第15話 追跡
転移した人物を探すため小屋に戻ってきたところで、どうやって追跡を進めるのか気になったほむらさんから問いかけがありました。
「でも転移だと結局追跡ができないんだろ? だから急いで王城に報告に行ったんじゃないのか?」
「その通りではありますね、ただ界振が発生する直前で“転移”を制限したので正当には転移できていないと踏んでいます。おそらく王都内からまだ抜け出せていないのではないかと思っています。周辺に手がかりがあるかもしれないのでそれを探しに来たというわけです」
「国王との話の中でもそんなこと言ってたな」
「そうですね、転移制限やテレポートの制限などあまり好ましいことではないんですが緊急ということで許してもらえました」
不審人物の消えた小屋、炎上してしまったので炭化した木材の崩れ跡を探ってみます。
「何かわかったか?」
「少し待ってくださいね……手がかりは残っているようですよ」
「ということは追いかけられるのか?」
「はい、おそらく可能です。当初の転移先で指定した場所がキャンセルされて、別場所につなぎ直した痕跡が見られます」
「よし! じゃあ行くか! どこなんだ?」
「……王都から逃げられてはいないのでしらみつぶしに探しましょう!」
「しらみつぶしって言ったって、王都は数km四方ぐらいあるんだが……もう少しヒントないのか?」
「転移は厄介なんですよね……でも、ある程度絞り込みはできてます。国王陛下にも門扉の閉鎖と不審者の捜索をお願いしているのでゆっくり追い込みましょう」
ほむらさんは少しめんどくさそう『仕方ないか……』と返事をしました。かといって私も面倒なことはしたくないです。
「ここからは推測ですが、転移に失敗した不審人物が次に考えることは再度転移することだと思います。なので何とか“転移”しようとするはずです。そうだとしたら……」
「界振の痕跡が残るのか? でもそもそも発動制限かけてるなら痕跡も残らないんじゃないか?」
「おっしゃる通りで界振の痕跡は残りませんが、その前段の発動しようとした履歴みたいなものは残りますのでそれを探します」
「そんなものもわかるのか」
「その人物の転移の情報がこの小屋の燃え跡に残っていますからね」
そういうと私は探知の術式を展開しました。
「すでに発生していた界振が30か所、今回の転移含め31か所、マーキングしてあるこの界振を除いて他に術式展開が試みられている場所を探ると………」
「……どうだ?」
「推測通りでした。見つけましたよ」
「おぉ! それでどこなんだ?」
「私たちが王都に来て初めて確認した界震の痕跡があった場所です」
そういうと私とほむらさんは来た道を急いで戻りました。
「ここは…一番初めに痕跡を探した場所、ギルドだよな」
「そうですね、最初に来た場所ではありますが、そちらではなくその隣です」
「教会?」
「そうです。この敷地内が探知術式にひっかかりました」
「そういえば教会って、ここは何を信仰してるんだ?」
詳しく話していなかったのでこの国の宗教について知っている限りほむらさんにお話することにしました。
「ここは"原子教"という宗教の教会です。原子教というのはこの国の国教で世界最大の宗教組織になってます。信仰しているのは"大いなる神"と呼ばれる神様ですね。」
「大いなる神ってずいぶんあやふやな名前の神様もいたもんだな」
「そうですね、この宗教自体は昔の聖女が世界巡礼した結果集まった信者が創設したもので、実はその時にはすでに神の名前は残っていなかったんですよ。世界創設の神であるとは伝わっていますね」
そんな感じで原子教と神様について話をしながら教会の敷地内にお邪魔してみました。
「こんにちは、責任者の方はいますか? この場所を少し調査させていただきたいのですが」
「アト様! ただいま責任者、司教様を呼んでまいりますので少々お待ちください」
たまたま声をかけたシスターの方が私のことを知っていたみたいで案外すんなりと話が通りました。シスターが連れてきた司教に事情を話したところ調査してもらって構わないとのことだったので敷地内をぐるりと見て回りました。
「おい、なにかわかったのか?」
ほむらさんが様子をうかがってきました。
「そうですね少なくとも建物の外ではないですね、建物内のように感じます」
「建物内も見て回っただろ?」
「まだ1つ調べてない場所がありますね」
そういうと私は司教に再度話をしにいきました。
「ネイル司教、調査へのご協力感謝します。ある程度調べた範囲内ではその不審者の痕跡は見当たらないようです」
「そうですか、それは困りましたね。私どもとしてもそんな話を聞いた後となると少し不安が残ります」
「それで最後に確認したいのですが、この教会に地下室ってありますか?」
私が疑問を口にしました。
「地下? いえ、この教会に地下室はないですね、せいぜいさきほどアト様も覗いていた階段下の倉庫室ぐらいのもので……」
「そうですか……それであれば残る可能性はあちらですね。ありがとうございました。教会自体は問題ないので安心ください。不審人物は私たちの方で対処しますので」
「アト様にそう言っていただけると心強い。引き続きどうかお願いいたします」
「はい、おまかせください。じゃあ行きましょうかほむらさん」
「??」
頭を下げる司教に挨拶をして、頭に?を浮かべるほむらさんは気にせず教会を後にして隣のギルドへ向かいました。
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