真逆の、いかにもシックで猛々しい感じの大きな建物が冒険者ギルドです。

 教会を出た私とほむらさんは教会隣の冒険者ギルドのドアを開いて中に入りました。昼間ということもあり冒険者の数はそれほど多くありません。数名がクエストボードとにらめっこをしていたりいくつかのパーティがテーブルにかけて雑談をしている程度でした。


「冒険者ギルドって武人の集会所みたいな感じか?」

「ほぼ正解です。モンスターを討伐したり、何かの薬草や鉱物などを採集したりすることで人助けをする人たちが冒険者ですね。ギルドはその依頼を集約して所属する冒険者に割り振るための組合です」


 ほむらさんにギルドの説明をしながら、私は一直線に受付に向かいました。 


「ギルドマスターおられますか?」

「申し訳ありません、ギルドマスターは王城からの招集に応じておりただいま不在となります」


 私が問いかけると受付の方が返してくれました。


「そうですか、では今一番偉い方を呼んでいただけますか。ギルマス代理がおられるのではないでしょうか?」

「失礼ながら、どちら様でしょうか? アポイントは取られていますか?」

「すみません、アポは取ってないのですが、異界門管理局局長のアトと言います。陛下からの命で調査中の案件があり、ギルドに協力をお願いしたいです」


 私は自己紹介と合わせて、王都に入るときに使った身分証を提示しました。


「管理局のアト様でしたか! 大変失礼いたしました! すぐにギルドマスターの代わりの者を呼んでまいります!」


 そういうと受付嬢の方が少しお待ちくださいといって受付の奥に入っていきました。

 椅子に座ってジュースを飲みながらほむらさんと待っていると、受付の奥から金髪の髪を後ろでひとまとめにした若そうに見える男性がこちらに歩いてきました。


「アトさんですかね? はじめまして、本ギルドのギルドマスター代理カロス・ラーシャーと申します」

「はじめまして、異界門管理局のアトです」

「ギルドマスターから噂のほどは聞いています。お会いできて光栄です。それで王命による調査と聞きましたが管理局の方がギルドに何用でしょうか?」


 探るような聞き方でカロスさんが尋ねてきました。突然の訪問で少し警戒されてしまったようです。


「最近発生している行方不明者の多発が異界管理局の所掌に絡む案件ではないかということで国王陛下から調査と解決を命じられていまして、このギルド周辺に不審な事象を観測しているので調査させていただきたいです」

「我々冒険者ギルドがその事件に関与していると?」

「その可能性もありますね、ただそうでない可能性もあります。なので調査させていただきたく」


 私は遠回しに『白黒つけるために協力しなさい』と、満面の笑みでカロスさんに語りかけました。


「なるほど、ギルドマスターがいない中であまり好き勝手動かれるのも困りますが……まあ中を見て回るぐらいであれば……」

「あ、調査するのはギルドの中ではなくて地下です」

「地下?」

「はい、ここのギルドに地下室があるのではないですか?」

「いや、地下室はないですね……」

「では地下通路のようなものは?」


 私が地下通路について確認するとカロスさんは困ったような表情が周囲を見渡して、最後に私へ目線を戻して口を開きました。


「……アトさんだけ奥の執務室へ来ていただけますか」


 カロスさんはそういうと私だけ付いてくるように促してギルド受付から奥の方に入っていきました。私はほむらさんにここで待っていてくださいと伝えてカロスさんの後ろにつづきました。


「人のいる場所で大きな声で言えるモノではなくて、すみません」


 執務室に案内され椅子に座ったところでカロスさんがそう切り出しました。


「そんなに怪しい地下通路なんですか?」

「直球だとそういう言い方もできますが、何か悪いものではないと聞いています。失礼します、“上位魔法遮断エクサマナブロック”」


 そういうとカロスさんは外部からの魔法干渉を防ぐ高位の防御魔法を使用しました。


「さきほど言ったように地下通路はあります。ちょうどこの部屋の隣、ギルマスの部屋から繋がっています」

「あるなら話が早いですね、案内してもらえますか?」

「それはおすすめしないですし、今はできません」

「なぜ?」


 淡々と詰め寄っているとカロスさんが言葉を続けました。


「この地下通路は王国内の主要施設に直通する魔法通路、ダンジョン通路とも呼んでいます。鍵を持っていない者が入ると、王国中に張り巡らされた73階層の通路下層にランダムで飛ばされて確実に出られなくなります」


「何ですかそれ、怖いですね」


 長いこと生きてきましたが初めて聞きました。いつの間にそんなもの作ったんでしょうか。


「はい、怖いです。鍵を持っているのは私が聞いている限り3名です。ギルドマスター、原子教皇、そして国王陛下です」

「……なるほど、この地下通路はそういうことですか」


 なんとなく察しがつきました、この地下通路は有事の際にお偉いさんを逃がすための通路なんでしょう。ギルド黎明期、初代ギルドマスターか誰かが当時の国王、教皇の命令で作り、それ以降代々地下通路の管理はギルドマスターが行っているというところでしょうか。


「なので権限も鍵もない私が案内することはできません。アトさんならギルドマスターが戻られれば案内いただけると思うのでお待ちいただければ……」


 そういわれたので私は受付前で待ってもらっていたほむらさんの元に戻り、一緒にジュースを飲みながらおとなしくギルドマスターの帰りを待つことにしました。

 


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